日本代表の前半最後の得点は八村の豪快なスラムダンク。後半の反撃に向け気合をもたらす一撃だった(写真/©fiba.bask…

日本代表の前半最後の得点は八村の豪快なスラムダンク。後半の反撃に向け気合をもたらす一撃だった(写真/©fiba.basketball)

 

日本のバスケ界に力をもたらす大健闘

 

 東京オリンピックの5人制男子バスケットボール2日目となった7月26日、さいたまスーパーアリーナに日本代表が登場した。FIBA世界ランキング2位で、2年前のFIBAワールドカップ2019で王者となった強豪中の強豪スペイン代表との大会初戦。77-88での敗戦は、手放しで喜べる結果ではなかったかもしれないが、第2Q後半の約5分間を除けば互角以上の展開。健闘と同時に世界との差を改めて実感したこの試合は、今後の日本のバスケットボールの発展に勢いをもたらすことは確実だ。

 

 日本代表のスターターは田中大貴(アルバルク東京)、馬場雄大(メルボルン・ユナイテッド)、渡邊雄太(トロント・ラプターズ)、八村 塁(ワシントン・ウィザーズ)、エドワーズ ギャビン(千葉ジェッツ)の5人。対するスペイン代表はリッキー・ルビオ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)、ルディ・フェルナンデス、アルベルト・アバウデ(ともにレアル・マドリッド)、ビクター・クラベール(バレンシアBC)、マルク・ガソル(ロサンゼルス・レイカーズ)がスターター。両チームとも、東京オリンピック直前にそれぞれが行ったウォームアップ・ゲームで活躍した「いつもどおり」と言えるラインナップだった。

 

 序盤の日本代表はやや固さを感じさせる立ち上がりで、開始からの約3分間でスペイン代表に7点を連取されてしまう。初得点は第1Q残り6分58秒。田中のミスショットのリバウンドに食らいついたエドワーズがトップで待つ渡邊にアウトレット・パスを出し、そこからアタックした渡邊のボールが相手に弾かれてゴール下の田中に渡り、イージーゴールとなった。

 

 クラベールのプットバックが決まり、ルビオに速攻からの得点を許した後の第1Q残り5分過ぎ、今度は渡邊がエドワーズとのハンドオフ・プレーから3Pショットを成功させ5-11。残り3分24秒には、八村の力強いドライビング・レイアップがこぼれたところをシェーファー アヴィ幸樹(シーホース三河)がティップインして7-11。パウ・ガソルのレイアップとセルヒオ・ロドリゲス(オリンピア・ミラノ)の3Pショットで7-16と再び突き放されたが、今度は富樫勇樹(千葉ジェッツ)からのパスを左ハイポストで受けた八村が、NBAの試合で十八番にしていたステップバック・ジャンパーを沈め、残り1分25秒で9-16と追いかける。

 

 パウ・ガソルの得点で9-18のダブルスコアとなった残り53秒には、渡邊が強気なドライブでディフェンスを引きずりながらゴールに突進。ショットははずれたもののオフェンス・リバウンドを自らもぎ獲り、ビッグマンの林のようなペイントで、ファウルを誘いながら1本ねじ込んだ。ボーナススローは外してしまったものの、ゴール下でも負けていないことを示すプレーだった。

 

 クォーターの終了間際には、比江島 慎(宇都宮ブレックス)のパスを受けた富樫が鋭いドライブでペイントに侵入し、フワッとうかせるフローターで14-18とし、第2Qに向け良い形に持っていった。

 

 ここまで日本代表は攻守で慌てずスペイン代表のプレッシャーに対抗し、個々のプレーヤーがしっかりと持ち味を発揮していた。馬場は得点こそなかったものの、ディフェンスで良く足を動かし、このクォーターにおける日本代表唯一のスティールを記録。全体として非常に緊迫感のある好ゲームとなった。


第2Qに訪れた「魔の5分間」

 

 第2Qの幕開けは、馬場のスティールからのダンクというこれ以上ない形。攻守にアグレッシブさを見せた日本代表はフリースローの機会も得、核となるべき八村も着実に得点に絡んだ。富樫が思い切りよく放った3Pショットが決まり、さらに八村の3Pショットがネットを揺らした第2Q残り5分35秒には、ついに26-26と同点に追いつく。たまらずスペイン代表はタイムアウトを要求。日本代表はここまでの約15分間、試合の40%近い時間にわたって世界王者と互角の戦いを見せていた。

