ジャパンオープンでトリプルアクセルに成功した樋口新葉 フィギュアスケート新シーズンの本格的幕開けを告げるジャパンオープンで、出場した女子6人のうち、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に挑んだ選手は4人。成功したのは2人で、そのひとりが20…



ジャパンオープンでトリプルアクセルに成功した樋口新葉

 フィギュアスケート新シーズンの本格的幕開けを告げるジャパンオープンで、出場した女子6人のうち、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に挑んだ選手は4人。成功したのは2人で、そのひとりが2018年世界選手権2位の樋口新葉だった。

 この日、北京五輪シーズンに向けて「弾みをつける大会にしよう」と心に誓っていた樋口は、試合で初めて完璧なトリプルアクセルを跳んでみせ、出来栄え点(GOE)で2.40点の加点がついた。国際スケート連盟(ISU)非公認大会ながら、出場選手中トップの136.27点をマークし、自己ベストの134.51点を上回る出来だった。

「最初のトリプルアクセルから3回転サルコウまでの3つのジャンプを続けてできたことがすごくよかったと思います。トリプルアクセルは、踏み切りの方向と跳び上がりの浮きの感じがすごくいいタイミングで合っていて、ずれなかったのがよかったです。

(GOEで)プラスをもらえたのは初めて。ちゃんと跳べて降りた感覚はすごくあったんですけど、演技が終わったあとのスロー(映像)で見た時に、また『q』(4分の1の回転不足のマーク)がついちゃうかなという不安はあったので、もうちょっと完璧に跳べばよかったなと思いました」 

 現在20歳の樋口がトリプルアクセルに取り組み始めたのは13、14歳のジュニア時代。当時は女子で最も難しいジャンプだった。今は若手のロシア勢が4回転ジャンプを跳ぶ時代になったが、前方から踏み切るトリプルアクセルが女子にとって大技のジャンプであることは変わらない。。スケーティングスピードがあり、高さと幅のあるジャンプを跳べる樋口は、世界を目指すための大きな武器にしようとトリプルアクセルの習得を決めた。

 それから数年後、その大技ジャンプで初めて着氷できたのが、2017年4月の世界国別対抗戦の公式練習だった。翌シーズンは平昌五輪を控えた大事な五輪シーズン。トリプルアクセルを手に念願の五輪代表入りを狙ったが、自分のものにするまでには至らず、ジャンプ練習のしすぎからケガも負ってしまう。シーズン後半に失速して全日本選手権では4位に終わり、五輪代表切符を逃して悔し涙を流した。

「五輪の借りは五輪でしか返せない」と言われるが、北京五輪シーズンの今季、五輪の舞台で活躍することを目標に掲げる樋口には期するものがあるに違いない。

 ジャパンオープンで見せた鮮やかなトリプルアクセルは、無駄な力を使わない軽やかで豪快なジャンプだった。「特別な練習をしてきたわけではなく、気持ちで締めるという考えで練習してきただけ」と、シンプルな心境に至ったことが功を奏したようだ。

 練習での初着氷から初めて試合で成功させるまで4年半の月日がかかった。一時は諦めかけたこともあったが、コロナ禍の昨季は出場する試合が減った一方で、じっくりとジャンプ練習をする時間が取れた。そのおかげでトリプルアクセル以外のジャンプが安定し、トリプルアクセルの練習に費やす時間的余裕も生まれたという。

「ほかのジャンプのミスが少なくなって余裕が出てきたので、トリプルアクセルを練習する余裕がたくさんあった。練習時間が多くなって、気持ち的にも余裕をもって練習に臨めてきているのがよかったんじゃないかなと思います。まだ、アクセルを跳べても『あっ、跳べた』と思って次のジャンプに向かってしまうので、跳べて当たり前と思える練習をして、よくても悪くても動揺しないようなプログラムにしたいです」

 勝負のシーズンの新フリーは、熱い思いを込めた躍動感と迫力ある曲調の『ライオンキング』となった。印象的な振り付けも取り入れるなど、この作品にスケート人生のすべてをかけるという意気込みは強い。

「自分はいままでいろいろなプログラムを滑ってきたんですけど、いろいろなジャンルのプログラムが合わさった、自分のすべてが入っているプログラムにしたいと思って『ライオンキング』を選びました。自分の人生を全て伝えられるようなプログラムにしたいと思います」

 今季はフリーだけでなく、ショートプログラムでも演技冒頭にトリプルアクセルを組み込むつもりでいるという樋口。五輪代表選考会となる12月の全日本選手権まで2カ月半。北京五輪の本番まであと半年もない。残された時間は多くないが、やるべきことをしっかりと見据えて前進するだけだ。

「4年前の悔しい気持ちを忘れることなく、この4年間を頑張ってきたので、最後までしっかり集中をきらさずに自分の演技をしたいと思います。今季は目標をちゃんと持って、それに向けてしっかり調整も練習も楽しくできているので、集中して全日本まで頑張って、悔いの残らないシーズンにしたいし、オリンピックに出るという自分の夢を叶えたいと思っています」

 大会を重ねるごとにトリプルアクセルを磨き、手ごたえと自信を深められれば、勝負のシーズンを戦い抜いて目標を達成できるはずだ。