本契約に続くNBAでの目標は優勝 トロント・ラプターズの一員として2020-21NBAシーズンの戦いを終えた渡邊雄太が、…

 

本契約に続くNBAでの目標は優勝

 

 トロント・ラプターズの一員として2020-21NBAシーズンの戦いを終えた渡邊雄太が、日本時間5月21日に日本のメディアに向けてズーム会見を行った。それ以前に北米記者も含めたラプターズのシーズン終了会見があったが、この日は渡邊個人として、日本のメディアを介して日本のファンに向け、挨拶と応援に対する感謝の意味を込めた会見となった。
 参加メディアに対する感謝の言葉で始まった会見で、渡邊はまず「今シーズン、皆さんもご存じのとおりと思いますが、自分が一つの目標としていた本契約をシーズン終盤にようやく勝ち取ることができました。ただ、自分の中ではそれは通過点と思っていますし、来シーズンはまだまだ油断できる立場ではなく保証をもらえていないので、これからが勝負。来シーズンに向けてしっかり頑張っていくので、よろしくお願いします」と2020-21シーズンを総括した。
 渡邊は2020-21シーズンが始まる前のオフ期間には、所属チームがないフリーエージェントの立場だった。ただ、過去2シーズンに渡ってメンフィス・グリズリーズとメンフィス・ハッスルで見せてきた実力とプレーの方向性からみて、また、ワッサーマンという力のあるエージェントのバックアップがある中で、NBAに居場所を見つけられるポテンシャルは十分に感じさせていた。巨大なビジネスを動かす有力エージェントがサポートするのは、大いにその価値ありと判断したアスリートだけだ。
 開幕前月の11月になっても「渡邊○○入り決定」という大きな知らせは聞かれることがなかった。ラプターズのキャンプに参加、エグジビット10契約で2020-21始動という道が切り開かれたのは12月に入ってからのことだ。エグジビット10はNBAと選手会の間で締結されている現在の包括的労働協約(CBA=Collective Bargaining Agreement)で導入された新たな契約形態で、最低年俸による1年間契約で、シーズン中の立場の保証はない。しかし渡邊はキャンプで頭角を示し、シーズン開幕前に契約形態を昨シーズンまでグリズリーズと交わしていたのと同じツーウェイ(Gリーグのチームに籍を置きながらNBAのチームの試合に出場できる)にアップグレードさせることに成功。その後レギュラーシーズンの実戦でも、特にディフェンスと3Pシューティングを持ち味として活躍し、結局Gリーグに行くことが一度もないまま、ラプターズの一員としてシーズン丸ごとを過ごすこととなった。その過程で4月18日に、念願だったラプターズとの本契約を手に入れている。
 半年前は、ほとんどゼロの状態からNBAのキャリアをリセットしたような状況だった。しかし今は本契約を手にしたNBAプレーヤーだ。立場の違いにより、チームから求められるものも違ってくるだろう。特に今シーズンのラプターズは、7年間続いたプレーオフへの連続出場が途切れ、フロントもコーチ陣も非常に悔しい思いをしている。ラプターズの社長を務めるマサイ・ウジリ氏は、自身の契約延長も近々交渉を迎える立場ながら、先週行われたシーズン終了会見の場で「チャンピオンシップを勝ち取れる位置に持っていかなければいけない」と話し、2019年に達成した王座獲得を近い将来再び実現することに向けた強い意欲を見せていた。

 

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ラプターズのマサイ・ウジリ社長は2度目の王座獲得に強い意欲を見せている


 21日の会見でその点について質問させてもらった際、渡邊は今シーズン実現できなかったチャンピオンシップが自身の目標だと明言した。「僕がNBAにいる間の目標は本契約を勝ち取ることと優勝すること。今シーズンも、ラプターズに残してもらった時点でチームは優勝を目指してやっていましたし、自分も優勝を目指してやっていました。今シーズンは勝つことができなかったので、実力で証明できなかったんですけど…。来年も、自分はまだ安心できる立場ではないというか、こういう世界ではどこにいても安心というのはできないんですけど、まず自分がしっかりチームのロスターに残って、その中で優勝を目指していくというのは今シーズンと変わりません。僕はリングを獲ることを目指して、最初からやっていくつもりです」
 ラプターズのニック・ナースHCは、シーズン中の会見でたびたび、渡邊のディフェンスにおける一歩目の速さを絶賛し、また3Pシューターとして信頼と期待を寄せていることを話していた。ベンチから登場してチームに勢いをもたらすハッスルも大きなポイント。逆にゴールに近い位置でのフィニッシュ力と、3Pエリアからゴールに向かうまでの間のスペースにおけるプレーメイクに課題があると明かし、「ネクストアクション・オフェンス」と呼ばれるラプターズのシステムの中で、ボールが廻ってきたら流れを止めることなく自らとチームの得点機を創り出すことを求めていた。

 

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ラプターズのニック・ナースHCは、シーズン中の会見でたびたび渡邊について高評価を語っていた


