ぱんちゃん璃奈インタビュー 前編 彼女はホンモノか? 2021年9月19日、さいたまスーパーアリーナで開催された『RIZIN.30』で、ぱんちゃん璃奈が念願のRIZINに初参戦。第1試合で、プロ40戦のキャリアを誇る百花選手と対戦して3-0…

ぱんちゃん璃奈インタビュー 前編

 彼女はホンモノか?

 2021年9月19日、さいたまスーパーアリーナで開催された『RIZIN.30』で、ぱんちゃん璃奈が念願のRIZINに初参戦。第1試合で、プロ40戦のキャリアを誇る百花選手と対戦して3-0の判定で勝利した。

 女子キックボクシングの試合がRIZINで行なわれるのは初めてのこと。YouTubeでの朝倉未来・海兄弟とのコラボや、バラエティー番組出演を機に「ぱんちゃん璃奈」という名は広く知れ渡った。RIZIN前のプロ戦績は11戦11勝。「知名度」「ルックス」「無敗」とスポットライトが当たるには十分だが、RIZINで女子キックボクシングが行なわれることに批判的な声もあり、"査定"の意味で試合を見ていた人もいるだろう。

 そうした否定的な声は、ぱんちゃん自身の耳にも届いていた。何より、そのポジションをもっとも理解していたのは彼女自身だった。



今年9月にRIZINで勝利した、プロ12戦無敗のぱんちゃん璃奈

***

――RIZIN初参戦で百花選手に勝利したにも関わらず、試合後には「倒せず、申し訳ないです」と謝罪の言葉がありましたね。

「悔しさというよりも、『なぜもっとできなかったんだろう』という気持ちが大きかったです」
 
――初めてRIZINで行なわれた女子のキックボクシング。背負っているものも大きかったのでは?

「みんなに『プレッシャーがすごくない?』と聞かれるんですけど、それはあまり感じていなくて、楽しみのほうが大きかったです。プレッシャーがあるとしたら、『絶対に相手を倒さなきゃいけない』ということですかね」

――「華だけじゃなく、しっかり実力のある選手として......」という言葉もありました。

「9月の大会は、実力で呼んでもらえた部分も10%くらいあったかもしれませんが 、やっぱり"華"の枠だったと思います。今は実力で試合を見てもらえる選手になることが夢です。デビュー当初もまったく実力がなくて、本当に"色物扱い"だったんですけど、ベルトを獲ったことによって周囲の見る目が変わった。でも、RIZINでは私がどんな選手なのか知らない方がほとんど。『話題性だけ』とも言われますが、実力でギャフンと言わせたいですね」

――すごく自分を客観視されているんですね。

「ネガティブなのでいろいろ考えるんですよ。そんなに自信はなくて、うぬぼれもありません。女子格闘家の中でKOで勝てる選手はRENA選手がいますが、その次の選手になるには、まだまだKOが少ないと思っています」

――RIZINという大きな舞台で、KOでインパクトを残したかった?

「女子キックの試合を実施することへの反対意見がすごく多かったんですが、それは私も理解できます。KO決着が少ないのが一番の理由です。だから最低でもダウン、『倒せる』ところを見せないと女子キックは需要がないと思うんです。RIZINではそれを最低ラインにしていたので、正直なところ勝って嬉しいとか、『やった!』という気持ちはなかったです。倒せなかったから、『今回はアンチの人が勝ったのかな』という気持ちになりました」

――どう勝つかが重要だったわけですね。

「試合前は、自分の練習どおりの力が出せれば、蹴りでもパンチでもダウンが取れると思っていました。でも、自分の動きがよくなかった。プロデビューからの12戦で"勝つための動き"はそこそこ出来ていると思うんですけど、倒すタイミングがまだ習得できていません。『今回も無理だったか』と、自分に対しての悔しさがあります」

――とはいえ、第1試合からほぼ席が埋まり、いわゆる"トイレタイム"にする観客もいなかったように見えました。

「第1試合目から埋まっていたのでビックリしましたし、みなさん、座って見てくださっていましたよね。入場の時も、『みんないるじゃん! 見に来てるじゃん!』とテンションが上がりました(笑)」

――KOに関しては、体重や筋肉・骨格を考えても、女子のアトム級(46.26キロ以下)では簡単ではないですよね?

「でも、少し階級が上のRENA選手も倒せるわけですし、他にもKOできる女子選手はいるので、そこに自分が入れてないのが悔しいです。そこに入った上で、頭ひとつ抜けた存在になりたいですね。

 正直、相手を倒すことができたら、試合内容にかかわらず自己評価は120点です。そこが自分の最大のモチベーションなので、逆に倒せなければ勝てても合格点をあげられない。ベルトが懸る試合などは勝つことを優先してもいいかもしれないですけど、そうでない試合は他の選手たちに差をつける戦いがしたいです」

――KOで勝利するために、自分に必要なモノは?

