東京五輪が7月23日に開幕する。それに先立って、サッカー競技は女子が7月21日に、男子が7月22日に初戦を迎える。今回は…
東京五輪が7月23日に開幕する。それに先立って、サッカー競技は女子が7月21日に、男子が7月22日に初戦を迎える。今回は地元開催となる日本のメダルが期待されるが、その可能性を占う(?)五輪サッカーにおける「七不思議」を紹介したい。

前回のリオデジャネイロ五輪ではブラジルが初の金メダルを獲得した。photo by UPI/AFLO
◆五輪優勝のトレンドは中南米勢にあり!?
男子W杯優勝国は過去21大会でわずか8カ国だが、五輪サッカーは公式種目となってからの過去24大会で18カ国と、数多くの国が金メダルを獲得。W杯の優勝国が南米と欧州のみ、という状況に対して、五輪はアフリカや北中米からも王者が誕生している。
また、W杯では直近4大会で優勝国を出している欧州勢が、五輪では1992年バルセロナ五輪におけるスペイン優勝以来、頂点に立つことができていない。翻(ひるがえ)って、近年の五輪で強いのは、中南米勢。アルゼンチン(2004年アテネ五輪)、アルゼンチン(2008年北京五輪)、メキシコ(2012年ロンドン五輪)、ブラジル(2016年リオデジャネイロ五輪)と、過去4大会連続で中南米勢が優勝を飾っている。
今大会も、これらアルゼンチン、メキシコ、ブラジルが金メダルの有力候補と言える。
◆強豪ドイツの五輪における意外な戦績
男子W杯の優勝経験国8カ国のうち、五輪の金メダルとは縁がないのが、意外にもドイツ。前身の西ドイツを含めて、優勝はない(※東ドイツは1976年モントリオール五輪で優勝している)。W杯優勝4回、ユーロ優勝3回という輝かしい経歴とは裏腹の成績だ。五輪にはおいて、そこまで強豪視しなくていいかもしれない。
ちなみに、W杯優勝5回を誇るブラジルも、五輪では長らく頂点に立つことはできなかったが、13回目の出場となった前回大会でついに栄冠を獲得。ジンクスを打ち破った。
【五輪におけるドイツの成績】※西ドイツ時代も含む。東ドイツは含まない
1912年ストックホルム大会=初戦敗退
1928年アムステルダム大会=ベスト8
1936年ベルリン大会=ベスト8
1952年ヘルシンキ大会=4位
1956年メルボルン大会=初戦敗退
1972年ミュンヘン大会=2次リーグ敗退
1984年ロサンゼルス大会=ベスト8
1988年ソウル大会=3位
2016年リオデジャネイロ大会=準優勝
◆五輪でのホームアドバンテージはなし
男子W杯においては、過去21大会で開催国優勝が6度、準優勝が2度。比較的ホームアドバンテージがある。しかし、五輪では公式種目となった過去24大会で、開催国優勝が4度、準優勝はゼロと、ホームアドバンテージがほとんどない。
さらに、W杯では過去に1度しかない開催国のグループリーグおよび初戦敗退が、五輪では11度もある。しかも今回、グループリーグで対戦するメキシコ、フランスは、日本にとって相性の悪い相手。A代表では、メキシコには現在5連敗中、フランスとは1勝5敗。悲願のメダルを狙う日本にとっては、嫌なデータが並ぶ。
【五輪開催国成績】
1908年(ロンドン)イギリス=優勝
1912年(ストックホルム)スウェーデン=初戦敗退
1920年(アントワープ)ベルギー=優勝
1924年(パリ)フランス=ベスト8
1928年(アムステルダム)オランダ=初戦敗退
1936年(ベルリン)ドイツ=ベスト8
1948年(ロンドン)イギリス=4位
1952年(ヘルシンキ)フィンランド=2回戦敗退
1956年(メルボルン)オーストラリア=ベスト8
1960年(ローマ)イタリア=4位
1964年(東京)日本=ベスト8
1968年(メキシコシティ)メキシコ=4位
1972年(ミュンヘン)西ドイツ=2次リーグ敗退
1976年(モントリオール)カナダ=GL敗退
1980年(モスクワ)ソ連=3位
1984年(ロサンゼルス)アメリカ=GL敗退
1988年(ソウル)韓国=GL敗退
1992年(バルセロナ)スペイン=優勝
1996年(アトランタ)アメリカ=GL敗退
2000年(シドニー)オーストラリア=GL敗退
2004年(アテネ)ギリシャ=GL敗退
2008年(北京)中国=GL敗退
2012年(ロンドン)イギリス=ベスト8
2016年(リオデジャネイロ)ブラジル=優勝
※( )内は開催都市。GL=グループリーグ
◆メキシコ銅メダルの再現はあるか?
