「ウィンブルドン」男子シングルス4回戦が行われた月曜日、第5シードのアンドレイ・ルブレフ(ロシア)を破り、番狂わせを演じ…
「ウィンブルドン」男子シングルス4回戦が行われた月曜日、第5シードのアンドレイ・ルブレフ(ロシア)を破り、番狂わせを演じたマートン・フチョビッチ(ハンガリー)。これまであまり注目されてこなかった選手だが、ジュニア時代から活躍してきた実力者だ。ATP(男子プロテニス協会)公式ホームページが2020年10月に行ったインタビューを交え、フチョビッチのこれまでの道のり、そして彼の目指す未来について伝えている。【ドロー表】ジョコビッチ、シャポバロフら出場!ウィンブルドン2021【動画】連敗していたルブレフに「今年はもう二度と君と当たりたくないよ」と言っていたフチョビッチ【テニスライター 内田暁 現地コラム】錦織圭1&2回戦 観戦記
テニスは、ハンガリーで特に人気があるスポーツではない。子どもたちが憧れるのはウォーターポロや、サッカー、バスケットボールなどだ。1948年のヨージェフ・アシュボード以来初めて「ウィンブルドン」準々決勝に進出したハンガリー男子選手となったフチョビッチが、人気のチームスポーツではなくプロテニスを選んだのはなぜなのか?
「僕に才能があって、試合や大会でたくさん勝てたからかな」とフチョビッチ。「ハンガリーでは、同年代中一番だった。ヨーロッパでも幾つかの大会で優勝したし、成功していたからとても好きだったんだ」
現在29歳、世界ランキング48位のフチョビッチがテニスを始めたのは偶然だった。ある日、父親のヨージェフさんが近所で友達とテニスをすることになり、当時5歳のフチョビッチが同行したことがきっかけだった。フチョビッチは12歳になるまでサッカーとバスケットボールと並行してテニスを続けた。「僕が若い頃、テニスをプレーすること、遠征して試合に勝つことはすごく簡単に思えた」とフチョビッチは語る。サッカーとバスケットボールをやめ、テニス一本に絞ることはさほど難しい決断ではなかったそうだ。「テニスで成功していたし、テニスをプレーするのが大好きだった。決断に時間はかからなかった」
15歳の時、フチョビッチが“第二の父”と呼ぶジェルジ・ヨー氏の勧めで、海外でテニスのトレーニングを積むことを決心する。今もフチョビッチのマネージャーを務めるヨー氏は、良いコーチと練習パートナーを持つことがフチョビッチのためになると説いた。「テニスコートの数が少なかった。ハンガリーにはハードコートもなかったし、良いコーチもいなかった。だから海外に行きたかった。プロテニス選手になりたいのなら、海外に行ってより強い選手と練習する必要があると言われたんだ」
フチョビッチは3年間ドイツに移住。努力が実を結び2010年7月、「ウィンブルドン」ジュニア部門の男子シングルスで1セットも落とさず優勝し、ジュニアの世界ランキング1位に輝いた。ところが、その後のキャリアは順風満帆とは行かなかった。突然、試合に勝つことが難しくなった。フチョビッチは自分がテニスで何を成し遂げたいのか、再度考えさせられたそうだ。世界ランキング100位以内に入ることも目標の一つだったが、ようやくそれが実現したのは2017年7月17日だった。そのわずか2週間後、フチョビッチはロジャー・フェデラー(スイス)に招かれ、スイスで1週間一緒に練習することになった。「当時の僕は、良いストロークを持っていたし、サーブも良かった。トップ100に入る実力があったし、トップ50も可能性があった。彼と練習して、いろいろ話したよ。その時、本当に目標を達成したい、と感じたんだ」
その年の10月以降、フチョビッチは100位圏外に落ちることなく着実にランキングを上げてきている。その理由の1つは、身体の強さだ。その点には彼も自信を持っている。16歳の頃からベンチプレスなど筋力アップのトレーニングを続けているという。「昔から力は強くて、若い頃から厳しい身体作りをしてきた。もっと小さな頃は痩せていて、コーチたちに身体作りをするべきだと教えられたんだ。自分を向上させたかった。小さな頃から向上心があり、高い目標に向かっていきたい子供だったのさ」
フチョビッチはコートに立つ時、自分は相手より体力があると信じているという。昨年の「全米オープン」2回戦で元世界3位のグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)と対戦し、フチョビッチはキャリア初となるグランドスラムでの5セットフルセットの勝利を4時間50分の死闘の末に挙げた。「僕を負かそうと思ったら本気で来なくちゃいけないし、簡単には勝たせない。もちろん相手のすべてがうまくいったら僕に圧勝することもあるだろう。それでも僕は最後の一球まで闘い抜く」
2020年になって、フチョビッチは身体的な強さだけでなく精神的な強さも必要だと考えた。その年の「全豪オープン」1回戦で当時世界13位のデニス・シャポバロフ(カナダ)に勝利した時、やっと自分の中で納得がいったという。だが昨年の「全仏オープン」1回戦で当時世界5位のダニール・メドベージェフ(ロシア)と対戦するまで、対トップ10の戦績は0勝14敗だった。メドベージェフとの試合についてフチョビッチは次のように振り返った。「試合の前は、あまり期待はしてなかった。ただコート・スザンヌ・ランランを楽しもうと考えていた。“コートに出て、ただ試合を楽しめ、期待はするな”って自分自身に言い聞かせたよ。試合に負けてもどうってことない、次がある。ボールをよく感じることができて、よく動けた。サーブも良かった。すべて完璧だったんだ」
フチョビッチは、4セットでメドベージェフを下した。それ以降、彼はただ前を見て進んでいる。そして「ウィンブルドン」4回戦でそれまで4連敗していたルブレフに勝利し、キャリア最大の勝利を噛み締めた。「僕の夢は、いつかトップ10に入ることだ」とフチョビッチは言う。グランドスラムで初めて進出した準々決勝では世界王者ノバク・ジョコビッチ(セルビア)にストレートで敗れてしまったが、フチョビッチが目標を叶える日はそう遠くないかもしれない。
ハンガリーの国民的スターとなったフチョビッチは、プレッシャーを感じつつも自分の進むべき道をしっかり見据えている。「時々、国民から、家族から、友人からのプレッシャーを感じることもある。でも自分をとても誇りに思っていると断言できる。自分のキャリアをとても誇りに思っているよ。もちろん、ここで終わりにするつもりはない」
(テニスデイリー編集部)
※写真は「ウィンブルドン」でのフチョビッチ
(Photo by Mike Hewitt/Getty Images)