 この中で特に大きなポイントとなるのは、渡邊が当初から武器として認識しているディフェンスと3Pシューティングだと思われる。また、ディフェンスについては開幕当初から高い能力を発揮し続けることができていたのに対し、3P成功率が大幅に上昇したのは4月に入ってからだったことを思えば、3Pショットの安定感と確率をさらに高めることが最重要事項ではないだろうか。このほかの課題を改善するのが大事なのは当然だが、それについてラプターズと渡邊がおろそかにすることはないだろう。
 渡邊は自身の3Pシューティングについて、「今シーズンでいうと、目標だった(3Pショット成功率)40%は達成できているんですけど、試投数(アテンプト)が圧倒的にまだまだ少ないので」と話した。「そこを増やしていく中で40%をキープして、さらに42%、43%、45%とかで決めていければ、コーチ・ナースがいう『脅威となるシューター』になれると思います。今回40%決めたからといって満足はしていないですし、チームがそういうことを僕に求めているのならば、さらにその上を行く選手になれるように、また今からしっかり努力していくしかないかなと思います」
 今シーズン、NBAの3Pリーダーはジョー・ハリス(ブルックリン・ネッツ)の47.5%。上位5人はいずれも45%以上だ。ハリスは今シーズン69試合に平均31.0分間出場して、444本のアテンプト中211本を成功させていた。平均得点14.1は、ジェームズ・ハーデン、カイリー・アービング、ケビン・デュラントのビッグスリーに次ぐチーム4位。そして何より、ネッツはイースタンカンファレンス2位でプレーオフに進出している。
 これに対し渡邊は50試合に平均14.5分間出場して90本中36本を成功させての40%。平均得点は4.4だ。渡邊に即刻ハリス級になることを要求するのは酷かもしれないが、似たような脅威を身につけることには十分可能性がある。
 渡邊の3Pショットが当たり始めたのは4月8日の対シカゴ・ブルズ戦以降だ。この試合以降出場した18試合に限ると、渡邊の確率は46.9%(49本中23本成功)に跳ね上がっていた。

 ハリスはシーズンを通じてこれができているのだ。それによる信頼度から出場時間も長く得られるために、自然と得点のアベレージも高くなっている。来シーズンのキャンプから前半戦にかけて、渡邊がディフェンスでこれまでと同じパフォーマンスを見せられることを前提として、3P成功率をこのレベルで達成し場合、チャンピオンシップを狙うラプターズに及ぼすインパクトは計り知れない。渡邊は2020-21シーズンを終えて、考えられないほど大きな夢が見られる位置に立っている。

 

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一体感のあるラプターズで家族を喜ばせる活躍をしたい

 

 ラプターズを特にシーズンの後半に取材する中で、フロントとチームの一体感が非常に強いことがたびたび感じられた。前述のウジリ氏の会見では、彼自身がチームに対する愛情を語りながら涙ぐみ言葉に詰まるシーンがあったほどだ。そのようなチームに入れたことも、渡邊にとっては幸運だったのではないだろうか。こちらから、ルーキーとして今シーズンからチームに加わったマラカイ・フリンと、長年チームを率いたリーダーのカイル・ラウリーについてのエピソードを振ってみたところ、以下のような回答をしてくれた。
「面白かったエピソードはすごくあるんですけど…。マラカイ・フリンはメチャメチャ良いヤツなんで、確かに顔立ちが怖くてプレーも強気ですけど、普通にしゃべったらどちらかというとシャイなヤツで、コート上とコート外では人間が少し変わるような感じです。カイルはもう、見たまんまですね。コート上でも常に審判としゃべっていたりとか、相手チームの誰かとしゃべっていたりとかしていると思うんですけど、コート外でも常にしゃべっている人間で…。説明できるようなジョークが言えないんですけど…。でもそうやって、リーダーでいる彼が、僕も含めて若い選手たちにみんなと一切壁なく接してくれるので、だからこそほかの選手達も含めて全員が本当に溶け込んでいきやすいチームだと思います」
 チームに加わった初日から雰囲気の良さを実感し、そのままシーズンを終えられたことについて、北米の記者たちへの英語でのインタビューでは「今年のラプターズは最後までチームとして戦った。これまでの2年間見せてもらっていたの同じ闘う姿勢を最後まで通した」ということも話していたが、この日も「いいチームに巡りあえました」とあらためてチームに対する感謝を表していた。
 よいチームに恵まれ、多くの収穫を得て終えた2020-21シーズン。渡邊を支えた最も身近で大きなファンとして、日本から活躍を見守る家族の存在も非常に大きかったことを渡邊は自身の手記でも明かしていた。本契約を手にした今、何か親孝行のようなことを考えているかを最後に聞かせてもらった。こうした思いも、来シーズンに向けた決意を一層強くする要素になることだろう。
「今までも何かとやってきてはいるんですけど、(両親は)二人とも、物を買ったりするのを嫌がるというか、あまり欲しがらないんです。コロナがなければ一緒に旅行に行ってゆっくりしたいなとか思っていたんですけど、やっぱり今はそういうのもなかなかできないですし。いつも二人と電話をしていて思うのは、僕が試合に出て活躍をし始めると、本当にすごくうれしそうに僕に話してくれるんです。とにかくうれしそうなので…。僕ができる最大の親孝行は、コート上で僕が今までしてきた努力を全部しっかり出して最大のパフォーマンスをすること。それが二人にとって一番うれしいのかなと思うんです。物を買ったりとかでの恩返しも当然していきたいですけど、今できる親孝行は僕がしっかりと健康でNBAのコートに立って活躍することかなと思っています」

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)