世界に先駆けて選手の育成システムを体系化し、50年以上にわたってモデルチェンジを繰り返してきた「育成大国」フランス。そ…

 世界に先駆けて選手の育成システムを体系化し、50年以上にわたってモデルチェンジを繰り返してきた「育成大国」フランス。その成果は実績として広く認知され、近年はヨーロッパ随一の選手輸出国としての地位を不動のものとする。

 たとえば、19歳になったばかりのエドゥアルド・カマヴィンガは、今夏にレンヌからレアル・マドリードに移籍して早くも高い評価を手にしている。しかし彼だけでなく、数多くのリーグ・アン出身の若手がイングランド、スペイン、イタリア、ドイツといった主要リーグに引き抜かれ、各チームで重要戦力となっていることは周知のとおりだ。



パリで生まれた17歳の神童モハメド=アリ・チョ

 そして今シーズンもその傾向は変わらず、有望な若手選手が続々と台頭。各チームの中軸を担うレベルに成長を遂げた「金の卵」がいる。その筆頭が、最近フランス代表にも定着したモナコの大型ボランチ、オーレリアン・チュアメニ(21歳)だ。

 ボルドーの育成センター出身のチュアメニに転機が訪れたのは昨シーズンのこと。その将来性に目を光らせたモナコが一昨シーズンの冬に買い取ったものの、当初はチームにフィットできずにベンチを温める試合が続いていた。だが、昨夏に新スポーツダイレクターに就任したポール・ミッチェルがクロアチア人ニコ・コヴァチを新監督に招き入れたことで、チュアメニのキャリアは大きく変わった。

 素早い攻守の切り替えをベースに、ボールを奪ってから縦に速く攻めるサッカーを標榜するコヴァチ監督は、4−4−2のダブルボランチとしてチュアメニと1歳上のユスフ・フォファナの若手コンビを固定。当初は粗削りなプレーでミスも目立ったチュアメニだったが、コヴァチ監督が我慢して起用し続けたことが奏功し、次第にパフォーマンスが安定するようになった。

 とりわけ不足していた戦術眼が飛躍的に成長したことで、得意のボール奪取に加え、的確なポジショニングと奪ったあとの展開力が劇的にレベルアップ。その結果、そのシーズンのリーグ・アン年間最優秀若手選手賞を受賞するに至った。

 今年8月にはディディエ・デシャン監督率いるフランス代表に初招集され、9月のボスニア・ヘルツェゴビナ戦で代表デビュー。10月にはネーションズリーグ決勝で先発フル出場を果たし、初優勝の原動力にもなったことは記憶に新しい。

 身長187cmの大型ボランチには、現在レアル・マドリードやマンチェスター・シティをはじめ複数のビッグクラブが触手を伸ばし、その移籍金は推定6000万ユーロ(約79億円)とも言われている。現在リーグ・アンで最も株価を上げているチュアメニが次にステップを踏むクラブはどこになるのか。今シーズンの活躍ぶりも含めて目が離せない状況だ。

 そのほか、現在特に目立った活躍を見せているフランスの若手選手としては、マルセイユのウィリアン・サリバ(20歳)と、ニースのアミーヌ・グイリ(21歳)が挙げられる。

 少年時代に地元ボンディでキリアン・エムバペの父親から指導を受けたことでも知られるサリバは、初めてリーグ・アンで台頭した2018−2019シーズンを終えると、その実力に目をつけたアーセナルが青田買いを断行。その後はローンでサンテティエンヌとニースで実績を積み上げ、ついに今シーズン、ローンで加入したホルヘ・サンパオリ監督率いるマルセイユで本格的にブレイクを遂げた。

 自慢は持ち前のスピードとフィードセンス。身長も192cmと申し分なく、空中戦でも抜群の強さを誇るサリバは、流動的に選手の立ち位置を変化させるサンパオリ戦術のなかで柔軟性と対応力にも磨きをかけた印象だ。試合ごとにスタメンと布陣を変えるサンパオリ監督からの信頼も厚く、これまでチーム随一のプレータイムを誇っている。

 わかりやすく言えば、マンチェスター・ユナイテッドのフランス代表ラファエル・ヴァランの系譜を継ぐモダンなディフェンダー。おそらく来夏は、保有元のアーセナルとマルセイユの間で激しい綱引きが行なわれるに違いない。

 一方のグイリは、カリム・ベンゼマをはじめ数々の名手を輩出する名門リヨンの育成センター出身のアタッカー。2017年のU−17欧州選手権で7ゴールを記録して得点王に輝くなど、若くして将来を嘱望された屈指のタレントだ。

 選手層の厚いリヨンでは出場機会に恵まれなかったが、昨シーズンに意を決してニースに完全移籍したことが大当たり。左ウイング、2トップの一角、1トップと、前線の複数ポジションでプレーしながら覚醒し、リーグ戦で12ゴール7アシストをマークした。

 さらに、昨シーズンにリールをリーグ優勝に導いたクリストフ・ガルティエが新監督に就任した今シーズンは、4−4−2の2トップの一角として序盤から大活躍。昨シーズン以上のハイペースでゴールとアシストを量産するなど、昨シーズンの活躍ぶりがフロックでなかったことを証明している。

 エムバペが最近のインタビューで「国内で注目している選手」としてグイリの名前を上げるほど、その評価は急上昇中。アルジェリアにルーツがあるため、将来はアルジェリア代表を選択する権利を有するが、本人はあくまでも"レ・ブルー(フランスA代表の愛称)"を目指すと公言。近い将来、フランス代表に招集される可能性は十分にあるだろう。

 そしてもうひとり、まだブレイクとは言えないが、注目を浴びる規格外のダイヤの原石がいる。開幕からスタメンとしてプレーするアンジェの神童、モハメド=アリ・チョ(17歳)である。

 2004年にパリ郊外で生まれたチョは、パリ・サンジェルマンの下部組織でプレーしたあと、2015年に両親の仕事の都合によりイングランドに移住。11歳の時にエバートンに入団すると、イングランドU−16代表でもプレーした。

 2020年、再びフランスに戻ったチョはアンジェの下部組織に加わり、昨シーズンにトップデビュー。スタメンは1試合だったが、試合終盤に登場するインパクトプレーヤーとして21試合に出場した。

 そして今シーズン、開幕から2トップの一角としてレギュラーの座を掴むと、第4節のレンヌ戦で記念すべきリーグ・アン初ゴールを記録するなど、ひと回り成長した姿を披露。ここまで13試合(そのうち10試合がスタメン)に出場し、2ゴールを記録する。

 最大の武器は、エムバペ級のスピードと突破力。17歳には見えないフィジカルも魅力的で、フィニッシュの精度と戦術理解度が磨かれれば、間違いなくワールドクラスに到達できるだけのポテンシャルを秘めている。今夏には飛び級でエスポワール(フランスU−21代表)にも招集されたチョが、今シーズン中にどこまで進化を遂げるのか。今後のパフォーマンスは要注目だ。

 ここで挙げた選手以外にも、現在得点ランキングで首位タイに位置するリールのカナダ代表FWジョナサン・デイヴィッド(21歳)、あるいはレンヌに新加入してさっそく規格外のプレーでブレイクしているガーナ代表FWカマルディーン・スレマナ(19歳)など、近い将来主要リーグにステップアップしそうな外国籍の若手も多いリーグ・アン。

 即戦力がほしいなら、まずはリーグ・アンから探せ。ヨーロッパサッカー界に定着した「選手獲得の方程式」は、今後も揺らぐことはなさそうだ。