今年の男子テニス界で不在を一番残念に思った選手を選ぶとしたら、まず名前が挙がるのはロジャー・フェデラー(スイス)やラファ…

今年の男子テニス界で不在を一番残念に思った選手を選ぶとしたら、まず名前が挙がるのはロジャー・フェデラー(スイス)やラファエル・ナダル(スペイン)だろうし、中にはスタン・ワウリンカ(スイス)を選ぶ人もいるかもしれない。ではドミニク・ティーム(オーストリア)はどこらあたりに位置するだろう。ティームの不在がトップ選手たちの間の不均衡を大きくしたのはほぼ間違いなく、ティームは複数の理由から、男子テニス界の2人の重鎮と同じくらい復帰が必要とされていると、スポーツウェブメディアSportskeedaが報じている。【動画】ティーム 悲願のグランドスラム制覇の瞬間!【スーパープレー動画】ティームの一瞬でバックハンドウィナーを炸裂!

ティームは6月の「ATP250 マヨルカ」で手首に手痛い怪我を負い、回復に時間がかかることがわかったため、結果的にそれが彼のシーズンに幕を引くこととなった。ティームは今季の成績を9勝9敗で終え、シーズン初頭に耐え忍んだ不調がより強調される結果となった。ティームはほとんどの大会で早期敗退に終わり、最高成績は「ATP1000 マドリード」でのベスト4だった。

怪我による休止期間中にティームの世界ランキングは15位まで下がってしまった。しかし彼の過去の成績に基づくと、2020年の「全米オープン」覇者であるティームが一旦健康を取り戻せば、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)やダニール・メドベージェフ(ロシア)らと並んで男子テニスの最高峰に返り咲くことができるのはおそらく間違いないだろう。

2021年の男子テニスはジョコビッチとメドベージェフにほぼ独占され、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)も「東京オリンピック」や「ATP1000 マドリード」、「ATP1000 シンシナティ」、そして「Nitto ATPファイナルズ」で特筆すべき成果を残した。

芝コート以外の大会のほぼ全てで、ファンや賭博の胴元はこの3人に全幅の信頼を寄せていた。そして時計仕掛けのように規則正しく、この3人のうちの誰か(主にジョコビッチ)が結果を出し、テニスを大部分で予測可能なものにした。予測可能であることは特別悪いことではないが、全てを賭けられる選手が3人しかいないということは、テニスからいくぶんの輝きを奪ってしまう。フェデラーの最盛期に起こったのとまったく同じことだ。

クレーのシーズンにはステファノス・チチパス(ギリシャ)も結果を出し、「全豪オープン」でもナダルを破る番狂わせを演じたが、その後のツアーでは不本意な結果に終わった。一方、「全仏オープン」後にナダルがいなくなると、選択肢はさらに乏しくなった。しかし、彼の年齢と怪我の懸念を思えば、彼はクレー以外の大会で以前のように大きな脅威になりえるだろうか。ナダルが復帰すればもちろん選択肢は増えるであろうが、大部分がハードコートに支配されたツアーにおいて、メドベージェフやズベレフとの対戦で彼に賭けたいと思えるかどうかはまだわからない。

ツアーにおけるフェデラーの存在は、今やほとんど感傷的なものといえるかもしれない。2022年に41歳になることや、ここ数年の膝の怪我を考えれば、彼が「ウィンブルドン」以外のどこかで大きな脅威になるということは難しいかもしれない。

フベルト・フルカチュ(ポーランド)やキャスパー・ルード(ノルウェー)、マッテオ・ベレッティーニ(イタリア)、ヤニク・シナー(イタリア)、デニス・シャポバロフ(カナダ)のような選手たちは、資質を存分に発揮し、2021年に大きな成長を見せた。しかし現状では、彼らはジョコビッチ、ズベレフ、メドベージェフを常に脅かす存在には程遠い。

これが、ティームが重要な役割を果たせる部分だ。ティームは過去に、ジョコビッチ、メドベージェフ、ズベレフ、そしてナダルとフェデラーに対しても、立ち向かう以上のことができることを証明してきた。現在28歳のティームは、メドベージェフとの対戦成績では3勝2敗と優位に立っており、ズベレフとは11回対戦して8度勝利。チチパスにも5勝3敗と勝ち越している。

ビッグ3との対戦成績を見ると、ティームはジョコビッチには5勝7敗、ナダルには6勝9敗、そしてフェデラーからは7試合で驚きの5勝を挙げている。こうした数字から、ティームがビッグ3と次世代の両方に対する防波堤となる存在であることは明らかだ。健康で好調である時はいつでも、ティームは両集団の選手たちにとって悩みの種となる。

現在、ハードコートでのジョコビッチの脅威にはメドベージェフとズベレフが挙げられる。クレーでは、チチパスとナダルがこれに加わり、代わりにメドベージェフは除外されるだろう。完全に健康なティームがいれば、ジョコビッチ、メドベージェフ、ズベレフの3人は、ハードコートの大会で優勝するのにより苦労するであろう。それと同時に、ティームはクレーでも強力な抵抗勢力となる。彼はこのサーフェスで、ナダル、ジョコビッチ、チチパスというクレー最強の3選手を破ったことがあるのだ。

しかし、ティームはトップ10選手のうち下半分の選手に対しては、対戦成績で負け越している。ベレッティーニはティームと5試合対戦して3勝を挙げており、アンドレイ・ルブレフ(ロシア)も同じ成績を残している。一方、フルカチュは2度の対戦の両方でティームを破り、勝率を100%としている。ティームとルブレフの対戦成績は興味深い。メドベージェフとズベレフにはおおよそ一方的にやられているルブレフであるが、現在はティームから3試合連続で勝利を挙げていることを考えると、彼はティームの本質を見抜いているようだ。

このように、ティームはジョコビッチ、メドベージェフ、ズベレフ、ナダル、チチパス、そしてフェデラーを苦戦させられる一方で、トップ選手のうち下位の面々に対しては困難に直面しているという事実により、彼はバランスの調整役として完璧な選手と言える。

またティームは発言においてもプレーにおいても、善良さしか発することがない。環境保護運動を推進しており、海や蜂の保護のために活動している。ティームはさらに、彼に関心を持つスポンサーが車いすテニスに目を向けるように努めるなど、絶えず車いすテニスを支援している。

メドベージェフは一種独特なユーモアのセンスを持っているが、ティームが持っているような前向きなカリスマ性が欠けていると感じる人もいる。このため、ビッグ3の後に男子テニスの顔となる選手の候補としては、メドベージェフはティームに劣る。またテニスファンの中には、ズベレフが元の恋人からDV被害を訴えられていることを考えると、彼の全ての才能をもってしても男子テニスの顔になるべきではないと考える人々もいる。

新しい選手の顔ぶれにおけるこの空白こそ、ビッグ3が大舞台に別れを告げた時にティームがコート内外でのお手本として進み出られる立ち位置である。ティームはまだ何年もトップレベルでテニスを続けられるはずであり、その間にグランドスラムでの優勝回数を増やすであろう。だがもしティームが再びグランドスラムで優勝することがなかったとしても、能力の点とお手本になるという意味の両方で、ビッグ3が姿を消した後の男子テニスの顔になるべき理想的な人物はティームであると考える人は多い。そしてこの理由により、ツアーにはエンジン全開のティームの復帰が必要なのだ。

それに特にあの美しい片手バックハンドで、ティームが再び粉砕するようにテニスボールを打つ姿を見たくない人などいるだろうか。

(テニスデイリー編集部)

※写真は「全米オープン」でのティーム

(Photo by Al Bello/Getty Images)