「さよなら、ロナウド」――イタリア人はこの言葉をどんな気持ちで言ったらいいのだろう。哀惜とともに? それとも安堵のため息…
「さよなら、ロナウド」――イタリア人はこの言葉をどんな気持ちで言ったらいいのだろう。哀惜とともに? それとも安堵のため息とともに? たぶんその両方だろう。
クリスティアーノ・ロナウドのユベントスでの冒険は終わり、イタリアでは相反するリアクションが起こっている。スター選手とそのすばらしいプレーが好きなサポーターは、ロナウドの移籍が現実となると落胆した。3シーズンで101ゴール決めるようなモンスター級のスターはそういるわけではない。ロナウド以上に日常的にチームを勝たせてくれる選手はいないだろう。
ただし、クラブ側はチームの経営もしなくてはいけない。ユベントスはロナウドが来てからずっと慢性的な赤字だった。彼の報酬はこれまでの誰よりも高いものだった。手取り年収は3100万ユーロ(約40億円)を3年間。税金なども払う必要があるので、ユベントスはその約2倍を払っていた。コロナ禍で無観客試合などを強いられ、世界的にクラブチームの経済状況がひっ迫している中、この金額はユベントスに大きくのしかかっていた。

ユベントスから古巣マンチェスター・ユナイテッドに移籍したクリスティアーノ・ロナウド photo by AP/AFLO
こう書けば、ロナウドのマンチェスター行きが決まった時、誰が安堵の息を吐いたかは明白だろう。マンチェスターでは彼を巡ってユナイテッドとシティのダービーが繰り広げられ、結局勝ったのはユナイテッドだった。だが、シティもがっかりしただけではなかっただろう。多くのサポーターは、ロナウドが入ることで、ジョゼップ・グアルディオラがここまで作り上げてきたチームのハーモニーが壊れるのではないかと危惧していた。それはグアルディオラの態度からもうかがえた。ロナウドのシティ入りがほぼ確定と言われていた際も、彼はほぼノーリアクションだった。
移籍の公式発表はかなり遅れたが、それには2つの理由がある。ひとつはワクチン接種の問題。イングランドサッカー協会はワクチンに対しては非常に厳格な規則をつくり、新たに登録する選手は必ず2回のワクチンを接種していなければならない。ロナウドは決して強固なワクチン反対派ではないが、「あまり必要性はない」と、これまで接種していなかった。
もうひとつは背番号の問題だ。CR7は今や世界的に知られたブランドだ。ロナウドとしてはもちろん背番号7がほしいだろう。ただ、直接は要求してはいない。「ユナイテッドの背番号7はすでに使われているのは残念だ」と匂わせただけだ。
その番号をつけているのはエディンソン・カバーニ。簡単に自分の番号を譲るとは思えない相手だ。おまけにこの背番号問題に関して、プレミアリーグは頑なだった。「すでに登録されている番号を勝手に変えることはできない」のだ。ただし、ひとつだけ抜け道があった。「選手が移籍して空いた番号に関しては自由である」。
そこで何が起こったか。ユナイテッドでこれまで21番をつけていたダニエル・ジェームズが移籍期限の最終日にリーズに完全移籍した。空いた21は、カバーニはいつもウルグアイ代表でつけているお馴染みの番号である。クラブからの正式発表こそまだだが、こうしてカバーニは背番号21となり、背番号7はロナウドの背中につくことになった。はたしてこれは偶然の出来事なのか。ダニエル・ジェームズには、もしかしたら移籍金以外にもちょっとしたお小遣いが入ったのかもしれないという噂もあるが、それは謎のままだ。
いずれにせよ、ロナウドはユナイテッドとの2年契約にサインした。この取引でユベントスが受け取るのは2300万ユーロ(約30億円)。ユベントスはこれとほぼ同等の金額で、モイーズ・キーンを取り戻した。かつてあまりにも早計にエバートンに売ってしまった選手である。もちろん彼とロナウドとは比べ物にはならない。だがキーンの年俸はチームの財政をひっ迫させるものではないし、何よりロナウドより15歳も若いのだ。
ロナウドがロッカールームでチームメイトに別れを告げた時、ユニホームを引き裂くように悲しむ者はいなかった。「元気で」「グッドラック」......お決まりの台詞を口にしただけだ。
彼と仲のよかった選手はほんの数人だった。真の友といえるのは、年に一度、出場チャンスがあるかないかの第3GKカルロ・ピンソーリョぐらいかもしれない。ほとんどの選手は「女王様」から解放され、正直、せいせいしたという感じだろう。
そう、ロナウドはチームメイトから「女王様」と呼ばれていた。あまりにも特別扱いされ、彼にばかりスポットライトが当たり、しかもロナウド自身、それを当然と受け止めている節があったからだ。ロナウドは周囲の選手、たとえばヨーロッパチャンピオンたち(レオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニ、フェデリコ・ベルナルデスキ、フェデリコ・キエーザ)の存在をかすませ、他のスター選手たち(パウロ・ディバラ、アルバロ・モラタ)の息を詰まらせた。
しかし、リーグ戦が始まると、そんな思いも一変したのではないか。
第2節のエンポリ戦を、ユベントスはロナウド抜きで戦った。すでに彼はプライベートジェットでトリノを発っていたからだ。そしてユベントスは、セリエBから昇格したばかりのチームに、ホームで敗退してしまう。リードされた後、キエッリーニがマッシミリアーノ・アッレグリ監督に向かって何かを言っており、SNSでは唇の動きからその内容を解析されている。
「これがこのチームだよ......」
それを聞いて私の頭には、ここ2シーズン、チームを率いた監督、マウリツィオ・サッリとアンドレア・ピルロの言葉が浮かんだ。
「ロナウドの存在が、カーペットの下の埃を隠していた」
その意味は明確だ。ユベントスは多くの問題を抱えていたし、今もそれは未解決だ。特に中盤の問題は大きい。しかしそれらの問題を、ロナウドのゴールが目立たなくさせていた。しかしもうロナウドはいない。埃の存在は見えてしまった。一日も早くシフトチェンジし、いい掃除機を買わなければ、ユベントスの行先は危ういだろう。
ユベントスの会計係は喜んでいるかもしれないが、多くのユベンティーノはそうではないはずだ。