中村憲剛×佐藤寿人第3回「日本サッカー向上委員会」@前編 1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。20…
中村憲剛×佐藤寿人
第3回「日本サッカー向上委員会」@前編
1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」、第3回は日本が抱えるストライカー不足問題について語ってもらった。
※ ※ ※ ※ ※

中村憲剛氏と佐藤寿人氏が考えるストライカーとは?
---- いきなりですが、優れたストライカーの定義ってなんでしょう?
中村 僕の答えはシンプル。点を取る人です。点を取ってくれれば、ほかのことは多少目をつぶります。守備の役割として、たとえばスイッチを入れることや二度追いすること、攻撃の役割として、ポストプレーやサイドに流れることなど、役割がいろいろあるなかで、優先順位を一番上に置いてほしいのは点を取るということ。
それ以外のところに価値を見出すFWも、なかにはいます。これは日本だけじゃなくて、世界的に見てもそう。でも、コンスタントに結果を出している人って、そこが最初に来ていると思う。当たり前なんですけどね。
佐藤 ストライカーとFWは違うと思うんですよ。FWはポジションを指す言葉で、ストライカーは点を取るという役割を担わないといけない。ほかのタスクを重視している選手って代えが利くけど、点を取り続ける選手は代えづらい。一番の仕事をしているわけですから。
いろんなことができるのはもちろん大事だと思うけど、最後のところで点が取れるか、取れないかではすごく大きな差がある。シーズンでふたケタ取れない選手は、翌年もその選手を軸として考えづらい。でも、守備とか起点になる仕事はあまりうまくないけど、シーズンで15点取っていたら、次の年もこの選手を軸として、ほかの部分を周りでどう補うかという逆算ができると思うんです。
中村 チームとして設計図を描けるよね。フロンターレだったら、ジュニーニョ、大久保嘉人(現セレッソ大阪)、小林悠といたけれど、最終的に彼らが点を取れるように周りを作っていく計算ができる。点を取ってくれるのは、個人的には大正義だから。
佐藤 数字で評価が全然変わってくるのがFWなんです。僕はふたケタ取ったシーズンでも、減俸されましたから。ふたケタは最低限で、15点は取らないと、それ以上の評価を得るのは難しかったですね。
中村 シビアだよね。数字がダイレクトで反映される。僕らのようなポジション(MF)とはちょっと違う。
---- 点を取ることがすべてだと考えると、世界的に見て今、最も優れたストライカーは誰になりますか。
中村 個人的にはレバンドフスキ(バイエルン)かな。(1シーズンで)40点以上取ったわけだから。
佐藤 レバンドフスキがブンデスじゃなくて、プレミアに行ってどれくらい取れるか見てみたいですよね。ブンデスだとちょっと力の差があるじゃないですか。バイエルンという毎試合チャンスがあるチームのなかで取れるところもあると思うので。上と下の力の差があまりないプレミアならどうなるのかな、という興味はありますね。
---- レバンドフスキの技術的に優れているところはどこですか?
佐藤 常に動き直しができるところだと思います。ひとつの動きでパスが出てこなくても、すぐに動き直して、またボールをもらえるポジションを取れる。この時に大事なのは身体の向き。僕は今、子どもたちに教えることが多いですけど、「いろんな情報を見ましょう」と伝えているんです。
いろんなところを見るためには、適切な身体の角度を作らないといけない。具体的には、出し手も見れるし、ゴールも見れる状態ですね。そうやっていい身体の向きが取れていると、ボールを持っている人が誰を使うかという選択をする際、そこの選択肢に入りやすい。
その状態に持っていくのが、レバンドフスキはうまいんです。だからボールがたくさん来るし、その分、シュートチャンスも増えてくる。
中村 出す側からすると、動き出しがはっきりしている選手はやりやすい。彼の動き出しに合わせてこういう感じでパスを出せば、点が入るだろうなとイメージできるんです。パっと顔を上げた時に、こうやって点を取りたいんだという絵を浮かばせてくれるのはいいFWですね。
代表で寿人とやった時も、僕が顔上げたらギュンと走り出すからやりやすかった。岡ちゃん(岡崎慎司)もそういうタイプでしたね。
佐藤 パサーのどの足にボールが入ったら出てくるか、というのはだいたいわかるので、僕はそこばかりを見ていましたね。出てこない状態の時に走っても意味がないので。
中村 出し手が蹴れない状態の時は、FWは当然動き出せない。だから「出せる」という合図をわかりやすくするために、僕はしっかり止めることにこだわっていました。
