筒香嘉智(ピッツバーグ・パイレーツ)の覚醒は、チームにとって今季最大級のうれしいサプライズになった。 現地時間(以下同…

 筒香嘉智(ピッツバーグ・パイレーツ)の覚醒は、チームにとって今季最大級のうれしいサプライズになった。

 現地時間(以下同)8月29日、本拠地でのカージナルス戦に「6番・ライト」でスタメン出場した筒香は、2点を追う9回裏、1アウト一、二塁の場面で、相手守護神のアレックス・レイエスが投じた初球のスライダーをフルスイング。右翼スタンドの場外に消える第5号の逆転サヨナラ3ランを放った。その飛距離は約129mという特大弾であった。



パイレーツ移籍後、すでに5本塁打を放つなど打撃が好調な筒香

 試合中継で実況はこの瞬間を「右翼へのフライボール、これは行ったか? ヨシ・ツ!ツ!ツギョー!サヨナラだ!ツ!ツ!ツギョー!」と興奮気味に伝えている。また、この劇的勝利の立役者となった筒香を、『MLB.com』や『CBSスポーツ』といった大手メディアは大きく取り上げ、「信じられない」と驚きの声をあげ、「彼はチーム最高の打者だ」と高く評価している。

 パイレーツのデレク・シェルトン監督も、この試合後の会見で「(サヨナラ3ラン)はこの上なく印象的だった。これはヨシの功績だと考えている」と述べ、「私たちは(筒香がドジャース傘下のマイナーチームで重ねてきた努力の)恩恵を受けている」と称賛している。

 筒香はパイレーツ加入後から8月30日までの27打席で打率は.333。長打は二塁打が2本、三塁打が1本、本塁打が5本で、長打率は1.037と驚異的な数字を残した(9月の2試合を含めると、35打席で打率.286、長打率0.857)。現地メディアが大絶賛するのもうなずける活躍ぶりで、貧打に苦しむチームにとってまさに最高の存在となった。

 しかし加入当初、筒香がこれほどの活躍ができると予想していたメディアは少なかった。むしろ、あまり期待を寄せていないような印象すら見受けられた。

 地元紙『ピッツバーグ・ポスト・ガゼット』でパイレーツ番記者を務めるマイク・パーサック記者に取材をすると、筒香のパイレーツ入団について「(筒香が活躍できるかどうか)正直、懐疑的でした」と明かしている。同記者は、今は「最高の打者であることは間違いない」と評価を改めているが、当初は「以前のように苦労するのではないかという心配があった」と、正直な心境を語った。

 もちろん、最初から筒香に期待を寄せていた記者もいる。パイレーツ専門メディア『バックス・ダグアウト』のジェイク・スルボドニック記者は「正直、私は筒香が(日本時代のような)輝きをピッツバーグで取り戻せると期待していました」と述べている。

 筒香はスルボドニック記者の予想どおり、あるいはそれ以上の活躍で、パイレーツの地元メディアの印象を短期間で大きく変えた。

 また、筒香は地元スポーツメディア『DK・ピッツバーグ・スポーツ』から受けていた「速球に対応できないのでは」という懸念を見事に払拭している。

 パーサック記者は、「先日、ヨシは『速球を打つことに一生懸命取り組んだ』と言っていましたが、まさにそのとおりでした。本当に改善されていますし、それが今の成功につながっていると私は考えています」とコメント。さらにスルボドニック記者は「パイレーツが所属するナ・リーグ中地区は、レイズ(ア・リーグ東地区)やドジャース(ナ・リーグ西地区)に比べると速球の平均速度が遅く、変化球を多用する投手が多い地区ではありますが」と断りつつ、「速球に苦しむ姿はまったくない」と断言する。

 そして、彼らは、「間違いなく今季終了までパイレーツのロースターに残れる存在だ」とも評価する。そんな筒香が次に取り掛かるべき課題はライト守備への適応だ。

 8月28日、パイレーツは正右翼手で生え抜きのグレゴリー・ポランコをリリースした。今季が5年契約の最終年であったポランコは、2018年の打率.254、23本塁打、81打点という成績をピークに年々下降の一途を辿っていた。今季は107試合の出場で打率.208、11本塁打、36打点と不振のままで過ごし、チームは契約の満了を待たずリリースすることを決定。外野の守備枠がひとつ空いたことで、筒香には出場機会を増やせるチャンスが巡ってきたのだ。

 しかし筒香は、サヨナラ打を放った8月29日のカージナルス戦のライトの守備で、フェンス際の飛球のクッションボールの処理を誤って三塁打にしてしまう場面があるなど、いい印象を与えられなかった。本拠地PNCパークの右翼はフェンスが高く、フィールドも狭いため守備が難しいと言われている。シェルトン監督も「難しいポジションだ。この場所でプレーするほど、彼の実力は上がっていくだろう」と筒香を擁護し、引き続きチャンスを与え続けることを示唆している。

 現地では、筒香はファーストの守備が高く評価されているが、パイレーツにはコリン・モランがいるため一塁手としての出場は限られると見られている。筒香が今季終了までに右翼での守備力を上げることができれば、パイレーツのみならず他球団に対してもアピールができ、チャンスがさらに広がるはずだ。

 地元メディアはチーム方針や筒香の年俸(今季は5月まで在籍していたレイズが負担)のこともあるため、来季以降については「予想ができない」と話すが、「もし筒香が残ってくれるのであれば、是非とも来季もパイレーツの一員としてプレーしてほしい」と願っている。

 一時、崖っぷちに立たされていた筒香は、パイレーツ加入からわずか2週間ほどで現地メディアの評価を一気に覆した。今後も打撃力を維持し、複数のポジションで通用する守備力を証明できれば、複数のメジャーが興味を持つ選手になるかもしれない。