スティールからダンク! この試合の決勝点をもたらした馬場のプレー(写真/©JBA) 東京オリンピックを控えた男子バスケッ…

スティールからダンク! この試合の決勝点をもたらした馬場のプレー(写真/©JBA)
東京オリンピックを控えた男子バスケットボール日本代表が、本番前最後となるエキジビションゲーム、『SoftBankカップ2021』でFIBA世界ランキング7位のフランス代表と対戦し、81-75で大金星を挙げた。まだ前哨戦でしかない、公式な記録上は大きな意味のないウォームアップ・ゲーム。しかし代表内定メンバー発表時に東野智弥チームリーダーが語った「世界を驚かせるバスケットボールをする」という思いが実現しようとしていることを、この試合は大いに感じさせた。
前半20分はターンオーバーなし
日本代表は、2日前の対ベルギー戦と同じスターター、田中大貴(アルバルク東京)、馬場雄大(メルボルン・ユナイテッド)、渡邊雄太(トロント・ラプターズ)、八村 塁(ワシントン・ウィザーズ)、エドワーズ ギャビン(千葉ジェッツ)でこの試合に臨んだ。相手の5人はアンドリュー・アルビシ、エバン・フォーニエ、ニコラ・バトゥーム、グーション・ヤブセレ、ルディ・ゴベア。この中でフォーニエ(ボストン・セルティックス)、バトゥーム(ロサンゼルス・クリッパーズ)、ゴベア(ユタ・ジャズ)の3人はNBAの現役プレーヤーであり、ゴベアは特に今シーズンを含め過去4シーズン中3シーズンで、最優秀ディフェンシブ・プレーヤーに選ばれた身長216cmのスーパースター。アルビシとヤブセレの二人も、ハイレベルなことで知られるスペインリーグで活躍する実力者だ。
どこからどう見ても強敵のフランス代表に対し、日本代表は慌てることなく序盤から非常に堅実な試合展開をすることができた。ティップに勝ったのも先制したのもフランス代表だったが、馬場からのパスを受けた八村がハイポストから得意のミドルジャンパーを沈め即座に同点に追いついた。ゴベアのフリースローで再び先行されても、今度はエドワーズからトップでハンドオフを受けた渡邊が攻める。ウォームアップ・シリーズでたびたび見せてきた二人のコンビプレーから思い切りよく放たれた渡邊の3Pショットはきれいにネットを通過し、5-4と逆転に成功した。
ゴベアに連続してゴールを奪われて5-8と劣勢に立たされた日本代表だったが、八村が田中からのパスを受けゴール下でしっかり決め7-8とついていく。フランス代表がアルビシのドライビング・フローター、ヤブセレの豪快なスラムダンクで連続ゴール。どちらもゴベアのアシストだった。しかし日本代表は下を向くことなく追いかけ続けた。
7-12で迎えた第1Q 残り3分半過ぎ、ボールを持つアルビシに馬場が厳しくプレッシャーをかけると、インサイドでエドワーズと格闘中のゴベアに渡ろうというパスを渡邊がスティール。共同作業で取り返したボールは田中からフロントランナーとなった馬場へとつながりイージーレイアップとなった。続くディフェンスではオンボール、オフボールで良い形でプレッシャーをかけ続けた結果、アルビシの3Pショットがエアボールに終わる。
はずれたボールを拾った八村はそのままボールを運び、ゴベアめがけて勝負を挑む。左サイドを力強いドリブルドライブで押し込んだ八村は、ゴール下でNBA最優秀ディフェンシブ・プレーヤーを前にポンプフェイクでタイミングを外し、ファウルをもらいながらゴールを奪ってみせた。
八村のフリースローははずれたものの、第1Q7分以上を戦って11-12。この間、フランス代表はゴベアが6得点に4リバウンド、2アシストを記録したほか、フォーニエは2得点と1アシスト、バトゥームも3アシストに2リバウンド。働くべきタレントが期待どおりのプレーを見せていたが、日本代表は上段に記したとおりバリエーションの利いた力強いオフェンスを見せ、しかもターンオーバーを犯すことなく対抗し続けた。

フォーニエに対しドライブを仕掛ける渡邊。この日もチームに自信をもたらす活躍だった(写真/©JBA)

