「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣「THE ANSWER」は各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE …

「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣

「THE ANSWER」は各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」をスタート。女子ゴルフでツアー通算6勝を挙げた北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」スペシャリストの一人を務める。2006年から10年連続でシード権を保持した実力者。ゴルフ界のトレンドやツアーの評論、自身の経験談まで定期連載で発信する。

 今回は「なぜ韓国人ゴルファーは強いのか」。世界ランクでは3位まで独占し、100位までに33人が名を連ねる韓国勢。国内ツアーでは、黄金世代やさらに下の若手日本人の活躍が印象的だが、いまだ優勝争いで脅威となる存在だ。ジュニア育成、精神面、勝負強さの背景など韓国選手が強い理由について、北田がゴルフをあまり知らないライト層のファンにもわかるポイントを語ってくれた。

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 日本や米国のツアーで活躍している韓国人ゴルファーはもの凄く多いです。理由を総じて言えば、やはりハングリーなところですよね。でも、ハングリー精神だけでは説明できない部分もたくさんあります。

 韓国のジュニア育成について話を聞くと、国レベルのプロジェクトをやっているそうです。強化選手に選ばれると、1年の3分の2くらいゴルフだけやれる環境。トレーニング、コーチなどの資金面でも手厚いサポートを受けられる。選ばれるためには強くならないといけません。

 選ばれることも大変ですが、選ばれたからといって安心してはいけない。そこからふるいにかけられます。だから、ジュニア時代から韓国選手には「国を代表している」という責任感の強さを感じます。日本にもJGA(日本ゴルフ協会)のナショナルチームがあり、選ばれるのは凄く光栄なことですが、韓国はサポート体制の規模が全く違う。韓国選手に聞いた時に「これは強くなれるな」と感じました。

 韓国は日本のようにゴルフ場が多くありません。もしかしたら今は少し変わってきたかもしれませんが、そういう面でも国がしっかりサポートしてくれる。コーチ、トレーナーも専属だそうです。

 日本は文武両道が求められる雰囲気があります。ジュニアでも「ゴルフばっかりやっているんでしょ?」と見られがちです。勉強もある程度やるのが前提で、ゴルフも頑張りなさいという考え。韓国は代表に選ばれたらゴルフばかりやってもいいですし、逆にゴルフをやっていないとサポートを受けられなくなります。どちらかの考えが正解というわけではありませんが、韓国はジュニア育成に非常に力を入れているということです。

 日本でも家族を思ってプレーする選手はいますが、韓国選手は「家族の生活ため」という姿を目に見えて強く感じます。気持ちが強い姿にはそういった背景があるのでしょう。言葉の壁は大きいですが、日本で活躍している韓国選手は日本語を覚えるのが凄く早いですよね。それくらい努力家です。早く日本に馴染みたいという気持ち、壁を自分で乗り越えるという意志があるのだと思います。活躍するためにジュニア時代から全てを捧げている印象です。

申ジエは「いい意味で周りを気にしない」、駆け引きや勝負強さも存在

 私が実際に見た中で、裏で凄く努力しているんだろうなと思った選手は申ジエ選手ですね。初めて一緒にプレーした時は、世界ランク1位だったと思います。飛距離は私とあまり変わらなかったけど、球の質が全く違う。スピンコントロールなど、全て計算し尽くしてプレーしていました。難しいことをしているわけではなく、より簡単そうにゴルフをしていました。

 あの時は眼鏡をかけてニコニコしていたけど、笑顔の裏ではどんなふうにゴルフを感じてプレーしているのかな、ちょっと不気味だなと思ったくらいのプレーぶり。隙がないゴルフ。世界No.1ってこういうプレーをするんだと非常に衝撃を受けました。一打一打に時間をかけることに関して本人に聞いたことがありますが、「ルールの時間内でやっているから」と。普通なら競技委員がチェックに来ると焦ってしまう。ジエはいい意味で周りを気にしない印象がありました。

 他の韓国選手も自分に集中する力があると思います。ゴルフは個人競技でも、対人の駆け引きがあります。勝負強さを持っていますよね。イ・ボミ選手はプレーオフに凄く強い。ジュニア時代、常にトップにいないとサポートを受けられなくなるという厳しい環境の中でやってきたことが生きているのかもしれません。ここ一番の強さに出ていると感じます。

 言葉に出して有言実行する選手が多い今の日本の若手と比べると、韓国選手にはグッと内に秘めた強さを感じます。強気な部分をあまり言葉に出さない。韓国選手はとても礼儀正しくていい子ばかりです。

 日本が韓国ゴルフ界から学べる部分は、海外に触れる姿勢を持つこと。去年活躍した笹生優花選手は、小さい頃からほとんどフィリピンで生活していましたよね。海外のゴルフ場をたくさん経験して日本に戻ってきました。日本はコーチ、トレーナーも「日本人対日本人」が多い。韓国は米国人やいろいろな国のコーチを取り入れています。もちろん、日本人同士だから悪いというわけではないのですが、ゴルフの考え方も幅広く、世界に向けてやっている印象です。

 渋野日向子選手、畑岡奈紗選手、河本結選手たちのように、世界に向けて挑戦する選手がどんどん増えていってほしいですね。私は海外経験がほとんどないのであまり言えませんが、今となって思うのは、若い時にしかできない経験を積極的にしていってもらいたいということ。体力的にも、精神的にも若い時だからこそできる。そこで経験したことを今度は日本に帰って伝える。そういう選手が増えていけば、もっとレベルも上がりますし、視野が広がっていくと思います。

■北田瑠衣/THE ANSWERスペシャリスト

 1981年12月25日生まれ、福岡市出身。10歳でゴルフを始め、福岡・沖学園高時代にナショナルチーム入り。2002年プロテストで一発合格し、03年にプロデビュー。04年はニチレイカップワールドレディスでツアー初優勝し、年間3勝で賞金ランク3位。05年には宮里藍さんとペアを組んだ第1回女子W杯(南アフリカ)で初代女王に。06年から10年連続でシード権を保持した。男女ツアーで活躍する佐藤賢和キャディーと17年に結婚し、2児のママとして子育てに奮闘中。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)