3-10で大敗した立大戦で7回に代打で出場した吉納翼 東京六大学野球は24日、神宮球場で2試合が行われ、早大は立大に3-10で大敗した。先発したエースの徳山壮磨投手が3回8安打6失点と崩れた。【市川いずみ】 エース・徳山がピリッとしなかった…

3-10で大敗した立大戦で7回に代打で出場した吉納翼

 東京六大学野球は24日、神宮球場で2試合が行われ、早大は立大に3-10で大敗した。先発したエースの徳山壮磨投手が3回8安打6失点と崩れた。【市川いずみ】

 エース・徳山がピリッとしなかった。初回に大阪桐蔭の後輩である4番・山田健太(3年)に先制適時打を許すと、続く5番・東怜央(4年)には3ランを浴びて一挙に4失点。さらに、1死一、二塁のピンチを招くと、試合が始まってまだアウト1つにも関わらず、小宮山悟監督はマウンドへ向かった。

「ちゃんとやれ」

 指揮官がゲキを飛ばしても、なかなか制球は定まらない。3回を投げて死球が3つ。徳山はマウンド上で首をひねった。

「いいボールを投げられるピッチャーなのでそのボールを投げる感覚を取り戻すには真剣勝負のバッターに向けてじゃないと取り戻せない。数放ればある程度はまってくるもんなんだけど、それさえも今日はみつけられなかった状況なので、その辺のところがちょっと深いところまでいっちゃったかもしれませんね」

 調子の上がらなかったエースについて指揮官は冷静に分析した。

7回2死満塁での六大学初打席は空振り三振に…

 エースの乱調で大敗に終わり、沈黙から始まった試合後の取材。小宮山監督に並んで席に着いたのは、1年生の吉納翼だった。東邦(愛知)出身の外野手。2019年のセンバツでは、下級生ながらも、現ロッテの明石商・中森俊介から本塁打を放つなど活躍。中日の石川昂弥内野手らとともに“平成最後の選抜王者”に貢献した。

 高校通算44本塁打を誇る期待スラッガーの神宮デビューは7回に巡ってきた。3点目を返し、なおも2死満塁のチャンス。流れを引き寄せられるかどうかのところで、大物ルーキーは冷静に打席に入った。

「緊迫した場面で、満塁だったので自分の持ち味の長打というよりはここで単打でもいいからだそうという気持ちで打席に入りました」

 吉納が野球をする上で大切にしているという“最初の一振り”はフルスイングで空振り。その後はボール球を冷静に見極めるところもあったが、早稲田戦士としての初打席は結局、空振り三振に終わった。

「初打席で初球から振れたことは自分にとっても、今後の大学野球生活でとても成長できるのかなと思います」。試合でいえばチャンスでの痛い三振になったかもしれないが、吉納翼という一人の野球選手にとっては大きな意味を持つ三振となったのは間違いない。

小宮山監督「4年間で相当な選手になると思います」

 大事な場面でルーキーを送った小宮山監督は「“たまたま”三振をしましたけど。夢を見るだけのものを持っているので、4年間で相当な選手になると思います」と吉納の素質を認める。約10分の取材時間で最も力のこもった言葉のように感じられた。

 期待の大きさは言うまでもない。「緊張は全然。大丈夫でした」とあっけらかんと答える吉納に、小宮山監督から「少しは緊張しろよ(笑)」と突っ込みが入る。すかさず「緊張しました(笑)」と掛け合えるあたりにも、大物感が漂っている。

 入学してまだ1か月弱。これだけの言葉を指揮官に言わせる吉納の魅力は野球センスだけではない人間部分にあるのだろう。

「まだ4年間あるんで、1日1日を無駄にせずに。監督もよくおっしゃるんですけど、“準備”を怠るなって。今日帰ってからすぐに、また明日チャンスがあったら打てるように“準備”してというのを継続していきたい。4年後には必ずプロ野球選手になりたいと思っているので、常に“準備”を頭に入れてやっていきたいです」

 話し方にも一切あどけなさを感じさせない18歳。4年間でもの凄い物語を描いてくれそうだ。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。NHKワースポ×MLBの土日キャスター。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。