これまで数々の栄光を手にしてきた世界有数の強豪イタリア代表「アッズーリ」にとって、60年ぶりにW杯本大会出場を逃した4年前の出来事は、不覚のひと言では片づけられない屈辱的事件だった。 ただし、2018年W杯予選敗退は驚きの黒歴史とはいえ、…

 これまで数々の栄光を手にしてきた世界有数の強豪イタリア代表「アッズーリ」にとって、60年ぶりにW杯本大会出場を逃した4年前の出来事は、不覚のひと言では片づけられない屈辱的事件だった。

 ただし、2018年W杯予選敗退は驚きの黒歴史とはいえ、実際は2006年に世界の頂点に立って以降、近年のイタリアは"密かな"低迷期が続いていたと言っていい。それを象徴するのが、2010年、2014年と続いたW杯におけるグループリーグ敗退という失態だ。



アッズーリの攻撃を牽引するインシーニェ(左)とジョルジーニョ(右)

 とはいえユーロでは、2008年にベスト8、2012年に準優勝、2016年にベスト8と、それなりの結果を残していたのも事実。

 だが、その中身を見てみると、2008年大会と2012年大会はギリギリの成績によるグループリーグ突破。唯一、アントニオ・コンテ監督の下で挑んだ2016年大会ではベルギーを抑えてグループ首位通過を果たしたが、それ自体がサプライズと言われるほどイタリアの前評判は高くなかった。

 そういう意味では、4年前に起こった事件には十数年にわたる伏線があったのだ。

 そして、そのなかでとりわけ深刻とされてきたのが、ワールドクラスの不在だった。つまり、ファビオ・カンナバーロ(2011年引退)、フィリッポ・インザーギ(2012年引退)、アレッサンドロ・デル・ピエロ(2014年引退)、フランチェスコ・トッティ(2017年引退)、アンドレア・ピルロ(2017年引退)など、2006年W杯優勝メンバーの後継者が長期にわたって枯渇した状態が続いたことである。

 しかし、今回のユーロに臨むイタリアは、明らかにこれまでとは違った流れの中にある。見る者に希望を与え、期待を集めるにふさわしいサッカー。ようやく低迷期から脱出しそうな兆しが見て取れる、ワクワクするようなチームに仕上がっているのだ。

 改革の旗手は、2018年5月から指揮を執るロベルト・マンチーニ監督だ。イタリアサッカー界のレジェンドであり、指導者としても数々のタイトルを手にしてきたマンチーニは、W杯本大会出場を逃して混乱しているチームをまさにゼロから作り直した。

 選手選考においても、過去の実績にとらわれることなく、可能性を感じさせる選手を幅広く招集。チーム内の競争力をアップさせた結果、優秀なタレントたちがその期待に応え、代表チームにおいても目を見張る成長を遂げたのである。

 その現在のアッズーリの中核となっているのが、中盤トリオだ。

 アンカーポジションで全体をコントロールするのは、チェルシーのチャンピオンズリーグ優勝の原動力となったジョルジーニョ。そしてその両脇で攻守のつなぎ役を果たすのが、すでに40キャップを数えるパリ・サンジェルマンのマルコ・ヴェラッティと、スクデットを獲得したインテルで不可欠な戦力へと飛躍したニコロ・バレッラだ。

 彼ら3人が見せるクリエイティブかつインテンシティの高い中盤の構成力は、出場24カ国中でも屈指のレベル。マンチーニ監督が就任して以来、あっという間にボール支配率が高まった最大の要因は、彼ら3人のクオリティにあると言っても過言ではないだろう。低迷期のアッズーリに失われていたファンタジーが、ようやく復活した印象だ。

 そのほかにも、サッスオーロで急成長を遂げたマヌエル・ロカテッリ、ユーティリティ性の高いローマのロレンツォ・ペッレグリーニ、あるいはアタランタのマッテオ・ペッシーナも控える。とくにジョルジーニョやヴェラッティが不在の時、ロカテッリが遜色ないパフォーマンスを見せるようになった点が大きい。

 一方、中盤でしっかり保持したボールをフィニッシュする3トップの戦力も、なかなかの充実ぶりだ。

 1トップは国内最高のゴールマシンでもあるベテランのチーロ・インモービレ(ラツィオ)。左サイドは崩しのドリブルと決定力を兼ね備えたロレンツォ・インシーニェ(ナポリ)、右は一躍レギュラーに躍り出たドメニコ・ベラルディ(サッスオーロ)。トリノのアンドレア・ベロッティ、ユベントスのフェデリコ・キエーザも虎視眈々とスタメンを狙っている。

 マンチーニ監督は中盤から前線の才能を最大限に生かすべく、4−3−3システムを採用する。ただし、左サイドバックを務めるレオナルド・スピナッツォーラ(ローマ)、もしくはエメルソン(チェルシー)がいずれも所属クラブで左ウイングバックを担当していることもあり、攻撃時はかなり高いポジションをとる傾向がある。

 そのため、陣形は左右非対称の3−4−3に可変する。その柔軟性も、新生アッズーリの見どころのひとつだ。

 もっとも、その大胆とも言える陣形が成立するのも、最終ラインにユベントスの重鎮ジョルジョ・キッエリーニとレオナルド・ボヌッチのふたりと、右サイドバックのアレッサンドロ・フロレンツィ(パリ・サンジェルマン)が存在するからにほかならない。経験豊富な彼らと、若き守護神ジャンルイジ・ドンナルンマ(ミラン)は、イタリア伝統の守備力を維持するための絶対的な戦力となっている。

 マンチーニ体制になってから、戦績も目覚ましく改善された。最後に敗れた2018年9月のポルトガル戦(ネーションズリーグ/0−1)以来、目下27戦無敗中で、現在8試合連続クリーンシートを継続している。

 今回のユーロ2020予選でも、対戦相手に恵まれたとはいえ、10戦全勝37得点4失点というほぼパーフェクトな成績だ。FIFAランキングも7位まで上昇。チーム全体が自信に満ちあふれたいい状態で本番を迎える。

 イタリアは6月11日(現地時間)、今大会の開幕戦となるトルコ戦に挑む。

 確かに現在のトルコには、リーグ・アン優勝チームのリールのトリオ(FWブラク・ユルマズ、MFユスフ・ヤズズ、右SBゼキ・チェリク)や、ミランのハカン・チャルハノールといったタレントを揃えた難敵ではある。人数制限はあるにせよ、地元ローマのオリンピコで地元サポーターの声援をバックに戦えることは、何物にも代えがたいアドバンテージになるはず。

 イタリアが初戦でしっかり白星を飾ることができれば、その後のスイス戦(6月16日)とウェールズ戦(6月20日)も同じ会場で戦えるため、勝ち点を積み上げる可能性は高いだろう。順当にいけば、ベスト8が最初の壁になる。

 好調時ほど落とし穴にハマる悪しき伝統は気になるところだが、それでも今回のイタリアは久しぶりに期待するにふさわしい、必見のチームであることは間違いない。