すべてのカテゴリーが オリンピックで勇躍、女子は史上初の銀メダル 東京2020オリンピックでは5人制女子代表が銀メダルを…

すべてのカテゴリーが オリンピックで勇躍、女子は史上初の銀メダル

 東京2020オリンピックでは5人制女子代表が銀メダルを獲得。3x3は男女とも決勝トーナメント進出を果たし、5人制男子代表も、勝利こそつかめなかったが、今後に期待を持たせる戦いぶりを見せてくれた。そして、9月21日には男子代表の次期ヘッドコーチにトム・ホーバス氏、そのトム・ホーバス氏が率いた女子代表ヘッドコーチには恩塚亨氏が就任することが発表された。
 これまでのオリンピックまでの取り組み、そして今後について日本バスケットボール協会(JBA)技術委員会委員長を務める東野智弥氏に総括してもらった。このインタビューは8月下旬に行われたものだが、次期男女代表ヘッドコーチについての考え方も表れている。

 

川淵三郎チェアマンと東野智弥氏

川淵三郎元チェアマンに銀メダル獲得の報告を行った東野智弥氏

 

─オリンピックが終わり、一つの区切りになると思いますが、振り返ってどう感じていますか。
「当初から目標としていた5人制男女、3x3男女4カテゴリーが全てオリンピックに出ることができました。そのうち3カテゴリーが決勝ラウンドに進出しています。そして5人制の女子代表はオリンピック史上初の銀メダルを獲得することができました。そのようなことをトータルで考えれば、一定の評価ができる結果だったと思います。
 では個々の目標に対してはどうだったでしょうか。男子はワールドカップと比べて評価できる戦いができましたが、勝ち星を得られず、決勝トーナメントに進むことはできませんでした。3x3の女子はメダルを取りたかったですね。男子もメダル獲得と言っていましたが、これまでの実績を踏まえれば、オリンピックで2勝し、劇的なストーリーで決勝ラウンドに勝ち上がったのは上出来な結果だと言えます。5人制女子は金メダルを目標に掲げており、だからこその銀メダルだったと思います。これまでオリンピックでのメダル獲得はなかったのですから、すばらしい結果でした」

─女子代表の銀メダル獲得は、本当に日本のバスケットボール界に希望を与えてくれました。
「東京2020オリンピックで活躍を期待された選手たち、渡嘉敷来夢、本橋菜子、梅沢カディシャ樹奈といった選手が、オリンピックが1年延期となる中で、次々に故障してしまいました。選手が戻ってこられるか分からないといった状況で、チーム作りはとても難しいものでしたが、きちんと準備をして臨んでくれました。
 トム・ホーバスヘッドコーチが本当にすばらしい仕事をしてくれました。すでに、さまざまなところで称賛されていると思いますが、戦術、戦略的に長けていました。彼の厳しい指導が注目されましたが、それに付いてこられる女子の土壌があったのだと思います。それは、これまで積み上げてきた日本の女子バスケの勝利と言っていいでしょう。身長に劣る選手たちの戦い方を極めようと積み上げた戦いぶり。その時々、指導者によって違いはあるものの、脈々と引き継いできたのだと思います。アトランタオリンピックでの中川文一さんや、アテネ、そしてリオを率いた内海知秀さんといった歴代代表チームのコーチたちはもちろん、アンダーカテゴリーですばらしい選手たちを輩出し続けてくださっている高校、中学、ミニやクラブなどの指導者の方々。そうした皆さんの勝利でもあります。一つの集大成を作れたのだと思います。
 2016年、リオオリンピック後に内海さんからトムHCに代わるとき、メダルを取ると断言しました。リオではベスト4は逃したものの、すでにアジアカップでも連覇をしていましたし、コーチの交代は首をひねられた方もいたと思いますから、プレッシャーはありました。アジアでは4連覇を果たしていますが、ワールドカップでベスト8に入れない結果となり、そこでトムはしっかりとアジャストしました。日本語をこれまで以上に勉強するようになり、自分の言葉でコミュニケーションを取るように心掛けてきました。アジャストしつつ、それでいて信念は曲げずにやってきたのです。その結果として、彼女たちが見本のようなチームとしての戦いをしました。
 ベスト4を懸けたベルギー戦もそうでした。ベルギーはとてもいい状態で、これまでにないほどシュートも入れてきました。35分間ベルギーの勝ちゲームでした。それでも、日本は粘り、ボディーブローのようにちょっとしたことを積み重ね続けました。やり続ける力と、最後までお互いを信じてサポートし合ったのです」

