サッカースターの技術・戦術解剖第65回 エミル・フォルスベリ<堅守スウェーデンのクリエイティブ担当> ユーロ2020のラ…

サッカースターの技術・戦術解剖
第65回 エミル・フォルスベリ

<堅守スウェーデンのクリエイティブ担当>

 ユーロ2020のラウンド16、スウェーデン対ウクライナで、スウェーデンのMFエミル・フォルスベリは同点ゴールを左足で決めた。つづいて得意の右足でポストとバーに当てている。外れた2本のどちらかでもゴールインしていれば、この試合の行方も違ったものになっていただろう。



堅守スウェーデンで攻撃の能力を発揮したフォルスベリ

 スウェーデンと言えば堅守が看板だ。規則的で合理的なゾーンディフェンスには定評がある。グループリーグのスペイン戦では、スペインがボールポゼッション85.1%を記録したが結果は0-0だった。無理なく無駄なく、スウェーデンらしく淡々と守り切った。

 ただ、守るだけでは勝てない。1950~60年代に活躍したブラジルの名手ジジは、「サッカーは寸足らずの毛布だ」と言った。「足にかけると上半身が寒い、頭からかぶれば足が出る」。

 つまり攻守のバランスをとるのは難しい。攻撃しないなら、相手に800本パスをつながれても、ほとんどボールを持たれていても、スウェーデンは無失点に抑える力がある。だが、守りながらも攻撃しなければいけないのがサッカーなのだ。

 守備第一ではあるけれども、スウェーデンも攻撃はする。長身で強さと柔らかさを兼ね備えたFWアレクサンデル・イサクは注目を集めた。スピードと馬力をみせたFWロビン・クアイソン、右からカットインしての左足の一発があるMFデヤン・クルゼフスキもいた。

 堅守からのカウンターで2トップの個の力勝負が攻撃パターンだが、そのなかで唯一と言っていいクリエイティブ担当が、左サイドハーフのフォルスベリである。

 特別に速くもないし大きくもない。技術は高いが驚くようなフェイントもない。フォルスベリの持ち味は、インテリジェンスだ。パスとドリブルを効果的に使い分け、味方と連係しながらゴールへの道筋を拓いていく。

 典型的な4-4-2のサイドハーフなのだが、近年は4-4-2自体が減っていて、サイドにはスピードが武器のウイングが多くなっている。フォルスベリはむしろ数少ないタイプかもしれない。

 ただ、プレーメーカーと言えるほどボールが集まるわけでもない。スウェーデンのプレースタイルでは、そこまで攻撃時間がないからだ。フォルスベリも多くの時間で、守備ブロックの一員として役割を淡々とこなしている。

 それでも、守備組織の歯車としてハードワークしながら、突然クリエイティブなプレーで「違い」をつくり出す。これができるのはフォルスベリだけだ。スウェーデンというやや特殊なチームの10番である。

<インサイドの流し打ちシュート>

 キックの名手だ。ドリブルもうまいが、フォルスベリならではの技術は、インサイドキックだろう。

 左からカットインして、右足でファーサイドへ巻いていくシュートが十八番。軸足の踏み込み位置がボールに近く、懐から飛び出すようなキックができる。

 左足の位置がボールに近くて、しかもインサイドで蹴るからそうなるのだが、上半身をひねりすぎない。パワーを出すには上体のひねりが必要なのだが、フォルスベリは上体をあまり動かさず、時計回りの方向へ少しねじる程度だ。

 これはファーサイドを狙う時に、ボールを引っかけすぎないことにつながる。上体を左へ開いてからねじればパワーは使えるが、それだとニアサイドは狙いやすくてもファーサイドに強いシュートを打つには向いていない。野球のバッティングなら、流し打ちでホームランを打てるのがフォルスベリである。

 コンパクトなインサイドキックで横回転、さらにはドライブのかかったシュートでファーサイドを狙える。イタリアのロレンツォ・インシーニェと並ぶ、ファーサイドへ巻くシュートの名手だ。

 ウクライナ戦の同点弾(1-1)は左足だった。その後の2回のチャンスに右足で狙ってポスト、バーに当ててしまったのは痛恨だった。試合を決め損ねているうちに、後半アディショナルタイムのDFマルクス・ダニエルソンの退場で流れが一変してしまった。

 それまでウクライナは、5バックで引いて守っていた。スウェーデンはいつになくボールを保持して、攻撃する展開である。ウクライナは攻めたほうが持ち味の出るチームなのだが、まずは相手にとって嫌な流れにしたかったのだろう。

 フォルスベリはライン間に入ってチャンスをつくり出していたが、いかんせんスウェーデンはあまり攻め慣れていない。互いに不得意な格好になったゲーム。勝ちに近かったのはスウェーデンだった。

 しかし、退場者が出て突入した延長戦では、ウクライナが攻め込む。スウェーデンも守備が彼らのリズムなので、ようやく噛み合った試合になったのだが、さすがに数的不利は厳しかった。アディショナルタイムに失点を喫して大会を去ることになった。

 それまでフォルスベリは随所に存在感を示していたが、逆にそれはスウェーデンのリズムではなかったことを意味している。見せ場が多くて目立ちすぎるのも考えものという、特殊なナンバー10なのだ。