モンゴルに14-0で大勝した2カ月後、日本代表は同じフクダ電子アリーナで、ミャンマーに10-0で大勝した。W杯予選とい…
モンゴルに14-0で大勝した2カ月後、日本代表は同じフクダ電子アリーナで、ミャンマーに10-0で大勝した。W杯予選という公式戦で、2試合続けて10点差以上の勝ちを収めた日本。これほど緩い試合を続けている国は、世界にどれほどあるのか。喜びたくなる気持ちより、心配のほうが先に立つ。
結果的に10-0で大勝することになったミャンマー戦に、森保一監督は、ベストとおぼしき11人を送り込んだ。この采配もまた心配になる。開催国として「金メダル」を目標に掲げて臨む東京五輪が迫るなかで、U-24のメンバーに、なぜもっと出場機会を与えないのか。
W杯予選という由緒正しき公式戦は、相手の強弱にかかわらず、ベストメンバーで戦うのが本筋と、決めてかかっているのだろうが、その大真面目な杓子定規的思考は、日本全体の強化を考えると、足かせになっている気がして仕方がない。石橋を叩いて渡るにもほどがある、臨機応変とは言い難い、これでは何のための兼任監督なのかと問いたくなる。

大迫勇也(ブレーメン)の5ゴールなどでミャンマーに大勝した日本代表
それはともかく、2試合続けて大勝劇の舞台となったフクアリは、日本のスタジアムにあっては希少な、眺望に優れたサッカー専用スタジアムだ。サッカーのゲーム性を俯瞰で堪能することができる。気の抜けたビールのような試合も、思いのほか楽しく観戦できる。
前半、格上の日本に対し、ミャンマーは堂々と4-3-3で臨んできた。頑張って、後ろに引かず、前から圧力を掛けてきた。ところが、大敗を恐れたのか、後半は5バックに布陣を変更。後ろに下がり、ゴール前を固めた。おのずと、それなりに攻めることができていた前半とは一転、日本陣内へ侵入することさえままならなくなった。
日本が保持するボールに対し、高い位置から反応できなくなっていた。日本はその結果、ボールをスイスイと展開した。その様子はフクアリの最上階に位置する記者席から、手に取るように伝わってきた。ボールを楽に回せたことは確かだった。しかし、それが胸のすくような展開だったかと言えば、ノーだ。
◆欧州でプレーする日本人選手32人の今シーズンを5段階評価で総括。最高評価は誰だ?
前回のモンゴル戦で、筆者は、4-2-3-1の3の左で先発した南野拓実(サウサンプトン)が、気持ちよさそうにプレーできていないと記した。適性が左サイドではなく真ん中(1トップ下)にある選手だと述べた。
しかし、そのポジションには、ドイツでブレイク中の鎌田大地(フランクフルト)がいる。この南野と鎌田の問題を、森保監督は布陣を4-3-3に変更することで解決した。モンゴル戦の後半、両者はそのインサイドハーフに収まり、きれいに共存することになった。
4-3-3は、外せない2人をいかにして共存させるか、悩んだ末に生まれた選択肢だった。今回のミャンマー戦も、スタートは南野を左に置く4-2-3-1だったが、後半17分から、南野と鎌田をインサイドハーフに据える4-3-3に変更した。
守備的MFのひとり守田英正(サンタクララ)を削り、原口元気(ハノーファー→ウニオン・ベルリン)を左に投入する戦術的交代を行なうことで、両者はピッチ上にきれいに収まった。しかしそれでも、日本のサッカーは、音程が微妙にズレるような、瞬間、瞬間でいちいち気になる違和感をそこはかとなく発露させていた。
前回モンゴル戦は、左サイドバック(SB)で小川諒也(FC東京)がフル出場した。小川は左利き。前回と今回の違いはこの左SBにあった。
ミャンマー戦で先発を飾ったのは、前回は新型コロナの影響で招集が見送られた長友佑都(マルセイユ)だった。今回で代表キャップ123を数える右利きのベテラン左SBが、フルタイム出場を果たした。したがって、南野が4-2-3-1の3の左でプレーした後半17分までも、原口元気がプレーしたそれ以降も、左サイドには右利きが2人並ぶことになった。
それが違和感の源である。ピッチの左サイドにいる2人が、2人ともほぼ右足1本でプレーすれば、左サイドにおける縦への推進力は低下する。左サイドの深い位置まで侵入しにくいサッカーに陥る。伊東純也(ゲンク)と、酒井宏樹(マルセイユ)、室屋成(ハノーファー)が縦の関係を築いた右サイドに比べ、著しくスムーズさを欠いた。なによりバランス的によくなかった。美的な問題を抱えていたのだ。
もっと言うならば、この日プレーした途中交代を含めた16人の選手の中に、左利きは1人もいなかった。フィギュアスケートやアーティスティックスイミングではないけれど、これでは芸術点は上がらない。
美とか芸術とか、サッカーに関係ないだろう。大切なのは、美しいサッカーではなく勝つサッカーだと、突っ込まれそうだが、美しさにはバランスという要素が含まれている。そしてバランスはサッカーで最も重要な要素であると、視角の鋭いフクアリの上階からピッチを俯瞰すると、あらためて認識させられる。
かつては本田圭佑がいた。それ以前は中村俊輔がいて、チームメイトには右利きなのに左利きのようにプレーする小野伸二もいた。さらにその昔には名波浩が大将然と構えていた。彼らが存在することで、右対左のバランスは保たれていた。
ロシアW杯以降、本田と入れ替わるように登場した久保建英(ヘタフェ)には、この日、出場機会は与えられなかった。左SBもできる左利きのCB中山雄太(ズヴォレ)も同様だ。
というわけで、ミャンマー戦の日本代表には、最後まで違和感を抱えながら観戦することになった。イメージ的にいうと、右回転(時計と反対回り)するサッカーだ。そこから左右均等に流れるサッカーに、日本代表は変貌できるか。隠された課題だと思う。
小川諒也、中山雄太、久保建英、坂元達裕(セレッソ大阪)、堂安律(ビーレフェルト)、三好康児(ロイヤル・アントワープ)......。左利きである彼らを、ピッチにどうバランスよく落とし込むか。
左右のバランスが整えば、サッカーは間違いなく効率的になる。眺望に優れた急傾斜のスタンドから、「映える」サッカーを堪能することができる。この日もベンチ脇から指示を飛ばしていた森保監督だが、スタンド上階から俯瞰すれば、その妙な生真面目さも、多少は和らぐのではないか。よりよいアイデアが浮かぶのではないかと言いたくなった。
折しもこの日、川崎フロンターレの本拠地、等々力陸上競技場が、球技専用に改築されるというニュースが報じられた。そのサッカーは俯瞰した時どうなのか。見映えのいいサッカーの追求は、強化と同義語だと、この日、フクアリの記者席であらためて実感した次第だ。