「負けたら人生終わり」と追い詰められた、処分が明けた寺地拳四朗がV8成功で涙 ボクシングのWBC世界ライトフライ級(48.9キロ以下)タイトルマッチが24日、大阪・エディオンアリーナ大阪で行われ、王者・寺地拳四朗(BMB)が挑戦者の同級1位…

「負けたら人生終わり」と追い詰められた、処分が明けた寺地拳四朗がV8成功で涙

 ボクシングのWBC世界ライトフライ級(48.9キロ以下)タイトルマッチが24日、大阪・エディオンアリーナ大阪で行われ、王者・寺地拳四朗(BMB)が挑戦者の同級1位・久田哲也(ハラダ)に3-0で判定勝ちし、8度目の防衛に成功した。日本ジム所属の世界王者では歴代6位タイの連続防衛。飲酒トラブルによる処分明け最初の試合で涙ながらに謝罪と感謝の言葉を述べ、世界王者として再出発を誓った。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 王者の心は追い込まれていた。リング上のインタビュー。カメラに向かってダブルピースを決めるいつもの笑顔はない。マイクを握る寺地は、顔を歪めて泣いた。鼻をすすり、しくしくと細い声を振り絞る。「全然聞こえねーぞ!」。拍手の合間に厳しくも温かいファンの声が飛んだ。

「ありがとうございます……やっぱ自分の不祥事で本当にたくさんの方にご迷惑をおかけしてしまいました。こんな僕でも応援してくれたら嬉しいです。本当にありがとうございます。ボクシングを続けられて本当に幸せだと思います。これから恩返しできれば。これからもっと頑張っていくんで、また応援してくれたら幸せです」

 昨年7月の飲酒トラブルが秋に公となり、12月に予定していた久田戦が延期に。王座剥奪という最悪の事態は免れたが、日本ボクシングコミッション(JBC)から3か月のライセンス停止処分、6か月で48時間以上200時間以内の社会貢献活動を義務付けられた。寺の清掃や子どもの登校を見送り、自分を見つめ直した日々。「ボクシングはもう終わったと思った」と後悔した過ちから、なんとか立ち上がった。

 自業自得で思わぬ壁にぶつかった末、再び上がることを許されたリング。相手にも謝罪したが、これ以上の失態はできない。体重はリミット48.9キロより300グラム多く落とした。「緊張する」。試合時間が迫り、陣営に漏らした。普段は何事にも動じない、ひょうひょうとした天然キャラ。加藤健太トレーナーは「今までよりも緊張していました。緊張を口にしたのは珍しい」と意外な姿を見た。

残ったチャンピオンベルトを握りしめて宣言「もっと強く」

 ゴングとゴングの間だけは、リング外のことは関係ない。2回。フック気味の右カウンターが挑戦者の顔面を打ち抜いた。ダウンを先取。引退覚悟の相手に圧力をかけられたが、ジャブや巧みなコンビネーションで的確にパンチを当て続けた。本来の打たせずに打つスタイルも随所に復活。終わってみれば3-0の完勝だ。

「負けたら人生終わり。とりあえず負けられない気持ちでした」

 追い詰められた心境を告白した試合後の会見。リングで見せた涙の理由を問われると「なんかいろいろ不安とかあったんだなって……うぅ~」と声を上げてまた涙。大きなタオルに顔をうずめた。「リング上で泣くとか思ったこともなかった。本当に楽しかったし、応援してもらえたし、試合が終わってこんなふうに思ったことがなかったので、それだけボクシングを好きになれたのかなと思います」。一度の過ちで多くを学んだ。

 信頼、時間、いろいろなものを失った。それでも首の皮一枚で残ったのはチャンピオンベルト。WBCの緑色はひと味違う。日本記録V13更新の夢は変わらない。その過程には4団体統一もある。肩にかけたベルトを握りしめ、リングから2200人の観衆に誓った。

「変わらず応援してくれた方がたくさんいた。これからはもっとチャンピオンらしく、もっと強く。まだまだ強くなれると思うので、もっとボクシングを大好きになって、強い姿を見せていきます」

「世界王者・寺地拳四朗」のボクサー人生は続く。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)