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谷繁元信が語るプロ野球後半戦@パ・リーグ編
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シーズン序盤から白熱した展開が続くパ・リーグは残り約50試合となったなか、上位4強が熾烈な優勝争いを繰り広げている。8月23日時点で2位以下に3ゲーム差をつけて首位に立つのが、1996年以来の優勝を目指すオリックスだ(今季の成績は同日時点)。
「今のチームを見ると、この位置にいるのも不思議ではないですね。開幕当初より、確実に力をつけています」
元中日の監督で、野球解説者の谷繁元信氏はそう話す。

万波中正は横浜高から2018年ドラフト4位で日本ハムに入団
オリックスは交流戦開幕時点で楽天と8.5ゲーム差の最下位に沈んでいたが、6月6日から11連勝。6月20日に楽天を下して7年ぶりの首位浮上を果たした。中嶋聡新監督がショートの紅林弘太郎やセカンドの太田椋など若手を積極的に使いながら、徐々にチームの形を固めていけたのが大きかったと谷繁氏は指摘する。
「5月中旬から1番・福田(周平)、2番・宗(佑磨)、3番・吉田(正尚)、4番・杉本(裕太郎)と並べたら、そこから打線がものすごくいい形になっていきました。この形を続けられるかぎり、安定して得点をあげていけると思います」
フロント陣は25年ぶりの優勝を後押しするように、打線にランヘル・ラベロ、投手陣ではグレン・スパークマンとセサル・バルガスをシーズン途中に補強した。
ラベロはウエスタンリーグで死球を受けて長期離脱の可能性が高まった一方、スパークマンは来日初先発となった8月18日の日本ハム戦で4回2失点とまずまずの投球を見せた。東京五輪メキシコ代表のバルガスは150キロ台のストレートと高速シンカー、カットボールを誇り、先発、中継ぎともにこなすことができるタイプだ。この補強は終盤に向けて追い風になると谷繁氏は見ている。
「(ステフェン)ロメロは家庭の事情で帰国し、ほかの外国人野手は少し期待外れでした。そこで、ピッチャーを補強しようと考えたのでしょうね。9月、10月に入り、厳しくなっていくのは中継ぎ、抑えなので、そこを厚くしたいということだと思います」
オリックスを3ゲーム差で追いかけるのが、前評判の高かった2位・楽天。8年ぶりの優勝を目指す上で大きかったのが、巨人から炭谷銀仁朗を獲得したことだと谷繁氏は見ている。
「キャッチャーに炭谷が入って、ピッチャーが落ち着いて投げているような感じがします。岸(孝之)、涌井(秀章)は西武時代から組んでいますしね。
あとは田中(将大)がポイントだと思います。防御率(2.84)は十分な数字ですが、それが勝ちにつながっていない(4勝5敗)。田中が投げている時に打線の援護が少なくて、粘り切れない印象です。田中の勝ちがふたケタを越えるくらいになれば、楽天は優勝に近づいていくと思います」
では、打線のキーマンは誰か。
「浅村(栄斗)ですね。今年はまだホームラン10本。浅村がホームランを量産するようになると、チームの得点能力も高まっていくはずです」
昨季32本塁打でホームランキングに輝いた浅村が、後半戦でいかに多くのアーチをかけられるか。ブランドン・ディクソン、ルスネイ・カスティーヨの両外国人がフィットしていないなか、勝負強い和製大砲がカギを握りそうだ。
3位ロッテは首位オリックスを4ゲーム差で追いかける。リーグトップの得点数(419)を誇る一方、失点数(392)はワーストだ。
「打線に突出した選手はいないなか、1番から9番まで"打線"として攻略していく。相手にとっては嫌な打線なので、それを貫き通していけるかがカギになると思います。ピッチャー陣は少し駒不足。中継ぎには力があるピッチャーがいるので、先発をどうするか」
メジャー経験があり、2018年に中日でプレーした左腕のロメロが7月後半に来日し、今季初登板となった8月22日のソフトバンク戦では強いストレートを軸にまずまずの投球を見せた。
加えてポイントになるのが、高卒2年目の佐々木朗希の起用法だろう。
ここまで6試合で1勝2敗、防御率3.73。前半戦は中10日以上の登板間隔を開け、中断期間明けも8月15日のオリックス戦の翌日に登録抹消された。質の高い球を投げているが、現場を預かる監督は"育成と勝利の両立"をどのように行なえばいいのだろうか。
「難しい判断です。育成しながら勝っていくという今のスタンスで9月半ばまで投げさせて、『これはもう勝負できる』とベンチが判断すれば、僕は中6日で突っ込んでいくと思います。あと1カ月くらいで判断するところでしょうね」
4.5ゲーム差の4位が、日本シリーズ4連覇中のソフトバンク。開幕直後から故障者が多く、例年のような強さを見せられていない。
「現状で言うと、上のオリックス、楽天より、力的には少し劣るように感じます」
谷繁氏はそう話す一方、7月中旬から約1カ月の中断期間が前向きに働く可能性もあると見ている。
「石川柊太は前半戦よくなかったですが、中断明けの8月13日の日本ハム戦は去年のピッチングに戻っていました。千賀(滉大)はこれから投げていくなかでどう状態を上げていくか。中継ぎでは板東(湧梧)が、球が速くていい。攻撃陣ではグラシアルとデスパイネがカギを握ると思います」
5位の西武は4位・ソフトバンクと4.5ゲーム差、首位・オリックスには9ゲーム差と離されつつある。
「ポイントは山川(穂高)だと思います。一昨年の最後に少し状態を崩し、そこからずっと尾を引いている感じがしますね。タイミングの取り方やスイングの軌道を変えてみても、うまくはまらなかった。僕が見るかぎり、左肩の壁が開くのが少し早い気がします」
下位打線では呉念庭、愛斗、岸潤一郎と若手がスタメンに定着しつつあるが、「まだ安定感がない」と谷繁氏は言う。
「若手が打って勝った試合もありますが、その数自体は少ない。チームへの影響力はまだ小さいということです。いい選手たちが出てきただけに、本来の西武打線にするためには山川が打つしかありません」
6位・日本ハムは首位と13ゲーム差、3位・ロッテと9ゲーム差をつけられている。
「不可能な数字ではないし、あきらめる差でもない。数字的に可能なかぎり、そこを目指していかないといけない。でも、逆転を目指していきながら、どこかで少しずつ来年以降のことも考えていくことになるでしょう」
暴力事件を起こした中田翔が8月20日、無償トレードで退団。得点力がリーグで最も低い打線は、立て直しが急務だ。
「打線は"中心"(クリーンナップ)からつながるものですが、中心がないから全部が切れる。つながってないというか、"打線"になっていないですね」
打線に中核を作ることは、来季やそれ以降を見据えても不可欠になる。
「近藤(健介)に4番を任せたこともありましたが、仕方なく4番に入れているようにも見えます。もともと4番というタイプではないですから。野村(佑希)あたりを中心に据えて、成長させていくことも考えの中にあっていい。
そのほかに、可能性を感じる選手のひとりが万波(中正)。楽しみのひとつとして、"こういう選手が出てきてくれたら面白い"と見ていきたいひとりです」
昨季最下位だったオリックスが奮闘し、上位4強の混戦が続くパ・リーグ。それぞれシーズン途中に新戦力を補強し、弱点を埋めにきている。シーズン終盤の最終コーナーに入るまで、熾烈な優勝争いが続きそうな気配だ。