18日に開幕する第97回選抜高校野球大会に21世紀枠で横浜清陵(神奈川)と壱岐(長崎)が初出場する。部員主体の「…

練習中、話し合う横浜清陵の選手たち=横浜市南区で2025年1月25日、小出洋平撮影

 18日に開幕する第97回選抜高校野球大会に21世紀枠で横浜清陵(神奈川)と壱岐(長崎)が初出場する。部員主体の「自治」を重視した取り組みを進める横浜清陵と部員全員が島出身で地元の希望となった壱岐。この春、二つの公立校は甲子園にどんな新風を吹き込むのか。

成果を共有する「自治会議」

 「ストライク率が上がってきた」「軸になる配球パターンができつつあると思う」

 2月末、放課後の教室で開かれた「自治会議」。横浜清陵の「投手リーダー」を務める内藤大維投手(2年)が1カ月の成果について発表した。

 部員数は25人(女子部員1人を含む)と小規模だが、部内には「内野手」「外野手」「学生スタッフ」など、部門ごとにリーダーが存在し、選手に指示を出す。「部活動は自分たちのもの」という意識を持ち、練習の中身も自ら決めるのが、横浜清陵のやり方だ。

 毎月開く自治会議では、部門別にこの1カ月を振り返り、課題や翌月の目標などについて、部員全体で共有する。

 この日の会議では、投手リーダーの内藤投手が「厳しい場面でも有利なカウントを作ることができるように、練習の中で実践していこうと思う」と、報告を締めくくった。後ろで見守っていた野原慎太郎監督(42)がアドバイスを送り、2時間の会議は終了した。

原点は監督の大学時代

 自主性を重んじる部活動の原点は、野原監督の大学時代にある。

 出身校の東海大相模(神奈川)では、投手としてセンバツ優勝を経験した「野球エリート」だが、進学先に選んだのは横浜国立大だった。強豪ではない国立大野球部なので、専任監督はおらず、指導者が仕事のため部活に来られない日も多かったという。

 「チーム方針や、幹部の選出、練習試合の計画など、すべて学生たちで議論して決めた」と当時を振り返る。

 高校野球でもそんな部活動のあり方が理想ではないか、と考えたという。「自らで意思決定をしたことだから、責任も自分たちで負う。チームへの愛着が深く、帰属意識の高い部を高校でも作りたいという思いがあった」

焦りが生んだ苦い失敗

 大学卒業後、2007年に神奈川県内の公立校に赴任、野球部の指導者となった。当初から自主性を重んじる部活動を目指してきた。横浜清陵には20年に着任。だが苦い失敗も経験した。

 「早く成果を上げたいという焦りから、恐怖や圧力で生徒を動かす側面があった」と、悔悟の言葉を口にする。部員に対する言動が「厳しすぎる指導」として問題視されたのだ。

 野原監督をよく知る佐藤幸太部長(39)は「勝ちたい気持ちが誰よりも強く、熱い人。それは今も当時も変わらないが、かつては部員との間で追い求める部活動に対してずれが生じてしまった」と語る。

 21年秋から半年間、部活動の現場から離れた野原監督は、神奈川県立総合教育センター(藤沢市)で研修を受けたり、「日本部活動学会」に出席したりした。学会では、好きなことを自主的、自発的にするために集まり、活動するのがそもそもの部活動だということを学んだという。「顧問がいなくなっても揺るがないよう、生徒自らが運営していくのが本来のあり方で、それまでは厳しい指導でやらせていた面があった。自分の独善性に気づくことができ、もっと生徒に任せてみようと思った」

時代に合った部活動を模索

 折しも今の教育現場は、教員が休日返上で部活指導などをこなさなければならず、「ブラック職場」と称される。顧問の成り手も不足しがちだ。日本高校野球連盟によると、全国の高校硬式野球部所属の部員数は12万7031人(24年度)で、ピークの17万312人(14年度)から急減した。

 教員、生徒双方にとって部活動を取り巻く環境は変化している。野原監督は「生徒自らが考えて民主的に話し合って進める部活動になれば、生徒のモチベーションも上がる。結果的に教員の負担軽減にもつながるのでは」と、時代に合った部活動のあり方を模索するようになった。

 見つけた一つの答えが自治だった。吉澤昴外野手(2年)は「最初は自分たちの課題を見つけようとしても、そもそも問題点がどこか分からなかった。次に課題を見つけても、解決方法が分からなかった」と振り返る。時間を経て、徐々に部員にも自治の取り組みが浸透してきた。山本康太主将(2年)は「部活を通して、本音を言い合える関係性ができてきた。自分たちで野球部を作っているという感覚がある」と手応えを語る。野原監督も「もちろん、生徒に丸投げするつもりはない。『付かず離れず』がキーワードだと思っている」と、ほどよい距離感で選手の成長を支えてきた。

 こうした取り組みが実を結び、昨秋には強豪私学がひしめく神奈川大会で公立校で唯一8強に進出。初のセンバツ出場への道を切り開いた。山本主将は「プレーボールから最後まで全力でやりぬき、一勝、また一勝としていきたい」と意気込みを語る。

 センバツ出場決定後に開かれた最初のチームミーティングでは、「なぜ自分たちが21世紀枠に選ばれたのか」について意見を出し合った。

 「全国の公立校が希望を抱ける」「公立校が甲子園という大舞台の経験を積むことが重要」。それぞれが考えを披露する中、投手リーダーの内藤投手が言った。「選手が主体となった『自治』のチーム作りが評価されたんじゃないかな。選ばれたからには結果を出そう」。みんながうなずいた。

 センバツ1回戦の相手は古豪・広島商に決まった。野原監督は言う。「今はこれが生徒のために最良のやり方だと信じている。正解だったと言えるために、部活動への高い充実感と甲子園で勝つことを両立させたい」

 部活動の衰退も懸念される中、自治の取り組みは今後のロールモデルになるのか。横浜清陵の挑戦は間もなく始まる。【宮本麻由】