これまでの"ゴタゴタ"が、まるでウソのような手際のよさである。 東京五輪に出場するU-24日本代表、いわゆる五輪代表は…

 これまでの"ゴタゴタ"が、まるでウソのような手際のよさである。

 東京五輪に出場するU-24日本代表、いわゆる五輪代表は現在、登録メンバーへの生き残りをかけた最終選考の真っ只中にあるが、そうした24歳以下の選手に先駆けて、まずはオーバーエイジ枠(以下、OA)のメンバーが決定した。

 その顔ぶれは、DF吉田麻也、DF酒井宏樹、MF遠藤航。いずれも現在、A代表でも主力中の主力を成すメンバーである。

 ワールドカップなどと異なり、五輪にはFIFAが定める選手への拘束力が適応されないため、彼らを招集するとなれば、所属クラブとの交渉も簡単ではなかっただろう。にもかかわらず、これほどのメンバーを大会開幕のおよそ2カ月も前に発表できるとは、自国開催の五輪ともなると、仕事が早い。それが率直な印象だ。



東京五輪のOA枠には遠藤航(写真)をはじめ、吉田麻也、酒井宏樹とA代表の主力3人が選ばれた

 過去の五輪を振り返ると、OAの招集を巡るトラブルが少なくなかった。

 その内容はさまざまだが、要するに監督が望むOAの選手をチームに加えることができないという事態が、何度も起きているのである。

 だが、今回は違った。

 五輪が(基本的に)23歳以下の世界大会と位置づけられるようになった1992年バルセロナ五輪以降、日本は1996年アトランタ五輪から7大会連続で出場しているが、これほど贅沢なOAの補強が、しかもこれほどスムーズに行なわれたのは、間違いなく初めてだ。

 それは、過去のOA選考を振り返れば、よくわかる。

◆1996年アトランタ五輪(グループリーグ敗退)
【OA枠】なし
 28年ぶりの五輪出場とあって、出場権をその手で獲得した選手たちを出してやりたいという空気があったうえ、まだ日本がワールドカップに出場したことのない時代でもあり、そもそもOAに国際経験豊富な選手など存在しなかった。

 結局、西野朗監督はOAを使わなかったが、日本サッカー協会も何がベストなのか、よくわからなかったというのが本当だろう。

◆2000年シドニー五輪(ベスト8)
【OA枠】GK楢崎正剛、DF森岡隆三、MF三浦淳宏
 A代表と五輪代表を兼任していたフィリップ・トルシエ監督は、森保一監督がよく口にする「1チーム2カテゴリー」という考え方を、今以上に具現化していた。五輪世代にも中田英寿らA代表の主力となる選手が何人もいて、ふたつの代表チームの垣根はないに等しかった。

 五輪本番ではA代表の主力である楢崎と森岡、ポリバレントな三浦がOAで加わったが、適応に問題はなく、監督兼任のメリットが如実に現れた。

◆2004年アテネ五輪(グループリーグ敗退)
【OA枠】GK曽ケ端準、MF小野伸二
 山本昌邦監督は、曽ケ端、小野に加え、FW高原直泰の招集も希望したが、高原の病歴(エコノミークラス症候群)がネックとなり、実現せず。小野と高原をコンビで加えるという目算が崩れる結果となった。

 OAの重要性を理解していた山本監督は、U-22代表の頃から国内合宿に宮本恒靖らOAの選手を招集し、五輪本番でのOA加入を事前にシミュレーションしていたが、結果としてそれは実を結ばなかった。

◆2008年北京五輪(グループリーグ敗退)
【OA枠】なし
 反町康治監督はMF遠藤保仁、FW大久保嘉人の招集を望んだが、選手自身のコンディションや所属クラブの事情により、実現せず。アトランタ五輪以来となる"純U-23代表"で出場することになった。

 五輪本番の成績は振るわなかったが、北京世代のその後の成長を見ると、OAが使えず、若い選手にチャンスが与えられたことがプラスに働いた、のかもしれない。

◆2012年ロンドン五輪(4位)
【OA枠】DF徳永悠平、DF吉田麻也
 五輪世代で人材不足だったセンターバックと左サイドバックにOAの選手を加えるという、ある意味で非常にわかりやすい選考となった。

 とはいえ、所属クラブとの兼ね合いもあり、OAの招集にはそれなりの制限があったのだろう。3枠すべてを使い切ってはおらず、さらには右サイドバックが本職の徳永を左での起用を前提に招集しているあたりに、関塚隆監督の苦労がうかがえた。

◆2016年リオデジャネイロ五輪(グループリーグ敗退)
【OA枠】DF藤春廣輝、DF塩谷司、FW興梠慎三
 手倉森誠監督は、大迫勇也などの海外組をOAで招集したいと希望したようだが、叶わず。A代表での国際経験が豊富とは言えないながらも、Jリーグで目立った活躍をしていた選手がOAで加わった。

 だが、結果的にOAの選手にミスも出て、チームはグループリーグ敗退。OAで出場した選手の経験不足が批判の的にもなった。

 こうして振り返ってみても、A代表の主力級がOAで3人そろった例は過去になく、それどころかOAを3人加えることにすら苦労することも珍しくなかった。

 過去6大会のうち、OAをひとりも入れなかった2大会はグループリーグ敗退。逆に、A代表の主力級を加えていた2大会では決勝トーナメント進出を果たしている。結果を求めるなら、OAにはA代表の主力級を入れるべき。少なくとも過去の歴史はそう教えてくれている。

 だとすれば、今回の選考は、まさに過去の傾向と対策に沿って、迅速になされたものだと言えるだろう。

「1チーム2カテゴリー」という発想の下、A代表の主力をOAに加えたことはシドニー五輪に通じるし、DFラインにOAを加え、まずは守備の安定を図ろうとするところは、ロンドン五輪に通じる。

 いわば、今回のOA選考は、過去にグループリーグ突破を果たした2大会、すなわちシドニーとロンドンの"いいとこ取り"である。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、思うように強化試合が組めず、海外遠征で腕を磨く機会も失われた。東京五輪へ向けての準備が順調だったとは言い難い。

 だが、少なくともOAに関しては、過去最高の準備が整った。そう断言していいと思う。