かつては野球の花形とされた「エースで4番」が甲子園では減少傾向にある。 投打の分業制や野球離れ、協調を重んじる現代の子供たち――。18日に開幕した選抜高校野球大会の出場校の監督らの証言からは、さまざまな時代の変化が浮かび上がってきた…

かつては野球の花形とされた「エースで4番」が甲子園では減少傾向にある。
投打の分業制や野球離れ、協調を重んじる現代の子供たち――。18日に開幕した選抜高校野球大会の出場校の監督らの証言からは、さまざまな時代の変化が浮かび上がってきた。
昨春のセンバツは1人だけ
選抜大会の出場32校のうち、昨秋の公式戦の最終試合で「エース兼4番」で先発した投手は一人もいなかった。
出場32校は昨秋の各地区大会で、投手を下位打線で起用するケースが目立った。クリーンアップで先発したエースは、3番打者だった早稲田実(東京)の中村心大、壱岐(長崎)の浦上脩吾、5番打者だった至学館(愛知)の尾崎陽真の3投手だけだった。
過去の選抜大会では花巻東(岩手)の大谷翔平投手(30)=現米大リーグ・ドジャース、横浜(神奈川)の松坂大輔さん(44)=元レッドソックスなど=らが「エース兼4番」として甲子園を沸かせてきた。
ただ、選抜大会中に1試合でも「4番・投手」で先発出場した選手は、1970~90年代は5人以上の大会が多かったものの、2000年以降は5人未満がほとんど。大谷投手が出場した12年は3人、前回大会は敦賀気比(福井)の竹下海斗投手(18)=現プロ野球・広島=の1人だけだった。
「二刀流は魅力的だけど……」
4番を打つ投手が減った要因として、今春の出場校の監督が口にするのは「投手の専門性の高さ」だ。
西日本短大付(福岡)の西村慎太郎監督(53)は「我々(が選手)の時代は140キロが出たらプロと言われていた」と振り返る。
だが、近年はトレーニング方法の確立などにより投手の直球の高速化が進んだ。今大会でも最速150キロ台の投手が5人程度いる。
全国クラスの投手を育てるために、ピッチャー用の練習量も増えている。大谷投手の恩師でもある花巻東の佐々木洋監督(49)は「投球の比重が大きいので、指導者も選手も、どうしても意識がそっちに行きがちになる」と分析する。
伝統校の高松商(香川)は、投手が打撃練習をするのは週1回だけという。長尾健司監督(54)は「これまでは運動神経のいい選手が全てをやってきたが、個性を伸ばす指導法が確立して、一芸に秀でた選手が出てきた。二刀流は魅力的だけど、負担の大きい投手が4番を打たなくても(他の選手が)補えるようになった」と説明する。
青森山田の兜森(かぶともり)崇朗監督(45)は投手の負担軽減を考慮する。「大谷選手はすごいけど、私はそこまで求めていない。投手に打撃も集中させるとケガの心配もある」とリスクを避ける。今春のセンバツは、3人の継投を基本に臨むことになりそうだ。
減る「お山の大将」
時代背景が影響しているという声もある。
スポーツの多様化などにより、近年は子供の野球離れが進んでいる。西日本短大付の西村監督は「野球は打つ、投げる、走る、守るの4技能が求められるが、最近は全ての能力が高い選手が野球以外に分散している」と危機感をにじませる。
二松学舎大付(東京)の市原勝人監督(60)は子供の気質の変化を指摘する。「昔は自分が投げるのも打つのも偉いから(4番を打ちたい)という『お山の大将』が多くて、(その4番兼投手と)心中する監督も多かった」
夏の暑さも厳しさを増したことで、市原監督は近年、チーム一の好打者であるエースをあえて下位打線に置いたこともあった。「今は下位で起用しても文句を言わない『良い子』が多くなった。エースで4番を打てるポテンシャルがある子はいるが、体力、精神面の負担を考えたら4番に置く必要がない」と話す。
トレンドは「エースで1番」?
そもそも打順の価値観も変化している。
大リーグでは近年、野球のデータを統計学で分析する「セイバーメトリクス」などを基に、1~3番に強打者を置く傾向が強まった。大谷投手も昨季はドジャースで主に1番打者だった。
2年前の選抜大会を制した山梨学院の吉田洸二監督(55)は「今の時代に『エースで4番』と言ってもピンとこない」と率直に話す。
国内の中学生の試合は7回制も導入されており、近年はより多く打順が回る1番や3番に好打者が入る傾向が顕著という。
吉田監督は「中学生の試合を見る時は『エースで4番』よりも『エースで1番』の方が、とてつもなくセンスがあるのかなと思う」と印象を語る。【皆川真仁】