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─そうした中で、今後の課題はどんなところでしょうか。
「足りなかったのはアメリカに勝つことだけでした。アメリカは勝てない相手だったのだろうかと考えます。今回のメンバーは何度もオリンピックに出場している選手が多く、経験がある反面、年齢は高く、付け入るスキもあったのではないかと思います。
 アメリカに勝つには、金メダルを獲得するには何が必要だったでしょうか。常に課題とされる“高さ”はもちろん、必要だったと思います。アメリカには10本以上(12本)ブロックされましたから、やはり、高さには慣れていなかったわけです。何が良くて、何が足りなかったのか。いろんな材料を得ましたから、その課題をクリアしていかなければなりません。
 金メダルを取るためには、これまでの流れを踏襲してやればいいのかというと、そうではないと思っています。女子はFIBAランキング8位になりました。安定してトップレベルに位置しなければ、ランキングは上がりません。当然、金メダル獲得とともに、世界ランク1位を目指す。こうした目標を持つとするならば、リーグの制度改革も含めて、国際基準にあった状況にしていかなければならないと思っています」

─アジアカップがもう始まります。若手の選手たちを恩塚亨コーチが率います。
「さらにステップアップするために、選手たちのマインドの部分を大切にしたいと思っています。コーチから言われてやるのではなく、選手が自分自身でワクワクしてやれるようなマインドです。今回、アジアカップを指揮する恩塚亨コーチはそれを言い続けています」

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1勝に届かなかった男子代表。ディティールを求めていく土台はできた

─男子代表の戦いぶりを振り返ってください。
「5人制男子については何とか1勝を挙げて、決勝トーナメント進出を果たしたいといったことが目標でした。そのシナリオはいくつかありましたが、OQTから最後に決まったスロベニアがとても強く、予選最後に当たるアルゼンチンがターゲットになるというのが、可能性が高いだろうと考えていました。しかし、他チームの状況によっては、対戦前に予選敗退が決まってしまう可能性があったのですが、アメリカがチェコに35点差を付けて勝ってくれたことで、アルゼンチンに勝利すれば、決勝トーナメント進出が可能になるという最高のシナリオになったのです(日本が決勝トーナメント進出を果たすには、得失点の兼ね合いでアメリカがチェコに32点差以上付けることが条件だった)。しかし、そのチャンスを生かすことはできませんでした。
 それまでの国際強化試合から含め、戦いぶりはワールドカップの時より飛躍的によくなったと思っています。初戦のスペイン戦も77-88と見どころのあるゲームを展開できました。ここまで階段を上ってきたという感触は得ていました。しかし、世界の舞台で勝ちを得るために、ここぞというときに何ができるのかという課題が残りました。
 例えばスロベニア戦、ルカ・ドンチッチが3ファウルでベンチに下がった場面。ここで何かを起こさなければならなかったわけですが、何も局面が変わらなかった。逆に点差は広がっていってしまった。最後の6分間はいったい何だったのか。アメリカが点差を付けてくれたからよかったですが、35点も差を付けられるのではなく、もっと点差を詰め、悪くとも20点以内にしておかなければならなかった。
 そしてアルゼンチン戦。4点差までいきました。しかし、ここからなぜ点差が広がっていってしまったのか。確かに、ギャビン・エドワーズの故障の影響もありましたが、そうしたことも含めてチーム力であり、まだまだ底上げが必要なのです」

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─世界の大会で1勝をあげるために足りなかったことはなんでしょうか。
「ワールドカップの5連敗、オリンピックで3連敗。チーム力は向上していますが、これが結果です。次のワールドカップ沖縄大会では、中国、イラン、フィリピン、韓国といったチームよりもしっかりと上位に入り、パリオリンピックに出場しなければなりません。
 しっかりと検証し、何が足りてなくて、どうすれば勝てたのかを導き出して、どういう体制で臨むかを決めていかなければなりません。もちろん、その準備は進んでいます。
 8月11日に、大会総括の会見を行いましたが、その時点からパリオリンピックまで1080日でした。時間は東京オリンピックに向かう時より少ないのですが、何をどうすればいいのかといったおぼろげな絵は描けるようになってきています。目標ははっきりと見えています。
 それはアジアのトップになること。それは世界のベスト8に入る力です。八村塁、渡邊雄太といったスター選手に頼りきりになるのではなく、チームとして力を付ける。ハイパフォーマンス(代表チーム)は、世界で勝つための戦術をちゃんと持っているか、チームとしてどう戦っていくかを確立していかなければなりません。スーパースターがアイソレーションして戦っていけるほど、世界のバスケットボールは甘くありません。もちろん、スイッチなどの展開の中でのアイソレーションは効果的な場合もありますが、そこに至るまでの戦術が必要です。
 例えば、女子はしっかりとそれを構築していました。町田瑠唯選手は、大きな選手がスイッチしてくるまでアイソレーションを始めません。大きい選手に付かれ、速さのミスマッチをうまくつき、アシストにつなげていきます。決勝でのアメリカは、そこをシュートしかできない状況に追い込み、ブロックに行くという対策を採ってきましたので、新たな課題が見えました」

