最終回に登場するは、今シーズン限りで退任される内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)だ。内田監督にとって全日本選手権…
最終回に登場するは、今シーズン限りで退任される内田大介監督(昭54教卒=長野・岡谷南)だ。内田監督にとって全日本選手権兼全日本大学選手権(全日本・インカレ)が、最後の試合となる。1か月の大会延期など、監督として難しい対応が求められる中、ここまでどのようにして早大漕艇部をまとめてきたのだろうか。そして、最後の大会へ意気込みも伺った。
※この取材は10月16日に行われたものです。
ものすごく長いシーズン

――本日はよろしくお願いします。まずは今夏に行われた東京五輪について伺います。早大漕艇部は、クロアチアやイタリアと関わりがありますが、監督
はどのように東京五輪を見ていましたか
賛否両論ありましたが、開催できてよかったと思います。スポーツの文化や熱を、日本が享受できたと思いますね。早大と関係のあるイタリアですが1年間の延期によるスケジュール変更から、日本での事前練習拠点がないという事態に陥っていました。そこで私自身の地元である下諏訪町に事前キャンプを行えないか掛け合い、段取りをつけたりしましたね。またクロアチアとは2017年から漕艇部と交流がありますが、今回金メダル・銀メダルを獲得した選手とも現地で交流をしていました。彼らも日本での事前練習地の確保に困っていたので、漕艇部としてサポートに動きました。
――海外との交流がある漕艇部だからこそ、1年延期による問題の解決に動かれていたということですね。そんな東京五輪で印象的なシーンはありますか
やはりクロアチアの2クルーがメダル獲得してくれたことですね。クロアチアの地で一緒に肩を組んで写真を撮っていた選手が、オリンピックチャンピョンになったことは感慨深かったです。またOGの大石(綾美、平26スポ卒=愛知・猿投農林)もBファイナルとなりましたが、最後まで頑張っていたと思います。
――今回は早慶レガッタ以来の取材となります。早慶レガッタを終えてから、春、夏とどのように過ごされてきましたか
「学生はよく頑張った。」その一言に尽きると思います。各リーダーと部の運営について話し合いながら進めてきましたが、自主ルールを作りしっかりと順守してきました。大学生というのは、お金がなくとも時間があって自由に動き、スポーツ以外も見たり聞いたり様々なことを経験できる、人生で一番輝ける時間のはずです。それさえもできない上に、大会も長期にわたって行われず目標を見出すこともできない中、毎日ここで練習とオンライン授業を聞くという、極めて継続が難しい状況でありました。それでもここまでクラスターを発生させることなく維持できたことは、自慢できることだと思いますし、本当に頑張ったと思います。
そして9月末に行われる全日本選手権で、シーズンが終わるはずでしたが、1か月伸びたことも大きかったです。ものすごく長いシーズンとなってしまいました。休ませたいのですが、大会が控えているために休ませるわけにもいかず、監督してもつらいところです。肉体的にも精神的にも疲れがたまっている中、よく頑張っていると思います。
――大変な苦労があった春夏でしたが、特に部全体として取り組んできたことはありますか
新たなアドバイザーが入ったこともあり、漕ぎの技術で目指すところが、より明確にシンプルになりました。これまでもクロアチアからコーチを招へいして、早稲田の選手に適した漕ぎを探ってきましたが、元五輪選手の中野さんに入っていただき、クロアチアのコーチが言葉の壁で伝えきれなかったことまでアドバイスしてもらっています。その技術をこつこつ積み上げてきて、現在はだいぶ完成度が高くなっています。
――技術という点が、早慶レガッタ時と比べると大きく変わった点になりますか
そうですね、テクニックの精度は上がりました。またクルーのユニフォーミティーもですね。個人としての精度、クルー全体としての精度、その2つが格段に向上したと思います。
――先ほど影響が大きかったというお話もありましたが、今回9月に行われるはずであった全日本大学選手権(インカレ)と全日本選手権(全日本)の延期、そして併催での開催が発表されました。監督として難しい状況であったとは思いますが、どのように動かれてきましたか
実は、全日本大学ボート連盟の代表を私が務めています。全日本は日本のトップを争う場、インカレは大学からボートを始めた地方の学生も出場を目指すという普及の面も兼ねた場というように、二つの大会は全く異質の大会です。ですが同時開催となり、大学生の参加制限が必要となりました。当初日本ボート協会側からは、参加資格を厳格にし、参加人数を大幅に減らすという話がありましたが、そんなことは「インカレに出たい」とつい昨日まで練習に励んでいた学生に対しあまりにも非情であり、なんとか回避できないかと方法を探りました。僕の方からこうしてほしいと提案し、結果として前日にタイムトライアルを設けることとなりました。それまでどういうやり取りが協会間でされているのか、早大の学生や周囲に共有と発信をしていました。なので、あまり大きい混乱は生まれなかったと思います。
――レースができるという安心感を与えていたわけですね
エントリーの時点で、もうダメということは回避できました。タイムトライアルで人数を絞ることに関してはこればかりはしょうがないよねと、多少なりとも納得はできるという形になりました。
――4年生に関しては引退の時期もズレることになりました
4年生だけでなく、みんな9月で一区切りというところで1か月の延期は長いものです。そもそも東京五輪開催の関係で長いシーズンとなる予定で、9月に3、4年生は一区切りし、新人は10月末まで強化を行うというはずでした。今シーズンはとにかく長いシーズンとなりました。ここまで伸びると、私自身もどうやっていけばいいのか、苦労しています。
――また今回の延期に伴い、10月末に予定されていた全日本新人選手権大会(新人戦)は消滅してしまいました
新人戦が2年続けてなくなってしまったことは、本当に残念です。現3年生は昨年新人戦があれば、男子はエイトで優勝できていましたし、女子もクォドで優勝できていました。そんな目の前にあるはずだったレースがなくなってしまった1、2年生に対しては、マイルストーンを置いてあげることが一番大事だと思います。出場する東日本新人大会はローカル大会で距離も半分ではありますが、練習試合の組みにくい漕艇にとっては、貴重なマイルストーンになると思います。またどの大学にとってもマイルストーンがなかったので、今年は6月に中央、明治と共にタイムトライアルを行ったり、学生連盟の方に2回ほどレースができる場を作ってもらいました。
完全燃焼へ