八村は力強さと落ち着いたプレーぶりで日本代表をけん引した(写真/©JBA)
大きな自信をもたらす歴史的勝利
これはものすごいことが起きるかもしれない――そう思っている間に、試合はどんどん日本のペースになっていく。11-12の時点から第2Q序盤にかけては日本に14-5のランが飛び出し一気に25-17となる。この間比江島 慎(宇都宮ブレックス)、シェーファー アヴィ幸樹(シーホース三河)、富樫勇樹(千葉ジェッツ)とメンバーが変わって入ってきても、コート上の緊迫感が途切れず全員が集中していた。
日本代表はさらに、金丸晃輔(島根スサノオマジック)の得点を皮切りに第2Q残り2分51秒に比江島がゴベアとのミスマッチを突くドライブからレイアップを決るまで15-7のラン。この時点で40-24とリードを広げ、クォーター終了時点でも46-30とそのリードを保つことに成功した。
ここまで日本のターンオーバーはまだ記録されていなかった。完璧な前半戦を終え、歴史的な勝利が見えてくる。しかしフランス代表側から見れば、これは来日初戦の最初の20分間。第3Qには違う姿を見せてきた。
ヒートアップしたフォーニエに8得点を奪われ、ゾーンディフェンスもうまく攻略された一方で、強度を強めたフランス代表のディフェンスを攻めあぐんだ日本代表は、このクォーターでは15-28と押し返された。第2Qの貯金をほぼ掃き出した日本は61-58でまだリードしていたものの、ここまで追い上げられると、終盤に向けて優位なのは、圧倒的な経験値があるフランス代表だと見るのが妥当だ。
しかし勝負としては、ここまでくればどちらが勝ってもおかしくない。最終クォーターで勝負できる、しかもわずかでもリードを保ってこの位置に立てたということは、日本代表にとって非常に大きな価値がある。
緊迫した状況で迎えた最後の10分間、日本代表はギアを一段階上げる。幕開けは比江島の3Pショット。インサイドにアタックした八村からのキックアウトを受け、追いすがるディフェンダーをドリブルからのステップバックで交わしての非常に難度の高いショットだった。

比江島は勝負どころでビッグショットを決め大きな仕事をした(写真/©JBA)
続くフランスのオフェンスがターンオーバーで終わった後、八村がこれも難しい振り向きざまのベビーフックをディフェンダーの頭越しに放り込む。次のディフェンスでは馬場がインサイドへのパスをうまくはじき、これが相手のキャッチミスを誘ってボールを奪い返した。その返しのオフェンスでは、八村のドライブ&キックからコーナーでパスを受けた比江島が3Pショットを沈め、さらにファウルも誘ってフリースローを成功させる。
残り時間は8分25秒。9-0のランで日本代表が70-58と12点差のリードを築き上げていた。
フランス代表は浮足立つことなく攻め返す。ここからの約5分間、日本は4-16と強烈な巻き返しを食らい、残り3分46秒にバトゥームが左コーナーから3Pショットを決めたところで74-74…。しかし日本代表の方も浮き足立ってはいなかった。
しかも是が非でもほしいところでディフェンスの好プレーが出た。日本がリードを奪い返したプレーは、ナンド・デ-コロのパスを死角から飛び出してインターセプトした馬場が、カウンターでダンクに持ち込んだプレーだった。
最終的にこれが決勝点。日本代表はその後も馬場が果敢なドライブからフリースローで加点し、さらに八村が1本、渡邊が2本フリースローを加えた。対してフランスはフォーニエが重要なフリースローをミスし、また残り13.7秒からのオフェンスでインバウンドプレーからのクイックヒッターを成功させることができず、チャンスを逃した。最終局面では、馬場の積極性と八村、渡邊の落ち着いた存在感が際立った。
男子日本代表は八村、馬場が合流する前の3試合を1勝2敗、フルメンバーそろっての2試合を2連勝で締めくくり、いよいよ東京オリンピック本番の日程に入る。直前までの合宿では連係もいっそう改善されることだろう。「世界を驚かせる」のはこれから。しかし、まずはこの勝利で、日本のファンを少なくともちょっとは驚かせ、また大いに喜ばせたのではないだろうか。
☆試合後のコメント
ラマス フリオHC

(写真/©JBA)
完璧な試合。40分間通じて選手たちがディフェンスとリバウンドを頑張りました。集中力が研ぎ澄まされていたのが、ターンオーバーが8%しかなかったことに表れています。一つ一つの局面で主役が飛び出し、今の我々の持っているすべてを出せた内容でした。
比江島 慎

(写真/©JBA)
世界のトップレベルにある相手との貴重な対戦で、僕らのやりたいプレーができたんじゃないかと。相手はスカウティングしていない状態だと思うんですけど、悪い時間帯もあったので、そこは突きつめてやっていきたいと思います。
渡邊雄太

(写真/©JBA)
フランスのコンディショニング不良もあったと思うんですけど、こういう試合で勝ちきれたというのは絶対に自信にして良いと思います。自分たちとしてできていない部分が多く見えた試合でもあったので、自信にして良い部分と、過信して「フランスに勝った」からと調子に乗ってはいけないというバランスはしっかりしなくてはと思っています。
田中大貴

