滋賀県のマキノ高原を舞台に11月22日、冬の自転車競技シクロクロスの「ジャパンシクロクロスシリーズ(JCX)マキノ高原」が開催された。ジャパンシクロクロスシリーズとは、日本国内で開催される選定レースで構成され、この成績の総計で日本国内の選手…

滋賀県のマキノ高原を舞台に11月22日、冬の自転車競技シクロクロスの「ジャパンシクロクロスシリーズ(JCX)マキノ高原」が開催された。ジャパンシクロクロスシリーズとは、日本国内で開催される選定レースで構成され、この成績の総計で日本国内の選手のJCXランキングも決定されるシリーズ戦。9レースのうち、6つは世界自転車競技連盟(UCI)が認定した国際レースであり、このUCIレースでは、上位選手に世界選手権などの出場枠を得るために必要なUCIポイントが付与されるため、世界各国からの参戦もあり、ハイレベルなレースが展開されてきた。

2020年は新型コロナウィルス感染拡大を受け、JCXの中ではUCIレースである4レースが中止を決定。マキノ高原は、シリーズ3戦目のJCXレースとして、また初のUCIレースとして開催を決めた。ただし、海外からのエントリーはなく、国内選手のみで競われる形になったため、UCIポイントは国内選手で分けられることになる。この翌週には全日本選手権が予定されており、全日本の結果を占う重要な大会としても注目が集まった。


マキノ高原に設営された特設コース


UCIレースのコースプロフィール(関西シクロクロスサイトより)

紅葉が美しいマキノ高原のゆるい斜面には、地形を生かしたコースが設計され、コーステープが張りめぐらされた。ほぼ全てが見渡せる見晴らしの良さで、観戦しやすい。その反面、選手にとっては、タイトなコーナーやターンが地形を生かしたアップダウンの中に散りばめられており、スピードに乗せていく直線と減速を強いられるターンが組み合わされるなど、テクニックと体力が求められるコース設定。さらに、フライオーバー(陸橋のようなもの)やシケイン(降車、あるいはバイクとともに跳んで越える障害物)も設営され「見て楽しく、走ってキツい」2.6kmのコースとなった。

トッププロのシクロクロスは「世界でもっとも厳しい競技」とも評される。人間の限界に挑む種目ではあるが、実は「大人の障害物競争」的なチャレンジで、ホビー参戦の人気も高い。


キッズレース。この中には未来のトップ選手が含まれているかもしれない


最年少カテゴリーのレース。見ている皆が笑顔になる


さまざまなカテゴリーのレースが開催される


シクロクロスには転倒もつきもの。そこも含めて楽しむのだ

JCXマキノ高原は、もともとは関西シクロクロスという関西地方を中心としたシリーズ戦から生まれたもの。現在も同シリーズが運営を行っており、一般カテゴリーも併催されている。未就学児、キッズ、女性、男性、マスターズと、性別や年齢、レベルに合わせた複数のカテゴリーが設定され、コースもカテゴリーに合わせて難度を変え、朝から複数のレースが開催されており、多くの参加者がレースを楽しんだ。

UCIレースは、多くの一般参加レースが終了した後、午後からスタートし、女子、男子の順に開催される。

女子には、MTBクロスカントリーの全日本選手権の3連覇を決めたばかりの今井美穂(CO2bicycle)が出場。シクロクロスの全日本選手権の優勝経験もあり、世界選手権にも連続で出場している大本命だ。さらには海外チームに所属し、ヨーロッパに活動の中心を置く與那嶺恵理(OANDA JAPAN)も久しぶりにシクロクロスに参戦。東京五輪の個人ロードレース日本代表への内定を決めており、ロード中心に走ってはいるが、オフロードでも強さを見せてきた実力の高い選手だが、近年のレース参加がないため、最後尾からのスタートとなる。


今井美穂(CO2bicycle)を先頭に女子エリートがスタート


独走状態から差を広げていく今井

スタートから、現在、日本女子のオフロードレース界の先頭を走る今井が圧倒的な強さを見せた。先頭で飛び出すと、そのまま衰えぬスピードで独走態勢。小林あか里(CMC/Aigle)や赤松綾(SimWorks Racing)が今井を追うが、その差は開いていくように見えた。


安定した走りを見せる小林あか里(CMC/Aigle)


3位に食い込んだ赤松綾(SimWorks Racing)


登坂、平坦、ターンと効率よくこなし、他を寄せ付けない今井

ただ1人、爪を立てたのは與那嶺だった。さすがのバイクさばきとスピードで、最後尾からじわじわと順位を上げると、ついには小林に追いつき2番手に。落ち着いて差を詰めるべく、與那嶺は淡々と走る。


普段はロードだが、世界を相手に走るレース勘、身体能力で最後尾から2位まで追い上げた與那嶺恵理(OANDAJAPAN)