 ところがここから日本代表は「魔の5分間」にのまれてしまう。前半終了間際に八村がパウ・ガソル越しの豪快なダンクを決めるまで日本は無得点。逆にスペイン代表に19連続得点を許してしまった。きっかけとなったのは、エドワーズのアンスポーツマンライク・ファウル。トランジションでオフェンスに戻ろうとするマルク・ガソルを故意に抱きかかえて動けなくした行為と捉えられた結果、マルク・ガソルに2スローが与えられ、かつボールはスペインが保持という状況になった。強豪に対して見せてはいけないスキを見せてしまったということか。

 

 2-20のランを食らって前半を終えた時点で48-28。ただ、日本代表側の問題もあったとはいえ、やはりスペイン代表の強さ、素晴らしさがよく出ていた。


 この時点でスペイン代表は、ペイントでの得点で22-12と日本代表を圧倒していた。ガソル兄弟やウイリー・エルナンゴメス(ニューオリンズ・ペリカンズ)、ウスマン・ガルバ(レアル・マドリッド)、クラベールら、フロントラインの力強さはどのチームにとっても対抗するのが厳しい。ルビオのプレメイクがそれを一いっそう難しくする。


 また、ショットの決定力でも差が出た。日本代表のディフェンスが悪かったというよりも、コンテストされたショットもスペイン代表は高確率で決めてきた。チームとして、この時点での3P成功率は42%(日本代表は27%)2Pフィールドゴールは、ペイントで高さを生かしたケースが多かったこともあり67%を決められてしまっていた(日本代表は35%)

 

プロの仕事をした金丸晃輔

 

 ただ、後半の日本代表は、まさしく互角以上と言えるプレーを見せ、第3Q、第4Qともスペインの得点を上回っている。

 

 非常に勇気づけられたのは、42-66と徐々に引き離されつつあった第3Q残り4分過ぎに、渡邊に代わって投入された金丸晃輔(島根スサノオマジック)が、直後のオフェンスにおけるファーストタッチで馬場のアシストを受け右コーナーから3Pショットを成功させたこと。金丸は次のオフェンスでも、田中のパスを受けドリブル一つついてのプルアップで3Pショットを決めて、さらに続くオフェンスではファウルを誘ってフリースローを2本沈めた。

 

 ショットクロック上は投入から1分半経過していない。その短い時間に8連続得点で50-68と日本代表をゲームの中に引っ張り戻した活躍は、BリーグMVPの面目躍如。決定力で劣っていた日本代表に、もう一度前を向かせる価値ある貢献だった。

 

 勢いづいた日本代表は、渡邊がスティールからダンクを叩き込み54-69。続くディフェンスで、インサイドに攻め込んできたパウ・ガソルをチームで阻止しターンオーバーを誘うと、カウンターアタックで渡邊がシェーファーのレイアップをおぜん立て。このクォーター残り1分程度を残して56-69。3Pショット5本の差は小さいとは言えないものの、現代バスケットボールではワンチャンスで追いつける圏内に世界王者を捉え、最終クォーターに進むことができた。

 

第3Q終盤の渡邉のダンク。この夜は攻守にNBAプレーヤーの貫録を見せる活躍を見せた(写真/©fiba.basketball)

 第4Qの立ち上がり、今度は富樫がスキルの高さを見せた。スピードに乗ったドライビング・レイアップでファウルを誘うとともに、ブロックショットに来る相手の指先がボールを捉えるより一瞬速くバックボードにバウンドさせたこのショットはゴールテンディングとなり得点が認められた。アンドワンのフリースローもきっちり沈めて59-69。試合終了まで9分9秒を残して10点差に追いすがった。

 

「ユウタ!」と叫ぶ声、そして八村 塁はダンクをぶち込んだ

 

 スペイン代表は動じることなく攻め続けてきたが、日本代表も、引き離されても反撃した。残り6分45秒、渡邊がスティールしたボールを自ら運び、フロントランナーとなっていた八村につなぎ強烈なダンクが決まって63-75。この場面では、ゴール下で手を挙げる八村から渡邊に対するものと思われる「ユウタ!」とボールを呼ぶ声も聞こえてきた。

 

