「オープン球話」連載第84回 第83回を読む>>【入団当初から、守備固め要員レベルの堅実性】――前回までは、侍ジャパン監…

「オープン球話」連載第84回 第83回を読む>>

【入団当初から、守備固め要員レベルの堅実性】

――前回までは、侍ジャパン監督として日本に金メダルをもたらした稲葉篤紀さんについて伺ってきました。今回からは、稲葉さんとは同期で、1995(平成7)年にヤクルト入りした宮本慎也前東京ヤクルトスワローズヘッドコーチについて伺っていきたいと思います。

八重樫 慎也がヤクルトに入団したときには僕は二軍のバッテリーコーチだったんで、その時点では彼とは接点はなかったんです。ただ、入団時から守備に関してはピカイチで、当初からプロでも高レベルでしたね。特にスローイングが正確で驚きましたよ。



2000本安打を達成し、表彰式で野村克也(左)に祝福を受けた宮本慎也

――捕球技術はもちろん、送球に驚いたんですか。

八重樫 内野手の送球というのは、もちろんコントロールが大切なんだけど、慎也の場合はボールの回転がすごくきれいなんです。だから、ファーストもすごく捕りやすい。仮にワンバウンドしても、変な跳ね方をしないから、どうバウンドするのかが予測しやすい。そういう選手は意外と少ないんです。守備に関していえば、プロ入りの時点ですでに守備固めとしては使えるレベルの選手でしたね。

――そうなると、課題はバッティングですか?

八重樫 そうですね。これは有名な話だけど、野村監督は「守備だけで攻撃できない」という意味で、慎也のことを「自衛隊」と言っていましたからね。僕も直接、ノムさんが言うのを聞いていたけど、野村監督は慎也のバッティングを当初は評価していなかった。

――八重樫さんからはどのように見えていましたか?

八重樫 確かに非力ではあるんだけど、僕は「いいものを持っているな」という思いはありましたよ。

――どういう点が光っていたんですか?

八重樫 慎也は、アウトコースのボールの捉え方が上手だったんですよね。外角に関しては、ストライクゾーンからひとつ、ふたつ外れていても、しっかりと芯で捉えることができるんですよ。当初、僕も「どうしてなんだろう?」と思っていたんだけど、あとで本人に聞いて謎が解けたことがあるんです。

【欠点は「型通り」にこだわりすぎること】

――どんな謎なんですか?

八重樫 本人曰く、「僕、実は腕が長いんです」って言うんだよね。実際によく見たら、確かに長いんですよ。だから、アウトコースのボール球でもしっかりと届く。ファールで逃げることもできるし、きちんと捉えることもできたんですよ。

――そうなると、課題はインサイドのさばき方ということになりますね。

八重樫 普通はそうなんですけど、慎也の場合はインサイドを打つのも上手だったんです。長い腕を蛇腹のようにきちんとたたんで、しっかりと内角球をさばくことができる。でも、実際にその技術を披露することはすごく少なかったんですよ。

――それは、どういうことなんですか?

八重樫 僕が二軍監督時代に、慎也もファームにいて集中的に指導したことがあるんだけど、固定観念に縛られすぎているというのか、とにかく「型通り」なんですよ。常に逆方向に打つことばかりを意識していて、引っ張ることがほとんどなかったんです。

――いわゆる「進塁打」「チームバッティング」の意識が強すぎるということですか?

八重樫 そうですね。一度、慎也に聞いたことがあるんです。「ノーアウト、ランナーセカンド。この場面ではどんなことを考えて打席に入る?」って。そうすると彼は「ランナーを進めるために右打ちをします」と答えたんですよ。

――何も間違っていないと思いますが......。

八重樫 確かに、それは正解です。でも、相手ピッチャーとの相性だったり、得点差だったり、さまざまな状況の中で、時には思いきり引っ張らなければいけないシチュエーションもありますよね。後続のバッターのことを考えたり、ベンチに残っている代打陣のことを考えたりすると、監督としては「お前が決めてくれ」という場面もあるんです。そういう時のことを含めて、慎也には思いきり引っ張るバッティングもしてほしかった。フリーバッティングを見ていて「インサイドを上手に打つな」と思っていたから、なおさらなんです。

――八重樫さんの言葉を受けて、宮本さんのバッティングに変化は生まれたんですか?

八重樫 いや、変化はなかったですね。きっと、アマチュア時代からの教えが身体に沁みついていたんだと思います。だから、もう一度彼を呼んで、「まだ直ってないぞ」と告げたら、少しずつ変わっていった。せっかく、バッティングもいいものを持っているんだからね。

【「時には思いきって引っ張る」という意識改革】

――「バッティングもいいものを持っている」というのはどういう点なんですか?

八重樫 まずはタイミングの取り方。次にボールを捉えるポイント。それぞれ、なかなかいいものを持っていました。さっきも言ったけど、アウトコースは腕の長さを生かして、しっかりと捉えることができる。一方のインサイドも腕を上手にたたんで、しっかりと引っ張ることができる。でも、なかなか試合では引っ張ろうとしないことがもどかしかったんですよね、僕からしたら。タイミングはいい、ポイントもしっかりしている。この2点を兼ね備えている選手は、なかなかいませんから。

――そうなると、身体に沁みついたものを一度、削ぎ落す作業や、考え方をリセットする工程が必要になってきますね。

八重樫 ましてや、当時のショートは池山(隆寛)がレギュラーとして君臨していたから、時代は「打てるショート」が必要だったわけです。いくら、当時は池山が衰えつつあるとはいえ、慎也にはバッティングでも頑張ってもらわなければいけなかった。もう一段上の選手になってほしかった。だから、「思いきって引っ張ってみろ」ということを彼に告げたんです。

――ある種の意識改革を促そうとしたんですね。

八重樫 それもあるけど、「考え方をラクにさせてあげよう」という狙いもありましたね。一度リセットして、イチからバッティングに臨んでほしかったんだけど、どうしても自然に体が反応してしまうんですよね。ただ、何度も言っているうちにインサイドのボールをしっかりと引っ張れるようになってきて、「これなら一軍で通用するぞ」というレベルに達しました。その点はやっぱり、非凡なものを持っていたんだと思いますよ。あくまでも考え方の問題だけだった気もしますね。

――宮本慎也さんについては、まだまだ伺いたいと思います。ぜひ次回もどうぞよろしくお願いいたします。

八重樫 慎也の場合は、他の選手にはないキャプテンシーが大きな特徴だから、次回はその点についてお話ししましょう。次回も、どうぞよろしくね。

(第85回に続く)