昨季の柳田悠岐(ソフトバンク)を、あなたはどう評価するだろうか。客観的な評価においては、昨季の柳田は大谷翔平(日本ハム)と並ぶパ・リーグ最高レベルの選手と評価される。柳田をそこまで評価する理由を解説していきたい。■柳田悠岐は“変わらず”パ最…

昨季の柳田悠岐(ソフトバンク)を、あなたはどう評価するだろうか。客観的な評価においては、昨季の柳田は大谷翔平(日本ハム)と並ぶパ・リーグ最高レベルの選手と評価される。柳田をそこまで評価する理由を解説していきたい。

■柳田悠岐は“変わらず”パ最強打者も…本塁打増への条件とは

 昨季の柳田悠岐(ソフトバンク)を、あなたはどう評価するだろうか。2015年、ともにトリプルスリーを達成し、ブレイクした山田哲人(ヤクルト)が2年続けて快挙を成し遂げた一方で、柳田は成績こそまずまずながら、怪我で出場機会を減らした。またチームが優勝を逸したこともあってか、インパクトを失ったというのが一般的な印象ではないだろうか。だが、客観的な評価においては、昨季の柳田は大谷翔平(日本ハム)と並ぶパ・リーグ最高レベルの選手と評価される。

 柳田をそこまで評価する理由を解説していきたい。まず、柳田の攻撃での働き(出塁力、長打力、両面を評価)を、同じだけの打席を得た平均的な打者が記録するとみられる働きに対し、どれだけ抜きん出ていたかを示す指標、wRC+(weighted Runs Created Plus)(※1)では、昨季178という数字を残した。これは100が平均と同等だったことを意味するので、その178%、1.8倍程度の働きを攻撃で見せていたという評価となる。

 これは昨季、パ・リーグで300打席以上を記録した選手の中では、大谷の次に高い2位の数字となる。他のソフトバンクの選手を見ると、中村晃が126、内川聖一と松田宣浩が116、長谷川勇也が111、本多雄一が89、今宮健太が86となっており、柳田の攻撃における働きの効果がわかる。

 また、リーグ内、チーム内に加えて、柳田が守るセンターというポジション内での相対的な評価となると、さらに高くなる。センターは一定の守備力を必要とするため、打撃に秀でた選手を起用するのはなかなか難しい。そうした選手たちとの比較だと、柳田の抜け出し方はさらに強烈なものになるのだ。

 センターを守った全選手の打撃での働きをチームごとに得点換算し、平均との差で表した数字wRAA(weighted Runs Above Average)(※2)で見ると、守備イニングの多くを柳田が担ったソフトバンクが大きなプラスを築いている。この数字は相対評価なので、多くの球団で看板となるような選手がいないポジションに1、2人だけ主力級が入ったシーズンなどに、大きく伸びることもある。だが、昨季は秋山翔吾(西武)、陽岱鋼(元・日本ハム/現・巨人)など力を備えた選手がおり、そういったケースには当てはまらない。年間の総得点が500~600点である中、1人で40点もの差を生み出す柳田の存在は、とても大きかった。

■パワーをうかがわせる一方で、ゴロの多い柳田

 それでも柳田が2015年から成績を落としたのは確かである。wRC+は220から178に、他の選手との比較を用いない、攻撃力に対する絶対的な評価であるwOBA(weighted On-Base Average)(※3)でも.480から.435に下がっている。この低下の要因はどこにあるのだろうか。

 柳田は、ひとたび本塁打が生まれたときの飛距離の印象からか、ボールを飛ばす能力が注目されがちだ。だが本塁打の数は、2014年から15本→34本→18本と推移しており、そこまで多いわけではない。

 おそらく備えているであろうパワーの割に本塁打が増えていかない要因としては、柳田がゴロの多い打者である点が挙げられる。昨季のゴロ%(ファウルを除く全打球に占めるゴロの割合)は、パ・リーグ平均47.5%に対して55.3%と高い。本塁打を打つには角度をつけた強い打球を打つ必要がある。柳田は打球がそれほど上がらないタイプであるため、本塁打が増えにくいようだ。

 しかし、これがそのまま柳田の欠点であるとは言いきれない。柳田のゴロは球足が速く、また走力の高さもあり、ゴロの安打が増えやすい。もちろん本塁打を打つこととの比較では小さなメリットになるが、柳田が示している四球をよく選ぶ能力に、この特徴が加わることで高い出塁能力を実現している。