(写真/©JBA)
出だしから集中して、皆試合に入れていたと思います。こういう強いチームとやるときに、自分たちからターンオーバーをしてしまうと、流れを渡すことになると思うんですけど、前半ゼロということで、集中して良い入り方ができたと思います。
☆対フランス代表戦の個別成績
スタッツ略号: P=得点, FG=フィールドゴール数, 3P=3ポイントフィールドゴール数, FT=フリースロー数, R=リバウンド数, OR=オフェンス・リバウンド数, A=アシスト数, S=スティール数, B=ブロック数、*=スターター
#2 富樫勇樹 5P, FG2/4, 3P1/2, 1R, 1A

(写真/©JBA)
得点はペイントに切れ込んでのドライビング・レイアップと、うまく相手のリズムをはずしての3Pショットと、どちらも子どもたちの手本になるような好プレー。エドワーズへのアリウープパスを含めボールの展開もよかった。
#6 比江島 慎 15P, FG3/3, 3P1/1, FT7/8, 1R, 2A, 1S

(写真/©JBA)
チーム3位の得点だが、3番手と呼ぶにはあまりにも貴重なビッグショットを決め続けた。この2試合でフリースローが10/11。本数と確率にアグレッシブさや緊迫感が表れる。ディフェンスでもよく相手に食らいついた。
#8 八村 塁* 19P, FG7/15, FT4/7, 2A, 1S

(写真/©JBA)
当然のごとく相手のマークが厳しく簡単なショットは打たせてもらえなかったが、最後のフリースローを得たプレーでも、やはり落ち着いて勝ちにいく判断ができている。渡邊との連係もより深まっていると感じる。
#9 ベンドラメ礼生 出場なし

(写真/©JBA)
この試合では出番を得られなかったので、本人としては悔しい思いがあるかもしれない。ワンポイントでゲームチェンジャーとして期待される難しい立場には、こんな日もあるだろう。ここまで、持ち味は十分示している。
#12 渡邊雄太* 18P, FG6/13, FT5/5, 9R, 2A, 2S, 1B

(写真/©JBA)
ベルギー代表よりさらにフィジカル面でタフな相手に、得点、リバウンドで数字を上げてきた。コンタクトを受けながらのドライブ、相手の高さをかわすフローターなど多彩なリムアタックをはじめ、さすがの存在感だった。
#14 金丸晃輔 2P, FG1/3

(写真/©JBA)
出場時間が6分5秒と短かったが、少ないチャンスでショットアテンプト3本中1本成功。3Pショット成功1本があるかないかで、数字的な印象はかなり変わる。打つべきタイミングで打てており、積極性がプレーに出ていた。
#18 馬場雄大* 6P, 2R, 2A, 1S

(写真/©JBA)
トランジションでのスティールから、カウンターブレイクでダンクに持ち込むハイライトシーンを提供。“ボールホーク(ball hawk)”ぶりが健在だった。鋭いドライブや速攻で得点を量産するのは本番の楽しみだ。
#23 エドワーズ ギャビン* 7P, FG3/5, 6R(Or3), 3A

(写真/©JBA)
ゴベアの肘をアゴに受け出場が18分32秒に限られなければ、ダブルダブル到達もあったかもしれない。富樫との速攻での得点もあり、“千葉ジェッツ・ブレイク”がワールドクラスの威力を持つことも証明した。
#24 田中大貴* 6P, FG3/7, 1R, 4A, 2S

(写真/©JBA)
世界7位の相手にも落ち着いてボールを運び、自ら得点を狙う積極性があった。相手の頭越しにフェイドアウェイ気味のミドルジャンパーを決めたシーンなど、NBAに行かないのが不思議なくらいみごとなプレーがあった。
#32 シェーファー アヴィ幸樹 3P, 3P1/2, 1S

(写真/©JBA)
エドワーズが負傷退場したあと、ストレッチ・ビッグとしての役割を引き継ぎ大健闘。渡邊のドライブ&キックから良い形で3Pショットわ成功させたプレーなど、ポテンシャルの高さをいま一度印象付けた。
#34 渡邉飛勇 出場なし

(写真/©JBA)
2試合連続で出番がなかったが、人生を変えるほどのインスピレーションを、味方からも対戦相手からも得たはず。もし「コーチ、僕も出してください」くらい言っていたとしたら、その積極性はプラスに捉えたい。
#88 張本天傑 1A, 1B

(写真/©JBA)
3本放ったショットが1本でも決まっていたら、より気分はよかったかもしれないが、そうでなくても、フランスの超がつくほどデカいフロントラインとディフェンス面で激闘しており、貢献度は高かった。
アイキャッチ画像/©JBA
取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)