2016年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得した陸上男子4×100mリレーが、まさかの結果に終わった。 決勝はカーブが緩やかな9レーンの有利さを最大限生かし、鋭いスタートダッシュで飛び出したのは多田修平(住友電工)。スピードに乗って2走…
2016年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得した陸上男子4×100mリレーが、まさかの結果に終わった。
決勝はカーブが緩やかな9レーンの有利さを最大限生かし、鋭いスタートダッシュで飛び出したのは多田修平(住友電工)。スピードに乗って2走の山縣亮太(セイコー)にバトンを渡そうと腕を伸ばしたが、山縣の加速に多田が追いつけず、バトンを渡せないままテイクオーバーゾーンの外へ。途中棄権となり、最後まで走り切ることすらできないという衝撃的な終わり方だった。
スピードを出しすぎたが故のバトンミスが出てしまった
4×100mリレーは自国開催の東京五輪で「金メダル」を目標に掲げていた。
しかし、個人種目の100mで山縣、多田、小池祐貴(住友電工)の3人が予選落ち。さらに200mでも、リレーメンバー入りする可能性があったサニブラウン・ハキーム(タンブルウィードTC)も予選落ちと、起用できる可能性は低くなり、不安を残したままリレーに臨まなければならなかった。
5日の予選では、大会前の代表合宿最終日に決めたという、多田―山縣―桐生―小池のオーダー。走ったのはカーブがきつい4レーン。1走の多田はリードを奪えない窮屈な走りで、山縣も終盤はインレーンのイギリスに大きく差を詰められた。それを桐生祥秀(日本生命)が盛り返し、最後の小池が粘って3位。着順で決勝進出を決めたが、タイムは38秒16と決勝進出中、最も遅いタイムだった。
それでも選手たちの表情に曇りはなかった。桐生は「今回は安全バトンですから。最近の僕たちの強みは、予選は安全に行って決勝でタイムを上げるというのがいつもできています」と自信すら見えていた。
山縣もリレーにかける思いをこう話した。
「決勝に進むというのが一番重要。個人の結果は悪かったですが、リレーは何とかしようという気持ちがあったので次につながった。バトンも個人の走りも改善できるので、それをこれから話し合いたいと思います」
その思いは土江寛裕オリンピック強化コーチも同じだった。
「予選は危ないレースでしたが、結果的に決勝で、勝負がしやすい9レーンを獲得できたことをポジティブに捉えました」
9レーンで走る利点は、アウトレーンだった2017年世界選手権で、多田がいい走りをしたように、彼の特性としてカーブの緩いレーンのほうが攻めの走りができることだ。さらに2走も直線からのスタートになってスピードに乗りやすく、3走もカーブの緩さを利用したいい走りができる。「前半をリードすることで内側のレーンの選手にプレッシャーを掛けやすくなるので、1〜3走で勝負を決めたいと思っていた」と土江コーチは話す。
毎回、予選後のミーティングでは、バトンパスの課題のほか、個々の走りの修正もテーマにしている。今回は4走の小池が走り出す位置を予選の走りを踏まえて、これまでよりも3走寄りに少し縮めた。
小池は「最近はどうやってトップスピードに乗るかと考え、後半の走りが課題かなと思っていたんです。でも土江コーチが、『走り出しから足をもっと回して全開でいったほうがトップスピードが上がる』というデータを出してくれて。それを最後のバトン合わせで試してみたら、非常にいい感覚でいけたので、思い切って1足長縮めて『桐生から逃げるつもりで行け』という指示通りの走りをしようと思っていました」と言う。
予選後のチームの話し合いで、「ここまでなら伸ばせる」と設定したタイムは37秒50。予選では4チームが37秒台を出していたが、ジャマイカの37秒82が最高で他の3チームは37秒9台。アメリカがいなければそのタイムで優勝できると想定した。
4走の小池のところから見えていた1走の多田の走りは、「走り出した瞬間に『速いな!』と思いました」というほどいいスタートだった決勝。そのバトンを受ける2走の山縣は9レーンの利点が過剰になり、いつもと同じタイミングで出たにもかかわらず、想像した以上に加速してしまったとも考えられる。土江コーチは「結果を見た後に、9レーンにはそういうリスクがあるということを、選手たちにアドバイスすべきだったところはあったと思いました」と認める。
これまでの日本チームで失敗がなかった1走から2走のバトンパスでミスが出たのは、驚きでもあった。だが、そこまで攻めた走りだった結果でもある。山縣はレース後こう話した。
「攻めのバトンパスをできるのが僕たちの強みですが、それはふたを開けてみないとわからない。そういう振れ幅の中で僕たちはやっているんだと改めて感じました」
日本が途中棄権したレースは、イタリアが37秒50で優勝、イギリスは37秒51で2位と、日本チームの読みどおりだった。
今大会はリレーのみの出場で、ここにすべてをかけていた桐生はレースをこう振り返った。
「今回は銀や銅を獲っても満足しなかったと思います。金以外は目指してなかったので、あのくらいに攻めるバトンパスが必要だったし、それをやった結果だから仕方ない。ただ(最終的な)結果を見れば、自分たちが想定したとおりだったので、僕たちも勝てる可能性があったということだと思います」
自国開催の「東京五輪で金メダル」になれば最高の結果だったが、自分たちが目指したものは正解だったという確信。それはチームにとって、悔しさとともに得た今回の収穫だった。