 明確に誰の声かはわからない。しかしこの声の直後、渡邊から八村に矢のようなパスが通っている。チーム内に連係があること、世界の最高峰NBAで戦う二人がお互いに機能していることが、最高の形で表現された。

 

 さらに田中のアシストから八村が3Pショットを決めて66-77とした後、残り4分40秒過ぎにも見どころがあった。クラベールのパスをインターセプトした渡邊が、フロアに転がったボールに猛然とダイブし、八村につなぐ。このプレーは惜しくも最終的には得点とならなかったが、勝ちに向かう執念を強く感じさせた。気合十分の八村は、残り3分過ぎ以降に2本の3Pショットを決めるなど、世界最強軍団を相手にロングレンジ・シューティングの成長ぶりも印象づけた。

 

 日本代表最後の得点は残り47秒。渡邊と馬場が高い位置でプレッシャーをかけて奪い取ったボールを、馬場が速攻でレイアップに持ち込み77-86とついに点差を一桁に戻した。この残り時間で9点差は、まだまだ勝利への射程内だ。続くオフェンスでスペインは時間を使い、ペイントに切れ込んだマルク・ガソルがルビオからのロブを受けショットに向かうところを田中が渾身のブロック。最終的にはこぼれ球をクラベールに決められたものの、ポイントガードの田中がセブンフッターに飛びかかってブロックしたプレーには、意地や意欲が強く表れていた。

 

 日本代表は八村が20得点の大台に乗せたほか、渡邊が19得点、8リバウンド、3アシスト、5スティールを記録。富樫、金丸、エドワーズが8得点で続いた。比江島は得点こそなかったが、攻守でアグレッシブさが目立ち、アシスト2本を記録して±も+7。ベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)は1分35秒の短い出場時間だったが、ターンオーバーなしできっちり司令塔の仕事をした。渡邉飛勇(琉球ゴールデンキングス)と張本天傑(殴哉ダイヤモンドドルフィンズ)は出場機会がなかったものの、チームメイトのプレーからインスピレーションやチームとしての自信をしっかり吸収しているはずだ。

 

鋭い切れ味、プレーの創造性…。楽しく、かつ力強いプレーでルビオはスペイン代表を勝利に導いた(写真/©fiba.basketball)

 

 77-88という最終スコアは惜しいとも言える一方で、世界との隔たりを感じる結果でもある。よく聞く言葉だが、「健闘ではいけない」という思いがプレーヤーたちの心の中では大きいのではないだろうか。それだけ、日本代表は「できる」ことが示されている。ここから実際に勝つには、どうしたらよいのだろう。

 

 チームスタッツを振り返ると、最終的に日本代表は、3Pショット成功率が41%に到達。スペイン代表はェン半こそ好調だったが、29%に落ち込んでいた。ただし2Pショットは67%決められている(日本代表は41%)。リバウンドでは32-42と劣勢だったが、セカンドチャンスでの得点は9-11とほぼ互角。そして速攻での得点で18-10と優位だった。簡単に言ってしまえば、課題は高さと決定力ということになるのだろうが、その克服に必要なことは何か。

 

 いずれにしても、今や男子日本代表は、世界最強の相手に現実的な課題として勝利を考えられる位置に来たと言ってよいのではないだろうか。2年前のFIBAワールドカップで5連敗を喫した後、海外組だけでなく代表の全員、また国内のバスケットボールにかかわる多くの人々がそれぞれの立場で飛躍したことを感じさせた一戦だった。

 

男子日本代表試合結果
グループC
スペイン代表(1勝)88-77日本代表77(1敗)
日本代表   77(14 14 28 21)
スペイン代表 88(18 30 21 19)
トップパフォーマー
日本代表 得点: 八村 塁(20)、渡邊雄太(19)/リバウンド: 渡邊雄太(8)、エドワーズ ギャビン(7)/アシスト: 馬場雄大、田中大貴(5)/スティール: 渡邊雄太(5)/ブロック: シェーファー アヴィ幸樹(2)
スペイン代表 得点: Ricky Rubio(20)、Victor Claver(13)/リバウンド: Victor Claver(9)、Rudy Fernandez、UsmanGaruba(6)/アシスト: Ricky Rubio(9)、Marc Gasol(4)/スティール: Rudy Fernandez(3)/ブロック: Pau Gasol(2)

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)

八村の豪快なスラムダンク

ガソル越しの八村の豪快なスラムダンク (写真/©fiba.basketball)