圧巻の底力を見せた與那嶺

だが、與那嶺は今井との差までは詰めることができなかった。女王・今井は後続に20秒以上の差をつけた状態で、小さくガッツポーズをし、笑顔で独走ゴールを決めた。


堂々の独走で優勝を決めた今井

2位には與那嶺が入り、3位は順位を上げた赤松が入った。


笑顔の3名が並んだ今井、與那嶺、赤松の女子表彰台

続いて男子エリートがスタート。気温が落ち、日も陰り、太陽が輝く女子のスタートから一転し、冬のレースとなった。

2020年はレースも少なく、翌週の全日本選手権に向け、ほぼフルラインナップのエントリー。スタートラインには豪華な顔ぶれが並んだ。


有力選手が最前列を固めた男子エリートのスタートライン


沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)を先頭に男子エリートがスタート

注目はMTBレースのトップレーサー沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)、昨年のシクロクロス全日本選手権U23で優勝、JBCFロードでも今季U23の総合優勝を遂げた織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、現在のシクロクロスエリートの全日本チャンピオンである前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)、トップロードチームに籍を置きながらも、シクロクロスに重きを置いた活動を続ける小坂光(宇都宮ブリッツェン)、横山航太(シマノレーシング)や、海外での豊富なシクロクロス参戦歴を持つ竹之内悠(ToyoFrame)などだろうか。


沢田のすぐ後ろに、小坂光(宇都宮ブリッツェン)、積田連(SNEL CYCLOCROSS TEAM)、前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)らが続く


沢田時が先頭に立ちペースアップ

沢田が先頭で飛び出し、織田、前田、小坂が追う。横山、竹之内、村上功太郎(松山大学)や積田連(SNEL CYCLOCROSS TEAM)がここに食らいついた。先頭を走るメンバーはU23、エリートで全日本選手権で表彰台のてっぺんに上った経験がある強豪揃い。全日本を直前に控え、この時期に照準を当て、仕上げてきていることの表れでもあろう。


先頭を行く織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)を追う先頭メンバー。顔ぶれは日本のトップ選手たちばかりだ

集団の中では、沢田、前田、織田、小坂が前方に位置して走る。ペースアップもあり、先頭集団にも揺さぶりがかかってくると、積田が堪えきれず早々に脱落。織田はパンクのトラブルがあったが、集団に復帰した。

3周目に入ると、先頭の中でも差が生まれてくる。ぴったりとついた状態で先頭を行くのは、沢田、前田の2名。小坂、復帰した織田、横山らが追うが、竹之内、村上らは厳しい表情を見せ始める。


小坂、パンクから復帰した織田が先頭2名に食らいつく


障害物を自転車から降りず、乗車したまま「バニーホップ」ジャンプでクリアする織田。このアドバンテージで他選手との差を広げた

マークし合い、余裕を見せる沢田、前田、織田と、他メンバーの間がじわじわと開いていった。中盤に差し掛かると、先頭3名から前田が脱落し、沢田と織田の一騎討ちに。織田はアタックを繰り返し、これに反応する沢田が消耗していく。


織田と沢田の一騎討ちに


終盤追い上げを見せた前田

沢田がついに織田の先行を許し、織田の独走状態に。織田はこのまま勢いを緩めず、差をぐんぐんと広げ、余裕のガッツポーズでフィニッシュラインを越えた。


独走で優勝を決めた織田。絶好調だ


男子の表彰台。織田、沢田、最後に追い上げた前田が食い込んだ

織田は、今シーズンのJBCFシリーズでU23チャンピオンの座を守り抜き、JCXシリーズでもここまで3戦全勝。コロナ禍の中でも、トップのポジションをキープし続けていることになる。

このレースにチャンピオンジャージで臨んだ昨年のチャンピオン前田は、一時遅れを見せるシーンもあったが、最終的には沢田とのギャップを詰め、3秒差でフィニッシュ。

2020年のレースは、撮影・取材メディアも制限され、原則観戦禁止というルールを提示した上での開催が多かったのだが、関西シクロクロスは、参加選手と同居の家族や連絡先等を事前登録すれば、会場内への立ち入りを許可する形となった。


マスクをし、カウベルを振り、フライオーバーを上る選手たちを応援する子供たち


広がりのあるコース


コーヒーなどを提供するキッチンカー。「間隔をあけて」のメッセージもおしゃれ

会場内の人数は、例年よりかなり少なかったように思えるが、会場内はフードブースや自転車関連ブースが並び、コロナ前のレース会場に近い、楽しい空気を演出していた。全ての観客・スタッフがマスクを着用し、感染対策には工夫を凝らしていたようだが、そもそも広がりのあるオープンエアの会場は「密」を作りにくい。もちろん万全の対策をしながら、久々の開放感を満喫し、来場者はレース参加や観戦を楽しんだ。


トップカテゴリー以外は、MTBなどでの参戦も可能。ママチャリの参加を許す大会もあり、気軽に挑戦を!

中止を決めた大会も少なくないが、感染症対策を施した上で開催を決めている大会も多い。ビギナーカテゴリーは、シクロクロスバイクがなくとも参戦可能。近くの大会に足を運び、挑戦したり、観戦してみてはいかがだろうか。(国内大会カレンダーはこちら

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男子エリート(9Laps)結果
1位/織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) 1:01:10
2位/沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)+0:25
3位/前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)+0:28
4位/村上 功太郎(松山大学) +0:35
5位/小坂 光(宇都宮ブリッツェン)+0:56
6位/竹之内 悠(ToyoFrame)

女子エリート(6Laps)結果
1位/今井美穂(CO2bicycle) 47:33
2位/與那嶺恵理(OANDA JAPAN)+0:27
3位/赤松綾(SimWorks Racing +0:40
4位/石田 唯(北桑田高校) +1:38
5位/唐見 実世子(弱虫ペダル サイクリングチーム) +1:58
6位/小林 あか里(CMC/Aigle) +2:02

写真 : Satoshi Oda、編集部