---- これは来るというタイミングで走っても、ボールが出てこない時もありますよね。
佐藤 たぶん、しっかりと止められてないんでしょうね。止められてないから、FWの動きを見れていないんです。僕はずっと出し手に要求していたのは、1回で蹴れるところにボールを止めてくれということ。言い続けることで、止められなかった選手が止められるようになるんです。その意味では、ストライカーが出し手を育てるということはあると思います。
中村 僕はジュニーニョに育ててもらいました。めちゃめちゃ言われましたから。なんで前を見ないのか、見れただろ、逃すなと。多少無理でもいいから出せ、とも言われました。
佐藤 日本人って、ミスしたくないプレーが多いじゃないですか。でも、海外の選手はトライの数が多い。一発のパスで通っちゃえば、それで1点でしょと。
中村 それね。それを教わったのは大きかったですね。ジュニーニョとやっていなかったら、その感覚は養われなかったと思います。考え方としては一緒ですよ。裏1本で点が取れれば一番楽だよねと。まずそれがあって、そこからいろんな動きが逆算されていくという発想ですね。
佐藤 裏を取ればディフェンスラインが下がる。ひとつのアクションで、状況を変えられるんです。でも、走っても、ラインを下げても、結局出し手が横パスばかりだと、状況は変わらない。
中村 見えていても出せない時もある。そういう時は年齢に関係なく謝ります。いい動きしているから当然だし、見えていたよということを伝えてあげる意味もあります、そうすると、もう1回走ってくれますから。
佐藤 FWの立場で言えば、見てくれているだけでいいんですよ。10回走って、10回出てくるとは思っていないんで。見てくれていただけで満足ですし、トライして通らなくても満足です。だけど、まったく見ようともせず、下げたり、横パスばかりだと、何のためにサッカーをしているのかと思いますよ。
---- ストライカー不足は日本だけではなく、世界的なテーマでもあると思いますが、日本でなかなかストライカーが育たない原因について、おふたりはどのように考えていますか。
中村 まず、タスクが多すぎですよね。守備も含めて、みんなでやらなければいけない空気感がある。いろんなタスクをこなしたうえで、点を取ってねと言われているわけで、点を取るという仕事に力を注げないところはあると思います。
佐藤 FWを理解していない監督が多いと思うんです。点を取るという作業に集中できない。攻撃の終着点が誰なのか、というのを確立できていないチームが多い。逆にそこを作れているチームは、上位にいると思いますよ。
中村 ほかの仕事をして「ナイスプレー」と評価されると、それでいいんだと思っちゃうよね。
佐藤 そうすると、ストライカーの選手も点を取る責任を持ちづらくなる。守備をやっとけば、点を取らなくてもいいやって。
中村 それでチームの勝利に貢献できると思ってしまえば、満足しちゃうかもしれない。
佐藤 でも、数字は残してないから、ストライカーとしてはまったく評価されないんです。もちろん、昔に比べればタスクは増えましたけど、指導者の問題もあるとは思います。点を取るという仕事をもっとFWに求めていかないといけないし、背負わせないといけないと思います。
中村 たしかにプレッシャーをかけないといけないかもね。とくに育成のところでは、ほかのことをやらなくても点を取ってくれれば、あまり口うるさくしないとか。だけどその変わり、結果を出せなければ、躊躇なく代える。そういう危機感のある状況に置くことも必要でしょう。
---- 育成のところから変えていかないといけない、ということですね。
中村 子どもの頃なんて、点取り屋がいっぱいいるじゃないですか。でも、年代が上がるごとに、少なくなっていくんですよね。
佐藤 子どもの頃に点が取れる選手って、フィジカルに秀でていたり、技術的にずば抜けていたりするんですけど、その年代である程度突出すると、刺激がなくなるので努力をしなくなるんですよ。逆に足りないほうが、埋めるための努力を積み重ねられる。そこは育成の難しさでしょうね。
中村 壁を作るということで、挫折を経験させることも大事かもしれない。上の年代に早めに上げたりしてね。そうすると、通用しないから考えるようになる。点を取るためにどうやって動き出せばいいのか、どこに顔を出せばいいのかって。
(中編につづく)
【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに入団。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重66kg。
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重65kg。