■柳田の特徴、引っ張った打球はゴロに、逆方向の打球はフライに

 ただ、そのゴロについて気になる数字があった。その話にいく前に、まず打球方向別の成績を見てもらいたい。引っ張り(Pull)、センター(Cent)、逆方向(Oppo)とフェアグランドを30°ずつ3分割し、それぞれに飛んだ打球を使って(四死球や三振を喫した打席は対象としない)、wOBAを算出したのが図だ。

 2014、2015年と昨季の成績と比較すると、Oppo、Centの成績は大きく変わっていないものの、 Pull、つまり左打者である柳田にとってはライト方向に打った打球が、昨季はよい結果につながっていない。2015、昨季の間で.503→.285と大幅に低下している。この.285という数字は、規定打席に到達したNPB選手全体の中で下から4番目だ。昨季の柳田は、引っ張った途端に、その強打が影を潜めていたことになる。

 打球性質について調べると、その変化の理由が見えてくる。昨季、柳田のPull打球のゴロ%、フライ%は、それぞれ75.0%、18.8%。Oppo打球は24.1%、59.5%。引っ張った打球はかなりの割合でゴロになり、逆方向の打球はフライになるという傾向が強かった。柳田はゴロが多いという特徴に加え、「引っ張ってのゴロ」が多いという特徴も見せていたということがわかる。さらにその特徴は年々極端なものになっている。Pull打球におけるゴロ%は、2014年から66.7%→69.6%→75.0%と上昇しているのだ。

 一般的に、ゴロ打球は長打の可能性が非常に小さいため、ゴロやライナーに比べうまみのない打球といえる。それはいくらゴロ安打が多い柳田でも同じことだ。最も長打になりやすい「引っ張ったフライ、ライナー」の割合が減っていることが、成績低下の最も大きな理由だろう。

■各球団が採用した「柳田シフト」も影響? 本塁打減少にも課題が…

 もうひとつ、ゴロが多かったPull打球で成績が上がっていないことと関係がありそうなのが「柳田シフト」だ。パ・リーグ各球団は、柳田の打球方向の特徴を意識し、内野手の守備位置を一塁側に寄せるシフトを採り入れ出していた。昨季は深い守備位置のセカンドや二塁ベースの後ろあたりに構えるショートに、本来なら安打になりそうなゴロを処理される場面が度々あった。

 実際、「柳田シフト」はどの程度効果があったのか。2015年、63.8%だった柳田のゴロアウト%(ファウルを除く全ゴロ打球がアウトになった割合)は、昨季は72.7%まで悪化している。この差8.9%を昨季の柳田の全てのゴロ打球数183に掛けると、16.3。柳田は前年レベルより16.3回多くゴロでの出塁を阻まれたといえる。

 もし安打が16本増えたとすると、柳田の打率は.306から.344へ、また16.3回の出塁がすべて単打であったとしても、wOBAは.435から.462まで上がる。ゴロ安打の減少がすべてシフトにより引き起こされたものではないが、ゴロで出塁を稼ぐことが多い柳田に対し、一定の効果をあげ、これが成績に影響を与えた可能性はある。また、柳田のPull打球のゴロ%が年々上昇していることを考えると、シフトの効果は今後さらに見込めるようになるかもしれない。

 最後に本塁打の減少にも触れておきたい。柳田は2015年の31本から昨季は18本と、本塁打を大きく減らした。もちろん前年に比べ69打席少なかったことの影響もあるが、本塁打のペースが落ちていたことは間違いないだろう。

 この本塁打減少もPull打球の中味が大きく関わっていそうだ。柳田のPull方向へのフライに占める本塁打は、2014年から6/15(40.0%)→15/34(44.1%)→3/18(16.7%)と推移しており、昨季数字を大きく下げている。これは他の打球に比べ、本塁打となる可能性を秘めているライト方向へのフライそのものの減少が、原因のひとつとみられる。これを増やすことが、本塁打を増やす上での条件となってくるだろう。

※1 出塁力・長打力両面から攻撃力を評価し、それがリーグ平均に対しどれだけ抜きん出ていたかを表す指標。100が平均。130であれば「リーグの平均的な打者の130%、約1.3倍の働きを見せた」という意味。

※2 出塁力・長打力両面から攻撃力を評価し、それを同じ打席数を得た平均的な選手と比較した差分を算出し、得点に換算して表したもの。

※3 出塁力・長打力両面から攻撃力を評価した指標。出塁率と長打率を足したOPS(On-Base Plus Slugging)を、より精密にしたものに近い。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~5』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(http://1point02.jp/)も運営する。

DELTA●文 text by DELTA