「私、待てないんですよ。『先に殴りたい、蹴りたい』という気持ちが強すぎて、攻撃を散らさないといけないのに、試合になると顔面ばかり狙っちゃう(笑)。だから、手数で勝つことはできても倒せないんです。私の階級では、腕力だけで倒せる選手はほぼいないと思いますし、倒すには手数よりタイミング、死角からの攻撃が大事。KOを狙いすぎず、落ち着いていくことが大切なのかなって思います」


女子キックボクシング界全体のためにも、

「倒す」ことに強いこだわりを持つ

 1990年代から2000年代にかけて、日本は、「PRIDE」、「K-1」が隆盛を極め、空前の格闘技ブームに沸いた。当時、女子の格闘技"ジョシカク"は皆無だったが、時を経て格闘技界も変化した。

 現在、総合格闘技では「DEEP JEWELS」、キックボクシングでは「RISE GIRLS POWER」など、女子だけの興行もレギュラーで行なわれている。「RIZIN」でも女子の総合が当たり前に組み込まれ、メインを飾ることもままある。新たなコンセプト「RIZIN TRIGGER」でも女子キックが1試合組まれ、今後も行なわれる可能性は十分。ぱんちゃん選手がその第一歩を記したことは間違いない。

――念願のRIZINのリングに上がってみていかがでしたか?

「これからも、何度でもリングに上がりたいと思いました。最初は『緊張するかな』とも思ったんですけど、『こんなにも大きな会場で試合ができるんだ』と楽しかった。逆に、お客さんが近い分、後楽園ホールなどでの試合のほうが緊張しますね」

――シンプルに楽しかった?

「花道を含めて、これまでとは楽しさの質が違いました。ファンの皆さんが応援してくれたり、一緒に楽しんでくれたりする花道も見せ場のひとつですが、入場曲(『ドラゴンボールGT』の主題歌のDAN DAN 心魅かれてく/FIELD OF VIEW)が2番までかかったのは初めて。それだけ大きな会場でできていることを感じて、『私、変わったなぁ』と。プロデビューから2年ちょっとで、そこに辿り着いた感動が大きかったです。プロになることは夢でしたが、1勝できるとも思っていなかったですから。自分のことを『すごいな』とも思いますし、諦めないでよかったです」

――YouTube「ぱんチャンネル」から女子キックボクシングに興味を持つ人も多いのでは?

「そうですね。私のファンだけじゃなくて、キックボクシングや格闘技を知らない方も見にきてくれます。興味を持ってくれる"入口"として、テーマを絞らずにYouTubeなどでいろんなことをやってきたことがよかったのかなと思います。そういう場面では、自分が楽しんでる姿を見てもらってファンになってくれたらと思っているので、遊びじゃないけど、"遊び感覚"でやっています(笑)」

――アンチからの声や、聞きたくない意見も届くと思うのですが。

「そのお陰で、動画の再生回数は上がりますからね。YouTube に上がっているRIZIN.30の私の試合も、再生回数は全体のトップ3に入っているので、みんなブーブー言いながらも見てくれてるのかなと。暴言などを吐く人は困るのでブロックするんですが、アンチの"意見"はブロックしません」

――アンチの声もエネルギー源になっている?

「すごくなっています(笑)。試合前は『アンチを黙らせよう』『悔しがらせたい』と思って練習しています。もちろん、ファンの方は試合に勝ったら喜んでくださるし、私のために泣いてくれる方もいるので、笑顔を見せたいという思いもありますよ。

 アンチは私がボコボコにされるのを見たいと思うんです。だから『今度こそ負けろ』と相手の選手をメッチャ応援するんですよ。だからこそ、私が勝った時の悔しさを考えると楽しいんです。メンタルが強いというわけではなくて、捻(ひね)くれているんですかね(笑)。あとは、勝つだけじゃなくて倒せればホンモノの選手になれるんですけど、なかなか判定でしか勝てず......。毎回、『次の試合こそ』と思っていますが、本当に次こそ実現したいです」

――注目の大晦日は?

「カードが決まるのはギリギリですが、もちろん出場を狙っています! 今は興行数が増えて、RIZINにもいろんな選手が出ていますが、大晦日は"日本格闘技の顔"という選手が出られる大会だと思っているので。出場が決まったらまたアンチが大騒ぎしそうですが、しっかり勝って悔しがらせたいです(笑)」

(後編:どん底だった7年間。「これを逃したら幸せになれない」>>)

取材協力:STRUGGLE

【プロフィール】
■ぱんちゃん璃奈(りな)

1994年3月17日生まれ、大阪府出身。幼少期から水泳をはじめ、中学3年の時に陸上部にスカウトされると才能が開花。しかし高校1年の時にオーバートレーニングによる疲労骨折で練習ができない日々が続き、高校を中退した。新たな環境を求めて上京し、現在所属するSTRUGGLEに入会。アマチュアで12戦11勝という戦績を残して2019年2月にプロデビューし、無敗のまま2021年9月にRIZINに初参戦して12連勝を飾った。現・KNOCK OUT-BLACK女子アトム級王者。リングネームは、『ドラゴンボール』に出てくる孫悟空の孫娘「パン」に由来する。