「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#89「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカ…
「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#89
「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。多くのプロ野球選手も加入するパフォーマンスオンラインサロン「NEOREBASE」主宰、ピッチングストラテジストの内田聖人氏は投手の“球”を独自の「ミカタ」で解説する。
7日に行われた決勝で日本は米国を2-0で下し、悲願の金メダルを獲得した。開幕投手を務めた22歳・山本由伸投手(オリックス)ら、若い投手の活躍が光った今大会。決勝は23歳・森下暢仁投手(広島)が先発し、守護神の25歳・栗林良吏投手(広島)まで4投手が完封リレーだった。最終回は大会を総括し、現代野球の進化を分析した。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
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完封リレーで金メダルを獲得した日本。その結果が素晴らしかったです。最後は、今の野球界の投手全体について考えてみたいと思います。
最近の大きな変化は「パワー系の変化球投手」が増え、トレンドになっていること。150キロ以上のストレートを投げ、球が強く、変化球も優秀。その代表はダルビッシュ有投手(パドレス)であり、影響は日本にも大きいと感じています。
日本のどの投手も、そのタイプに当てはまっていました。若い投手なら山本由伸投手(オリックス)、森下暢仁投手(広島)、伊藤大海投手(日本ハム)に栗林良吏投手(広島)ら。決勝で投げた千賀滉大投手(ソフトバンク)もそのタイプです。
右上投げの投手なら、(1)自由落下に対して上方向のストレート、(2)左方向にスライドしながら落ちる、(3)下方向か、やや右にシュートしながら落ちる――同じ軌道から3方向に変化する球。スパイスとして大きく強く曲がるパワーカーブ系の球もあると打者は絞りづらくなります。
この考えは「NEOREBASE」のオンラインサロンメンバーのお股ニキ氏が、以前から強く言っています。山本投手なら、150キロ後半のストレート、カット系のスライダーに大きなパワーカーブ、そしてフォークです。
そういう投手が今、日本でも活躍しています。五輪のような短期決戦も強いですし、レギュラーシーズンも有利。メジャーリーグもそういう選手が多く、日米に限らず、活躍している選手に多くみられる特徴です。
日本の象徴は山本投手でしょうか。持っているスペックがすべて高い。前述の3方向の球種ともに質が高く、現代野球の良い所どりをした投手であり、一番のお手本です。今の若手投手では、頭ひとつ抜けた存在になりつつある印象です。
身長178センチの山本が150キロ超のストレートで圧倒できるワケ
身長は178センチとあまり大きいわけではありません。しかし、150キロ超のストレートを駆使し、圧倒できる。それはなぜかと考えてみると、自分の体の状態を正確に把握し、自分に合った使い方を熟知しているからではないかと思います。
体の状態や使い方は人それぞれですが、自分にとって何をすべきか分かっているから、トレーニングを積んでレベルを常に向上させていける投手。よく練習法が独特と取り上げられたりますが、どれも山本投手にとって必要だからやっているわけです。
山本投手に憧れる中高生は多いと思います。しかし、同じトレーニングをしたら山本投手のようになれるかといったら、必ずしもそうではありません。山本投手がやっているからと真似するだけなら成長しませんし、頭を使う必要があります。
求められるのは“なぜ”そのトレーニングをやっているかまで理解し、それを自分に置き換えた時、何が必要かを考えること。もしかしたら、山本投手がやっていることでも自分には正解じゃないかもしれないと疑ってかかってみること。
アレンジが必要なのかもしれませんし、正解は全く違うトレーニングかもしれません。だから、一番に学ぶべきは山本投手が誰よりも研究熱心で自分の体を理解し、自分に必要なパーツを把握している点ではないでしょうか。
では、どうしたら自分の体を知ることができるのか。それは、トライアンドエラーを繰り返すしかありません。今はいろんな情報を得る場所が増えたおかげで、トライアンドエラーの「エラー」を少なくできるとは思っています。
逆に言うと、情報過多により考えが偏ってしまう可能性もあり、フレキシブルになる必要があります。一流の選手は自分で試行錯誤する中で自分なりの理論を確立しているので、まずは自分で試してみることが何よりも大切です。
時には失敗することもありますが、必ずしも最短ルートで行くことが正解とも私は思いません。いろいろやってみて、駄目なものは駄目って認識したり、良さそうだと思ったものは続けたり。そういうスタンスで私は良いと思っています。
本当に大切なことは「手段」ではなく「思考」を学び、自分で考える能力
その時に必ず意識してほしいのは、うまくいった時はなぜうまくいったのか、うまくいかなかった時はなぜうまくいかなかったのか、一つ一つの原因と結果を考えること。それは、野球に限らず必要なことだと思います。
プロ野球選手になる人の方が圧倒的に少ない。学校生活かもしれないし、社会に出た時かもしれないですが、物事の本質を突き詰めることは、どこでも必要。一流選手を深掘りしていくと、そういう姿勢も学べるのではないかと思います。
結局のところ、成長するために一番必要なことは「自分で考える能力」。指導者が言うことはあくまで一つのアドバイス。道を示すことはできても、自分の足でしっかりと歩いて行かないと意味がないと感じています。
今回の五輪の舞台に立っている人は、きっと周りの何倍も頭を使ってやってきた選手たち。その部分が取り上げられることはあまりないですが、そうやって一流選手の「手段」ではなく「思考」を学ぶと、未来のオリンピック選手に近づくのではないかと思います。
■内田聖人 / Kiyohito Uchida
1994年生まれ。早実高(東京)2年夏に甲子園出場。早大1年春に大学日本一を経験し、在学中は最速150キロを記録した。社会人野球のJX-ENOEOSは2年で勇退。1年間の社業を経て、翌19年に米国でトライアウトを受験し、独立リーグのニュージャージー・ジャッカルズと契約。チーム事情もあり、1か月で退団となったが、渡米中はダルビッシュ有投手とも交流。同年限りで指導者に転身。昨年、立ち上げたオンラインサロン「NEOREBASE」は総勢400人超が加入、千賀滉大投手らプロ野球選手も多い。個別指導のほか、高校・大学と複数契約。自身も今年自己最速を更新する152キロを記録。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)