日本のバスケットボール界全体の 成長が表れた結果

─他のカテゴリーも目標には届かない部分もあったと思いますが、その戦いぶりはすばらしかったと思います。
「満点ではありませんが、各カテゴリーで、世界の舞台で強豪チームと渡り合うような戦いぶりを見せてくれたと思っています。3x3の女子はアメリカに勝利を挙げました。コロナ禍にあって、コンタクトのある室内スポーツ。しかもチームスポーツですから、簡単な道のりではありませんでした。この結果は正に組織の勝利だと思っています。ですから、三屋裕子会長をはじめとするJBAが女子代表選手たちだけではなく、スタッフにも報奨金を与えるといった評価をしてもらえたことは、とてもうれしく感じています。
 こうした評価がないと、次に進むエネルギーが枯渇してしまうでしょう。これは直接的に代表に関わったスタッフばかりのことではありません。私が技術委員長に就任して、オリンピックまで1527日でした。そして1年延期になり1891日になりました。技術委員会を作り、それぞれの委員が自発的に、責任を持ってやるべきことを遂行してくれました。これは誇るべきことです。トップの強化だけでなく、育成年代の取り組み…、マンツーマン促進やリーグ戦文化の醸成、Bリーグのユースチーム創設など、さまざまなことをお願いしてきました。指導者のライセンス制度も、指導力を高めるために努力できるように改訂しました。こうした全ての動きの集大成が東京2020オリンピックだったのです。ですから、2016年のリオオリンピックから2020年の東京オリンピックへの取り組みは、バスケットボールファミリー全体で、自分たちを褒め、良かったと励まし合い、次へ進む糧にしてほしいのです」

─さまざまな施策があり、日本のバスケットボール界全体が成長を見せたということですね。
「満足しているわけではありません。悪いところがあったのは確かです。ただ、粗探しばかりしても進めません。いいものは評価し、悪いものは改善していく。決して満足せず、エネルギーを持ってやれるかどうかが、次につながると思っています。
 日本のバスケットボール界は変化して、成長しました。これは痛みも伴うことでしたから、それによく耐え、遂行したと感じています。しかし、これからは、さらに上を目指すには、もっと大変になります。ようやく世界と戦うスタートラインに立てたばかりですから。
 オリンピックでは、自分たちのいいところ、ダメなところが明らかになります。世界と戦うための課題と位置が見えたのが何より良かったです。そして忘れてはならないことが国として戦うという意識です。こうしたものは実際にオリンピックで海外の選手、他の競技の選手たちと寝食を共にしたことで、感じることがあったと思います。日本として戦うといった意識が生まれるんだと思っています」

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─日本はチームで、組織力で臨みました。どこよりも準備ができていました。これからは自国大会というこれほどの、サポート、態勢は組めないといった不安はありませんか。
「チームで、組織で戦ったということは間違いないことです。自国開催のオリンピックが特別だったのも間違いありません。ですから、これまでとは同じようにできない部分も出てくるかもしれません。しかし、バスケットボールはそうした負の影響が小さな状況にあります。例えば強化費にしても、伝統的に強い競技ではなく、また国際連盟から事実上の制裁措置を受けていた経緯もあり助成金は多くありません。他の団体では強化費のほとんどを助成金に頼っているケースもある中で、幸か不幸かバスケットボールはそうではないので、これまで同様の強化活動ができる見込みです。そんなことも含めて、自分は強化と事業の接着剤だと思ってやってきていました。お金がなければ、強化ができないのも現実としてあるからです。
 事業のスタッフたちと向き合いながら、コートに行けば、技術的なサポートをすることもあります。スランプの選手に進言することもありました。林咲希選手は強化合宿中にスランプの状態でしたが、恩塚亨アシスタントコーチ(現ヘッドコーチ)の協力も得ながら、シュートフォームのチェックをし、アドバイスもしました。オリンピックでは、ベルギー戦の前に、林選手がコートからサムズアップ(親指を立てるグッドサイン)してくれたので、『今日はやってくれる』と思っていたんです。
 日本は組織として戦うことができます。積み重ねることができる状況です。ですから、きちっと筋道を立て、やるべきことをやり続けることが重要なのです」

─最後に、バスケットボールファミリーに向けたメッセージはありますか。
「今回のオリンピックの結果は、47都道府県すべてのバスケットボールに関わってくださった人たち、育成で頑張ってくれた先生たち、保護者、そしてファンの皆さんも含めすべての方々の力、たまものなのです。小さな選手でも、力を結集することで世界のトップを狙えるということを、女子代表が見せてくれました。3x3、男子でもその可能性を感じさせてくれたと思います。そうしたことを通して『バスケで日本を元気にする』ということができるのだと思います。その姿、晴れ舞台を会場で見てもらうことがかなわなかったのが、残念でなりません。
 私は3Cと言うのですが『change(チェンジ)できるchance(チャンス)にchallenge(チャレンジ)する』のが大切だと思いますし、日本のバスケットボール界はそれができたと思っています。そして、それはこれからも重要なキーワードになります。これからも挑戦を続け、積み上げていくことが日本のバスケットボール界はできると思っています」

(飯田康二/月刊バスケットボール)