――監督が今シーズン限りで退任されると伺いました。退任を決めた背景などを伺ってもよろしいですか
私の両親がかなり高齢となり親孝行をできるうちにしなければという思いと、私自身が学生のタイムテーブル合わせて生活することが体力的にだんだんきびしくなってきたことが主な理由ですね。後進に道を譲る、ちょうどいい機会だと思います。新たな伝統を築き上げていってほしいですね。
――退任されるにあたり、しっかりと継承したい点はどんなところでしょうか
「感謝」ですね。知らないうちに充実した環境でボートをできているわけではない、ということです。少なくとも私が監督になった際には、船も傷だらけで、食事も満足に食べられないような状況でした。
――厳しい状況からのスタートだったんですね
まず取り組んできたこととしては、食事の改善、環境の改善、組織作りがあります。食事に関してはそれまでのケータリングサービスを辞め、自分たちで作るように変えました。調理器具を揃えるのも大変でしたが、学生の調理で合格点に近い食事になりました。また練習後に必ず食事することを習慣にでき、結果として競技力改善につながりました。環境面では艇庫の改善に取り組み、自腹きっていくところもありましたが、朝同時に多くのボートを出す必要があっても、スムーズに出せるようにしました。「朝練時間15分を創り出す」を掲げていましたね。組織づくり面では、指揮命令系が水平では恨みや妬みで人間関係の破綻につながってしまうので、指揮命令系を縦にしました。このようなことに、最初の2年間は特に苦労しましたね。
――初めの2年間だけでも、多くのことに取り組まれてきたのですね。今回のインカレを終えてから、また改めて監督の8年間を取材させていただきたいと思います!
一夜にして今があるわけではなく、たくさんのことがありました。
――再び全日本・インカレに向けて伺っていきます。今大会における早大の目標を教えてください
全日本選手権を行い、その中で大学の順位も決めるという大会でありますが、男子エイトは今のメンバーで100日以上練習していますので、出場するからにはトップを狙います。今年の男子エイトは突出したパワーがあるわけではありませんが、精度がすごく高いので、パワーをテクニックで上回り、どこまで頂点に迫れるかというところです。その他のクルーも、上位6チームのA決勝に進みたいですね。女子も同じくテクニックが高い傾向です。今年は1、2年生も多く出場します。少しでも精度を上げてより無駄のない漕ぎを目指し、社会人に少しでも迫りたいです。
――インカレというくくりの中ではいかがですか
インカレでは男子エイトは絶対優勝ですね。女子は総合4連覇したいですね。
――男子エイト勝利へのポイントはどこでしょうか
総合力ですね。それぞれが自分の役割を果たしてください、というところです。
――女子についてはいかがですが
クォドでは宇野(聡恵、スポ4=大分・日田)、ペアでは大崎(未稀、スポ4=福井・美井)の4年生ですね。しっかり仕上がってきているので、宇野には最後まできっちりまとめてほしいです。大崎はスイープに自信があるので、今年こそ一番高いところに立ってほしいですね。フォアにも、4年の大槻(のりか、スポ4=宮城・佐沼)が乗っています。未経験者と3年、2年という中で、大槻がリーダーとして頑張ってくれると思います。
――大会当日まで、どのように詰めていきたいですか
強度の高い練習が明日の17日ほどまでで、それからは練習量を落として疲れをとり、スピードを上げていきます。メニューの量を減らすと確実にスピードは上がりますが、力を出しやすくなったからといって、パワーに頼らないように。今まで少しずつ積み上げてきた技術を大事にして、パワーに頼らないようにしていきます。
――監督として最後の大会となります。最後にどんな姿で締めくくりたいですか
学生と苦楽を共にしてきました。もちろん一番高いところに立ってほしいですが、今年の早慶戦に向けてスタートした1月からずっと頑張ってきたので、ご苦労さんと納得感を持って終えたいですね。
―――では最後に、改めて意気込みをお願いします
完全燃焼。自分も含めて、完全燃焼したいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 樋本岳、 写真 土生諒子)

◆内田大介(うちだ・だいすけ)
早稲田大学教育学部卒。東京五輪ではクロアチアやイタリアのため、そして本大会にむけては全大学生のために、先頭に立って行動をされてきた内田監督。本来は自由に輝ける大学生であるはずなのに、コロナ禍で厳しい制限の中、ここまで継続して頑張ってきた学生のことを誇りに思うとお話してくださいました。そんな学生への想いやりにあふれる監督も、本大会で退任となります。最後に「完全燃焼」していただきましょう!