人口約2万4000人。九州北部の玄界灘に浮かぶ離島の市民が待ち望む大舞台が迫る。18日開幕の第97回選抜高校野球大会に…

丸太を抱えて走り、上半身と下半身を同時に鍛える壱岐の選手ら=長崎県壱岐市で2025年1月26日、川島一起撮影

 人口約2万4000人。九州北部の玄界灘に浮かぶ離島の市民が待ち望む大舞台が迫る。18日開幕の第97回選抜高校野球大会に21世紀枠で初出場する壱岐(長崎)は、部員全員が地元の長崎県壱岐市出身だ。「100年に1度」と島が沸く奇跡の始まりをたどると、離島という厳しい練習環境で「聖地」をつかんだロールモデルの存在があった。

「壱岐でも甲子園に行ける」

 「地元の子どもたちでここまで来られるのか」。壱岐の山口廉斗選手(2年)は中学時代の2022年、鹿児島県・奄美大島にある県立大島高に注目した。鹿児島本土から300キロ以上離れ、14年に21世紀枠でセンバツに初出場。22年に一般枠で2度目をつかんだ。当時のチームの柱は地元出身の左腕、大野稼頭央投手(20)=現プロ野球・ソフトバンク。中学時には全国の離島の軟式野球チームが戦う「第12回離島甲子園」で地元選抜チームの4強入りに貢献していた。

 山口選手は壱岐島の中学で軟式野球の全国大会に出場。島の別の中学も九州大会に出場し、島内には山口選手と共に長崎県選抜に入った有力選手が複数いた。「壱岐でも集まれば甲子園に行ける」。そう思い描いた山口選手は、島外の強豪校の誘いもある中、同じ中学の仲間に声をかけた。その輪は別の中学の県選抜メンバーに広がり、夢を追う顔ぶれがそろった。

 ただ、壱岐のグラウンドは他部と共用で、平日の練習は2時間限り。練習試合をするにも島外に行くにはフェリーとバスを乗り継がねばならず費用がかかる。24年夏、山口選手の学年が主体の新チームが発足すると、01年夏に選手で甲子園経験がある坂本徹監督(40)のもとで練習を見直した。全体練習よりも打撃、守備、走塁などに班分けして個人の力を高める「課題練習」に重きを置いた。

 例えば打撃では、バットの代わりにサッカーボールを持ってティーバッティングし、芯で硬球を捉える感覚を養っている。地元住民が用意した丸太も活用し、抱えて走ることで体全体を鍛錬。成果は着実に表れ、24年秋の県大会で準優勝し、センバツ出場校選考の参考資料となる九州地区大会でも初出場で1勝を挙げた。

チームを後押しする島の絆

 「離島は対外試合が難しい。勝ち進んで選ばれたのは本当にすごい」。大島が22年センバツに出場した時の部長で現副部長の小林誠矢さん(36)は壱岐の快挙をたたえる。大島も練習をいかに充実させるかが悩みの種。大事にしてきたのがチーム内の紅白戦で、審判を部員同士ではなく、高野連の審判資格を持つOBなどに依頼している。試合さながらの緊張感を高めるとともに、審判からの全体の講評や具体的なアドバイスも生かせるという。

 応援や遠征資金の援助などでも島の絆に支えられた。大島の初出場後に着任し、22年時に監督を務めた塗木哲哉さん(57)=現・鹿児島商監督=によれば「(初出場後は)島じゅうどこにいっても『だいこう(大島高)』一色」といい、「『もう一度あの盛り上がりを味わいたい』との思いで本気度が増していった」と振り返る。

 壱岐のセンバツ決定に沸く壱岐市内では、商店なども選手たちを後押しする。市が「ふるさと納税」制度を活用して呼び掛けた「ガバメントクラウドファンディング」には目標の1000万円を上回る寄付が集まった。

 市の人口は減少が続く。山口選手の中学時の軟式野球部顧問で、現在別の中学で指導する竹尾勝彦教諭(56)は「数年後は(単独チームが)厳しいかもしれない」と危機感をにじませる。それだけに、先輩の快挙を見た中学生が「自分たちも」と積極的に練習する姿は活性化の明るい材料だ。

 壱岐は20日の初戦で優勝候補の一角、東洋大姫路(兵庫)に挑む。手本にした大島も甲子園は未勝利。塗木さんは「甲子園は行っただけでは全然楽しくない。だからこそ絶対に勝ってほしい」とエールを送る。【川島一起、長岡健太郎】