その国のサッカーを育むものは何か——。そこに素敵なスタジアムの存在が大きな役割を果たすことに、議論の余地はない。ファン…
その国のサッカーを育むものは何か——。そこに素敵なスタジアムの存在が大きな役割を果たすことに、議論の余地はない。ファンやサポーターはスタジムとともに育ち、歌と声援によって選手やチームを強化し、クラブを発展させる。それはリーグ全体の発展に寄与することとなり、ひいてはサッカー国力の向上にもおおいに貢献するのである。良いスタジアムの効用はかくも大きい。今回は、日本サッカーの強化の一翼を担うサッカー専用スタジアムについて——。
■Jクラブ30のホームが陸上競技型
1968年に「ダイヤモンド・サッカー」が始まり、イングランドの試合を見るようになって、最も惹きつけられたのは、スタンドとピッチのとてつもない近さだった。どのスタジアムも観客席がピッチのすぐ近くまで迫り、無粋な「壁」もない。長年使用するうちにピッチの芝面が上がってしまったためか、多くのスタジアムでは、タッチラインを疾走する選手たちの足元からファンの顔が見えていた。
だが当時の日本のサッカーの主要スタジアムは、国立競技場を含め、ほとんどが陸上競技型だった。サッカーのピッチは400メートルトラックの中。当然、観客席から数十メートル、スタンド上部の席からだと100メートルを超す距離がある。距離とともに大きな問題は、ピッチと観客席の間にサッカーでは無用のトラックがあり、試合に集中しにくいことだ。ゴール裏の席からピッチまでの間には、トラックが大きなカーブを描いて設置されており、さらに遠くなる。
Jリーグが誕生したときも、「陸上型中心」はあまり変わらなかった。カシマスタジアムという画期的なスタジアムはできたものの、百億円の規模の予算を必要とするスタジアム建設はJリーグやクラブの手には余るものだったからだ。その結果、10クラブのうち6クラブが陸上競技型のスタジアムをホームとして戦わざるをえなかった。
Jリーグは1993年当時の10クラブから2021年にはJ3まで含めると57クラブへとふくれあがった。その間に新しいサッカー専用競技場も次々とつくられた。だがそれでも、現在も全体の約53%に当たる30クラブが陸上競技型のスタジアムでプレーしている。
■陸上型スタジアムのもつ致命的な欠点
陸上競技型のスタジアムでサッカーの試合を行うことには、「観客席からピッチまでの距離が遠く、サッカーの迫力を十分楽しむことができない」という難点のほかに、大きな問題がある。十分なサイズの芝面が取れないことだ。
陸上競技のトラックをもつスタジアムは、当然、陸上競技大会の開催を念頭に置いている。そして陸上競技は0.01秒の記録を争う競技だけに、トラックのつくり方には厳格な規則がある。さらにトラックとフィールドの20もの競技を男女それぞれ次々とこなすために、走り幅跳びや棒高跳び、ハンマー投げや槍投げの走路などを機能的にレイアウトしなければならない。その結果、芝面の広さは、106メートル×70メートルほどになってしまう。
サッカーの公式戦では、タッチラインが105メートル、ゴールラインが68メートルと定められており、Jリーグでもこの規格を全クラブに順守させている。だがこの広さの芝面があればプレーできるかと言えばそうではない。選手たちはプレーをするために片足をラインの外につくことも少なくないし、勢い余ってライン外に出ることも多い。そこで国際サッカー連盟は「ピッチ外に1.5メートル以上の芝面があることが望ましい」としている。
とすると、サッカー場に必要な芝面は、108メートル×71メートルということになる。タッチライン外は1メートルでがまんしてもらう。そしてそれぞれ50センチの余裕しかないゴールライン外は、ゴール内部にトラックと同じ材質の面が出ると格好悪いので、人工芝を敷き、見た目をごまかすことにする——。東京の国立競技場が先鞭をつけ、それに全国の競技場がならうようになって、現在もこの形が「スタンダード」として続けられているのである。
■欧州の陸上競技場のピッチに問題がない理由
ところが海外で使われている陸上競技型のスタジアムを見ると、たとえばベルリンでもローマでも、タッチライン外にもゴールライン外にもゆったりと芝生が広がっている。いくつかの理由があるが、日本の陸上競技場と欧州の陸上競技場ではトラックの「曲走路」の設計が違うことが大きい。
日本では、ちょうどペナルティースポットから1メートルほどゴールに寄ったところを中心にして、半径37.898メートル(ミリ単位まで決められているところが、陸上競技というスポーツの「お家柄」である)で半円を描くように曲走路がつくられている。直送路の長さは80メートル。曲走路の長さが120メートルになるようになっているのだ。
ところが、欧州の陸上競技場の曲走路部分は、こうした単純な「半円」ではなく、円弧をいくつか組み合わせた少し複雑な形になっている。その結果、芝面が日本型のものより広く取れるのだ。おまけに、こうした形にすると、ゴール裏からピッチまでの距離が少し近くなるという、サッカーにとっての利点がある。
こうした根本的なトラックのつくり変えは無理でも、走り幅跳び走路などのレイアウトを変えるだけで芝面を広げることはできる。日本サッカー協会は、日本陸上競技連盟と長年交渉し、なんとか芝面を広げてくれるよう働きかけてきた。だがその交渉は、数十年間を経てもほとんど進展していない。その結果が、ゴールラインのすぐ外に置かれた人工芝だ。だが天然芝だと思って踏み込んだとき、それがただ広げて置かれただけの人工芝だったら、ケガにつながる恐れは十分ある。