男子サッカーにとっては不運な材料ばかりに見えるが、日本が唯一メダルを獲得した1968年メキシコ五輪では、メキシコとフランスを破って3位になっている。今回もこの両国を破れば、日本サッカー界に新たな歴史を刻めるかもしれない。
◆なでしこジャパンの「天敵」
なでしこジャパンは東京五輪のグループリーグでカナダ、イギリス、チリと対戦する。なかでも、警戒すべきは第2戦で対戦するイギリスだ。
イギリス代表を構成するメンバーは、女子W杯において直近2大会で連続ベスト4入りを果たしている強豪イングランド。なでしこジャパンのイングランドとの対戦成績は1勝2分5敗と分が悪く、高倉麻子監督体制となってからは3連敗中だ。
まさに日本にとっては「天敵」と言える相手。2019年W杯のグループリーグでも0-2と完敗を喫している。
【なでしこジャパンのイングランドとの対戦成績】
1981年=日本0●4イングランド(親善試合/日本)
2007年=日本2△2イングランド(W杯/中国)
2011年=日本0●2イングランド(W杯/ドイツ)
2013年=日本1△1イングランド(親善試合/イングランド)
2015年=日本2○1イングランド(W杯/カナダ)
2019年=日本0●3イングランド(SB杯/アメリカ)
2019年=日本0●2イングランド(W杯/フランス)
2020年=日本0●1イングランド(SB杯/アメリカ)
※( )内は大会名/開催国。SB杯=シービリーブス杯
◆捻じれが生じた五輪女子サッカーの「ジンクス」
男子サッカーでは前年のバロンドール受賞者がいる国はW杯で優勝できない、いわゆる「バロンドールの呪い」という有名なジンクスが存在する。実は、女子サッカーにもこれに相当する「FIFA最優秀選手賞の呪い」といったジンクスがある。W杯と五輪の前年にこの賞を受賞した選手がいる国は優勝した例がないのだ。
通常、女子W杯は五輪の前年に開催されるため、女子のFIFA最優秀選手賞はW杯優勝国から選出されることが多い。おかげで、W杯優勝国が五輪では金メダルを逃す、という結果が続いている。
これまでのジンクスどおりであれば、2019年の女子FIFA最優秀選手のミーガン・ラピノー擁するアメリカの金メダルは厳しい状況にあったが、東京五輪は新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、1年延期。ジンクスの対象国は2020年の女子FIFA最優秀選手のルーシー・ブロンズ擁するイギリスになった。
つまり、アメリカは不吉なジンクスを回避。2大会ぶり5度目の金メダルへ、追風が吹いていると言える。
【FIFA女子最優秀選手受賞者を擁する国の世界大会成績】
2003年W杯=3位(ミア・ハム/アメリカ)
2004年五輪=3位(ビルギット・プリンツ/ドイツ)
2007年W杯=準優勝(マルタ/ブラジル)
2008年五輪=準優勝(マルタ/ブラジル)
2011年W杯=ベスト8(マルタ/ブラジル)
2012年五輪=準優勝(澤穂希/日本)
2015年W杯=4位(ナディネ・ケスラー☆/ドイツ)
2016年五輪=ベスト8(カーリー・ロイド/アメリカ)
2019年W杯=ベスト16(マルタ/ブラジル)
※女子FIFA最優秀選手賞は2001年に創設。( )内は前年度FIFA最優秀選手/国籍。☆印で記したナディネ・ケスラーは2015年W杯不参加
◆女子サッカー五輪優勝国の絶対的な条件
五輪の女子サッカーで頂点に立つためには、絶対的な条件が必要となる。それは、W杯の優勝国であることだ。最多4度の優勝を誇るアメリカも、第1回W杯(1991年)の覇者。その後も1999年大会、2015年大会を制している。
2000年シドニー五輪で金メダルを手にしたノルウェーも、1995年W杯の覇者。前回の2016年リオデジャネイロ五輪で初優勝を飾ったドイツも、2003年大会、2007年大会とW杯で2度栄冠を獲得している。
女子W杯の優勝国は、上記3カ国にわれらが日本を加えた4カ国のみ。そして、今回はノルウェーとドイツが不参加。つまり、東京五輪で金メダルに輝く可能性が高いのは、日本かアメリカのどちらか、ということになる。
【過去の女子世界大会(W杯・五輪)優勝国】
1991年=アメリカ(W杯/中国)
1995年=ノルウェー(W杯/スウェーデン)
1996年=アメリカ(五輪/アメリカ)
1999年=アメリカ(W杯/アメリカ)
2000年=ノルウェー(五輪/オーストラリア)
2003年=ドイツ(W杯/アメリカ)
2004年=アメリカ(五輪/ギリシャ)
2007年=ドイツ(W杯/中国)
2008年=アメリカ(五輪/中国)
2011年=日本(W杯/ドイツ)
2012年=アメリカ(五輪/イギリス)
2015年=アメリカ(W杯/カナダ)
2016年=ドイツ(五輪/ブラジル)
2019年=アメリカ(W杯/フランス)
※( )内は大会名/開催国