ドリーム・オン・アイスで『マスカレイド』を演じる羽生結弦 7月9日にKOSE新横浜スケートセンターで開幕したアイスショー「ドリーム・オン・アイス2021」。6年ぶりの出演となった羽生結弦が演じたプログラムはロックナンバー『マスカレイド』だっ…



ドリーム・オン・アイスで『マスカレイド』を演じる羽生結弦

 7月9日にKOSE新横浜スケートセンターで開幕したアイスショー「ドリーム・オン・アイス2021」。6年ぶりの出演となった羽生結弦が演じたプログラムはロックナンバー『マスカレイド』だった。

「このプログラムは演じる機会がなかなかなかったのですが、ただあの頃とは違って、もっと大人になって、もっと表現したいこともあったりして。それに、もっと客観的に何かを感じてもらえるものが、この世の中だからこそ増えたんじゃないかなというふうに思い、自分の中で演じたいと、このプログラムを選びました」

 このプログラムは、2014−15シーズンのフリープログラム『オペラ座の怪人』の続編という位置付けで、2年前の「ファンタジー・オン・アイス」でX-JAPANのボーカリストToshlとコラボレーションし、4公演で踊っていた。その時は「最初から最後まで全開で滑らなくてはいけない、すごく体力を使うプログラム」と、羽生は苦笑しながら話していた。

 今回は7月9〜11日の3日間4公演で、中日の10日には2公演あるハードなスケジュール。羽生は今回の出演前に、「(ドリーム・オン・アイスは)いろんなことを学ぶというよりも、皆さんに見てもらいたいという気持ちのほうが大きい場所です。自分の気持ちを全部詰め込んで、いい演技をしたい。『見て!見て!』といった感じでずっと滑ってきました」との思いを話していた。

 今年4月の「スターズ・オン・アイス」に出演した後は疲労を取りながら新シーズンへ向けてスタートした。だが、ドリーム・オン・アイスについては、「身体をかなり作って、焦点を絞って練習をしなければいけないなと思っていた」と話していた。そして、会場では自分のプログラムだけではなく、オープニングやフィナーレの滑りにまで細かく気を配る雰囲気を見せた。



ドリーム・オン・アイスのオープニングに登場した羽生

 コロナ禍でアイスショーが中止になった昨シーズンは、観客の前で滑りたい気持ちが強かったという。その後は試合に出るたびに、自分が演技をすることで「何かを感じてもらえるのではないか」と思うようにもなってきた。そんな思いもあったからこそ、今回の出演を決めたという。

 そのアイスショーのプログラムに、自分の気持ちと体力を全開にして演じる『マスカレイド』を選んだことに、彼の思いの強さを感じた。

 演技直前、会場に事前収録された音声で「今シーズンは、自分の最大の夢に向かって全力で努力をしていきます。今日、この場所に、今の自分が持てるすべてのエネルギーをスケートに込めます」という羽生のコメントが流れる。最初から勢いよく滑り出した羽生は、その後の静寂なパートを滑り終えると、中盤のトリプルアクセルを迫力十分のジャンプで決め、そこから一気にエネルギーを爆発させる。

 自分の顔さえ忘れてしまいそうになった怪人の、素顔に戻りたいという熱望を込めるような激しい滑り。最後は大きさとスピードのあるコンビネーションスピンで締めくくる、圧巻の演技を見せた。

 演技後の取材で、羽生は練習を続けている大技4回転アクセル(4回転半ジャンプ)についてこう語った。

「昨シーズンから頑張ってきた身体をいたわりつつアクセルの基礎練習をして、4回転半に向けて一から作り直す作業をしっかりできたと思うので、これからシーズンへ向けて本格的に練習をしていきたいなと思っています」

 そして、2021−22シーズンのグランプリ(GP)シリーズ出場をこう話した。

「試合自体がないと4回転半を跳んでも意味がないと思うし、試合で決めたいという気持ちが強くあります。その機会を少しでも持てたらいいなと思い、今シーズンはGPシリーズに出場させていただくことを決めました」

 出場がGPシリーズ第4戦のNHK杯と第6戦のロステレコム杯(ロシア杯)に決まった経緯は、「NHK杯が決まった段階で、必然的にロシアになるかカナダになるか、中国になるかみたいな感じがありました。でも僕は世界選手権で3位なので、決定権は持てなかったんです」と話した。

 来年の北京五輪に関しては、ソチや平昌の時のように、「絶対に金メダルを獲りたい」という気持ちはないが、4回転アクセル成功への道の半ばにあれば出場も考えるという。そのうえで、「必ず、今シーズンで4回転半を決めるんだという強い意志はあります。しっかりとその決意を持って、今シーズンに挑みたいと思っています」と明言した。

 フリープログラムは昨シーズンからの『天と地と』を続行すると決めている。一方、ショートプログラム(SP)は、曲は決まっているが、演技の音源はまだできていない状態という。

 4回転アクセルに挑む羽生の今シーズンは、このドリーム・オン・アイスから始まった。