魔裟斗インタビュー 前編武尊と那須川天心、未来のK-1について 2000年代の格闘技ブームの中心にいた魔裟斗。日本人初のK-1世界チャンピオンは引退後も格闘技界に強い影響力を持っており、武尊や朝倉未来など新世代の人気格闘家たちも、その功績と…

魔裟斗インタビュー 前編
武尊と那須川天心、未来のK-1について

 2000年代の格闘技ブームの中心にいた魔裟斗。日本人初のK-1世界チャンピオンは引退後も格闘技界に強い影響力を持っており、武尊や朝倉未来など新世代の人気格闘家たちも、その功績と実績に対して尊敬の念を口にする。

 魔裟斗は2009年の大晦日に行なった、宿敵アンディ・サワーとの試合を最後に第一線から退いた。だが、今回の取材場所に現れた魔裟斗の体型は現役時代とほとんど変わらず、醸し出す雰囲気も当時の鋭さを内包したままだった。

"反逆のカリスマ"のインタビュー前編は、格闘技ファンが対戦を熱望する武尊と那須川天心の選手としての特徴、現在の格闘技界についての見解をお届けする。



対戦が熱望される那須川天心(左)と武尊(右) photo by Nikkan Sports/AFLO Tokyo Sports/AFLO

***

――まずは、日本中の格闘技ファンが対戦を期待している、武尊選手、那須川天心選手についてお聞きします。2人の選手としての特徴をどう捉えていますか?

「天心はとにかくスピードとキレがすばらしい選手。ただ速いだけでなく、自分が狙った攻撃を、パンチでもキックでも関係なく的確に当てられる。"打たせずに打つ"スピードも文句もしに一級品ですが、攻撃の組み立ても非常に高いレベルにあります」

―― 一方の武尊選手はいかがでしょうか。

「天心とは対照的に、武尊はパワーと圧力が強みの選手です。前に出る圧力は、世界ナンバーワンだと思います。ただ、単なるパワー系の選手ではなく、相手に打たせない技術もある。武尊が試合で顔を腫らしたり、ダウンするシーンはほとんど見たことがないですよね。激しい打ち合いをしているように見えて、実は自分だけ打たれていない、というパターンが多くなっています。ひと言で言うなら、"総合力が高いオールラウンダー"でしょう」


那須川と武尊について語った魔裟斗

 photo by Murakami Shogo

――武尊選手は、魔裟斗さんからするとK-1で世界チャンピオンの後輩であり、個人的なつき合いもありますね。

「特別に深い仲ではないですが、現役の選手の中では会う頻度が高いです。武尊は素直で、純粋に格闘技が好きなタイプ。2人で話していると、昔からよく天心戦の話題が出てきますよ。

 対戦が実現したら、互いに自分の得意な展開に持ち込めるかが勝敗を分けるカギになります。天心がスピードで主導権を握るか、武尊が圧力をかけながらそれを捕まえられるか。どちらが勝つかを予想するのは本当に難しくて、ほんの少しのコンディションの差、ひとつのきっかけで展開が大きく変わるでしょう」

――天心選手は来年3月の試合を最後にボクシングへの転向を表明していて、武尊選手も総合格闘技への参戦を示唆していますね。

「2人に共通していることは、天心はキックボクシング、武尊はK-1で、やり残したことはないということ。唯一の心残りがこの直接対決なわけです。僕が現役だった時も、2度目の世界チャンピオンを目標にして、それをやり終えたから競技生活を悔いなく終えることができた。たぶん2人も、そういう気持ちだと思います。いずれにしろ、ひとつの時代が来年3月に終わることは間違いない。格闘技に携わる人間のひとりとして、この一戦が実現することを願っています」

――新たなスター選手の誕生も期待されますが......思えば、活動休止を経て2014年5月から「新生K-1」がスタートしてからは、魔裟斗さんのように格闘技ファン以外にも広く知られる選手が減少しているように感じます。

「僕らの時代は、やっぱり地上波の力が強かったので、単純に露出量の違いが認知度の差に表れている気もしますけどね。武尊がいるうちはそれ以上のスターは出ないでしょうけど、次のステージに行くならば状況が変わってくる。技術的にうまい選手は増えているから、『きっかけさえ掴めたら』という感じじゃないですか」

――この先のK-1に、どういった発展を期待しますか?

「僕はK-1のビジョンがわかっていますが、世界最高の舞台を目指していってほしい。1990年から2000年代にかけてのK-1は、まさに世界最高の"立ち技最強"を決める舞台だった。でも、旧K-1がなくなって以降、GLORYというキックの新しい団体や、シンガポールを拠点とするONE Championshipという団体もできて、世界各地に格闘技団体が分散していきました。

 先日、K-1のオーナーと『K-1を再び最高の舞台にできたら』という話をしたら、オーナーは『100年で完結させる』と言っていました。たぶん僕たちが生きているうちは無理だけど、ゆっくり時間をかけて目標に向かっていくと。詳しくは言えませんが、ビジョンがしっかりしているので、僕から言うことは特にないですね」

――100年という長い時間をかけて、世界一を目指していくという構想なんですね。

「現実的には、それだけ難しいことだと思います。ただ、100年経ったらボクシングとかアメリカのUFCよりも、K-1のほうが盛り上がっているかもしれない。そうなった時に『日本人で初めて世界チャンピオンになった魔裟斗』という事実は歴史に残りますよね。僕は白井義男(日本人初のボクシング世界王者)さんと会ったことはないですが、名前は知っています。同じように100年経ったあとでも、K-1に自分の名前が残っているとカッコいいじゃないですか。そういう語り継がれ方もいいな、と思っています(笑)」

(中編:KIDとの伝説の一戦を振り返る)

■魔裟斗(まさと)
1979年、千葉県生まれ。1997年に全日本キックボクシング連盟での試合でプロデビュー。2003年の『K-1 WORLD MAX』で日本人初のK-1世界チャンピオンになり、2008年に2度目の王座を獲得。翌2009年12月31日の試合を最後に引退した。その後は格闘技だけでなく幅広いジャンルで活躍。2021年の3月には『魔裟斗チャンネル』と、武蔵との『ムサマサ!』を開設した。