センバツで94年ぶりの優勝を目指し、26日の準々決勝に登場した広島商の永谷歩夢選手(3年)は、人一倍強い気持ちをもって試合に臨んだ。兄純也さん(20)は広島商が前回出場した3年前の大会で、チーム内に新型コロナウイルス感染者が出たため大会…
センバツで94年ぶりの優勝を目指し、26日の準々決勝に登場した広島商の永谷歩夢選手(3年)は、人一倍強い気持ちをもって試合に臨んだ。兄純也さん(20)は広島商が前回出場した3年前の大会で、チーム内に新型コロナウイルス感染者が出たため大会途中で出場を辞退するというつらい経験をした。「試合を続けられなかった兄の分まで頑張りたい」。兄の思いとともに大舞台に挑んだ。
「小さい頃からテレビで見ていた甲子園に兄が出場するのがうれしかった」。2022年のセンバツ。兄のプレーする姿を見ようと歩夢選手は家族で球場に駆けつけた。1回戦の丹生(福井)との試合で純也さんは二塁を守り、兄がプレーする姿を目に焼き付けた。
「部内でコロナ感染者が出て出場を辞退することになった」。1回戦から数日後、純也さんから家族に電話があった。涙声で話す兄にかける言葉が見つからなかった。自宅に戻った純也さんは2回戦で対戦予定だった大阪桐蔭の試合をテレビで見て涙を流していた。
それでも、「まだ高校野球人生が終わったわけではない」と前を向き、純也さんは数日後に練習を再開。歩夢選手は、そんな兄の諦めずに取り組む姿勢を目の当たりにして、自分も同じ環境で野球がしたいと、広島商に入学した。
入部後は、周囲から純也さんの弟として見られ、プレッシャーもあった。それでも厳しい練習を耐え抜き、センバツでのベンチ入りを勝ち取った。
中学までは捕手だったが、現在は一塁手として出場することが多い。今年の正月には母校の中学で純也さんと一緒に練習した。「速い打球に対してグラブを引いてはだめだ」「前に出て勝負しないと」。純也さんにノックを打ってもらい、同じ内野手としてアドバイスをもらった。長打力が売りの歩夢選手に純也さんが「どうやったら飛ぶの」と質問し、「振ったら飛んだ」などと冗談を交えることも。父真志さん(47)は二人の関係について「歩夢は純也のことを先生のように尊敬している。純也も歩夢の全国大会の試合を見に行っていた」と語る。
センバツ出場は電話で純也さんに報告した。「甲子園出場が決まっただけではだめだ。この冬の練習が一番大切だ」などと活を入れられた。試合で緊張することがあり、冬の間は実戦練習でリラックスして打席に入ることを心がけたという。
歩夢選手にはもう一人、6歳上の兄優人さん(23)もいる。優人さんは、病気で満足に野球をすることができなかった。歩夢選手は「野球ができるのが当たり前だとは思わない。野球が毎日できることへの感謝の気持ちを忘れずに甲子園で活躍したい」と舞台に立った。
智弁和歌山との準々決勝。この日は九回2死二、三塁のチャンスの場面で代打に起用されたが、見逃し三振で最後の打者となった。歩夢選手は「兄の分まで頑張ろうと思ってセンバツに臨んでいたが、最後の打席は三振で試合が終わってしまい、悔しい思いが残った。再び甲子園に戻ってきて、ここ一番で勝負強いバッティングができるように練習していきたい」と話した。【井村陸】