連載『上村彩子 RUN SAEKO RUN!』■TBSの上村彩子(かみむら・さえこ)アナウンサーが現場で取材した大会でのエピソードや舞台裏、インタビューしたアスリートの魅力や意外な一面などを伝えてくれるこの連載。今回は、東京五輪の柔道で「兄…

連載『上村彩子 RUN SAEKO RUN!』

■TBSの上村彩子(かみむら・さえこ)アナウンサーが現場で取材した大会でのエピソードや舞台裏、インタビューしたアスリートの魅力や意外な一面などを伝えてくれるこの連載。今回は、東京五輪の柔道で「兄妹同日金メダル」の快挙を達成した阿部一二三選手と詩選手について。インタビューを通じて感じられたふたりの兄妹愛を伝えます。



阿部一二三選手、詩選手について語ったTBSの上村彩子アナウンサー

 先日、スポーツ情報番組『S☆1(エス・ワン)』で、東京五輪で大活躍した柔道の阿部一二三選手(66kg級金メダル)、詩選手(52kg級金メダル)の兄妹にお話を伺う機会がありました。

 かつて五輪3連覇を達成した柔道家の野村忠宏さんがプロデュースする柔道教室「野村道場」のオンラインイベント後に、阿部兄妹、野村さんの3人そろってのインタビューでした。

 この日、野村さんが1996年アトランタ、2000年シドニー、2004年アテネの五輪3大会で獲得した3つの金メダルを会場に持ってきてくれていて、ずらりと並んだ金メダルを前に、阿部兄妹は大興奮。詩選手はシドニー大会のメダルを手に取り、「私が生まれた年だ!」と、笑顔を見せていました。

 私が意外に思ったのは、ふたりが野村さんから金メダルを見せてもらうのはこの日が初めてだったこと。阿部兄妹にとって野村さんは柔道の大先輩でもありますが、所属するマネジメント事務所の代表取締役という間柄でもあります。


阿部兄妹の

「兄妹同日金メダル」を会場で取材した上村アナ

 なぜこれまでメダルを見せてもらう機会がなかったのか聞いてみると、一二三選手が「自分が金メダルを獲ってから見たいと思っていました」と説明してくれて、続けて、「オリンピックを経験すると、連覇するすごさは相当なものだと感じます」と話していました。詩選手も「金メダルをひとつ獲るだけでも苦しいと思った自分が情けないです」と3連覇の偉大さを実感しているようでした。そして、そんなコメントをする詩選手のストイックさが印象的でした。

 このインタビューは、阿部兄妹が野村さんに「連覇について聞く」というテーマでした。野村さんは「3連覇への道のりは常に辛かった」と振り返ります。「プレッシャーもどんどん大きくなるし、世界中からマークされ取り組みの厳しさも増していく。自分が求めた道だけれど、世界一になるための練習や心の持ち方は日々自分と向き合わなくてはいけないからものすごく苦しかったです」と語りました。しかし、その苦しいなかで勝ち獲る金メダルだったからこそ、幸せも何倍にも感じるのでしょう。

 そして、野村さんは「ふたりともすでに世界トップレベルになっているから次に向け伸ばせるところは限られている。弱点を埋めていくとともに、伸ばせるところは伸ばしきりながら技のバリエーションを広げていくのが大切」と伝えたうえで、それぞれに技術的なアドバイスを送っていました。

 一二三選手には「足技のバリーション強化と寝技の向上」を課題として挙げていました。背負投や袖釣込腰を得意とする一二三選手ですが、東京五輪に向けては足技を強化してきたそう。本番では初戦、準々決勝、決勝を足技で決めました。立ち技を磨ききり、足技のバリエーションを加え、そこにワンチャンスでの寝技もあるとなると「隙のない選手になれる」と。寝技については「詩(選手)に習ったらいい」と冗談まじりに話していました。

 詩選手へは、「なんでもできるのですでに隙がなく、自分で考えられる選手だから言えることはない」と太鼓判を押しつつ、「あえて言うならば、袖釣込腰に入るふりをして大外刈りというような、フェイントがもっとうまくなればより強くなる」と助言していました。

 さらに野村さんは「兄妹」の強みに触れ、「強みを学び合って、ふたりで力を合わせていけば次のパリ五輪でも金メダルを獲れるはず」と激励。東京五輪で阿部兄妹が金メダルを獲得した当日は、五輪連覇を果たした谷亮子さんに『S☆1』にご出演いただきましたが、その時に谷さんも「兄弟愛で最高の力を引き出せたと思う」と話していました。

『S☆1』に東京五輪前に、詩選手が出演してくださった時に「兄がいたから今の私がいる。背中を追いかけていっている」と話しているのを聞き、私もふたりの兄妹愛を強く感じました。

 五輪の会場を取材した際は、詩選手が自分の優勝を決めたあとも緊張した面持ちで一二三選手の試合を見守っていました。ついに一二三選手が決勝で勝つと、飛び跳ねて喜びを爆発させました。兄を想う気持ちがとても伝わってくるシーンでしたね。

 インタビューや取材を通してひしひしと伝わってきたのは、和気あいあいとした仲のよさではなく、競技者としてリスペクトし合い、お互いからなにかを学び取ろうというふたりの姿勢。大人っぽい兄妹愛を感じさせる阿部兄妹ですが、詩選手がインタビューなどで、たまに一二三選手のことを「お兄ちゃん」と呼ぶのはギャップがあってかわいいなと思いました。

 さて、インタビューの終盤では、ふたりがそれぞれ今後の目標を語りました。一二三選手は高校生の時から公言している究極の目標「五輪4連覇」。野村さんの前で堂々と語れるのはすごいです。詩選手はパリ五輪で「兄妹同日連覇」。大会スケジュール的にも、それぞれの階級で同じ日の決勝となるようです。阿部兄妹ならやってくれそう、と期待してしまいますね!!

■プロフィール
上村彩子(かみむら・さえこ)
1992年10月4日、千葉県生まれ。
【担当番組】
『S☆1』(土/24:30〜、日/24:00〜)、陸上・サッカーなどのスポーツ中継、Nスタ(水・木)、『JNNニュース 1130』、『ひるおび!』内ニュース、『ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜』内ニュース(木・金)、『東大王』(ナレーション)