「クレーキング」と呼ばれるラファエル・ナダル(スペイン)は、対戦相手よりも多くのフォアハンドショットを放つ。そして彼のフ…

「クレーキング」と呼ばれるラファエル・ナダル(スペイン)は、対戦相手よりも多くのフォアハンドショットを放つ。そして彼のフォアハンドは、対戦相手よりも強力だ。熱心なテニスファンなら、常識とも思えるこの2つの記述を額面通りに信じ、驚くことはないかもしれない。ただし、これらはいずれも誤りだ。ATP公式サイトが報じている。【マッチハイライト動画】ナダルvsデルボニス/ATP1000モンテカルロ2回戦

2017年から2019年までの「ATP1000 モンテカルロ」での12試合を分析し、ナダルのフォアハンドを対戦相手のものと比較した。その統計データを見ると、我々が思うよりも対戦相手が良い数字を積み上げていることがわかる。このデータに含まれる12試合は次のものだ。ナダルはこのうち11試合で勝利し、1試合で敗れた。

2017年から2019年の「ATP1000 モンテカルロ」でのナダルの12試合

1.2019年準決勝 ファビオ・フォニーニ(イタリア)に敗北 6-4、6-2

2.2019年準々決勝 ギド・ペラ(アルゼンチン)に勝利 7-6(1)、6-3

3.2019年3回戦 グリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)に勝利 6-4、6-1

4.2019年2回戦 ロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)に勝利 6-1、6-1

5.2018年決勝 錦織圭(日本/日清食品)に勝利 6-3、6-2

6.2018年準決勝 ディミトロフに勝利 6-4、6-1

7.2018年準々決勝 ドミニク・ティーム(オーストリア)に勝利 6-0、6-2

8.2018年3回戦 カレン・ハチャノフ(ロシア)に勝利 6-3、6-2

9.2017年準決勝 ダビド・ゴファン(ベルギー)に勝利 6-3、6-1

10.2017年準々決勝 ディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)に勝利 6-4、6-4

11.2017年3回戦 アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)に勝利 6-1、6-1

12.2017年2回戦 カイル・エドマンド(イギリス)に勝利 6-0、5-7、6-3

次に挙げる5つの事実は、ナダルと対戦相手のフォアハンドのパフォーマンスを比較したものだが、テニスファンは驚くかもしれない。

1.ナダルの打つフォアハンドは対戦相手より少ない

特にクレーでのナダルは、コート上のあらゆる場所に走りこんでフォアハンドを打ち、相手のバックハンド側を攻撃するのを好む選手、というイメージがある。しかし、上記の12試合では、実は対戦相手の方がナダルよりも多くのフォアハンドを打っていた。

・ナダルのフォアハンド:1,493本

・対戦相手のフォアハンド:1,546本

3セットに及んだ2017年のエドマンドとの対戦では、エドマンドはナダルより33本多くフォアハンドを打った(204本対171本)。同じ年の準決勝では、ゴファンがナダルより30本多くフォアハンドを放っている(134本対104本)。

2.フォアハンドのスピードは対戦相手より遅い

ナダルは練習の場面では焼け付くように痛烈なフォアハンドを繰り出すことで知られているが、一度試合が始まれば、そこまでの熱は持ち込まない。とはいえ、ナダルはモンテカルロのクレーコートで対戦相手より強力なフォアハンドを打っているものと思うだろう。そうではないとデータは語っている。

フォアハンドの平均速度

・ナダル:時速122.9キロメートル

・対戦相手:時速124.9キロメートル

最も大きな差が見られたのはエドマンドとの試合だ。エドマンドのフォアハンドの平均時速が134キロメートルであったのに対し、ナダルは121キロメートルで、その差は13キロメートル。分析対象の12試合のうち2試合(錦織戦とフォニーニ戦)でのみ、ナダルのフォアハンドの平均時速が対戦相手を上回っていた。

3.フォアハンドとバックハンドの割合は対戦相手とほぼ同じ

ナダルがクレーコートに立つ時、彼がフォアハンドを打つ割合はバックハンドを打つ割合よりもずっと高いと誰もが思うだろう。特に、過去に11度優勝しているモンテカルロであればなおさらだ。だが、これは事実ではない。

ナダル

・フォアハンド:59%(1,493本)

・バックハンド:41%(1,030本)

対戦相手

・フォアハンド:58%(1,546本)

・バックハンド:42%(1,122本)

エドマンドも、対戦相手のバックハンド側であるアドコートにフォアハンドで返球するのが得意な選手である。分析対象となった試合でのフォアハンドの割合は、エドマンドが68%であったのに対し、ナダルは61%にとどまっている。

4.ベースラインの内側からフォアハンドを打つ割合

ナダルは、対戦相手のサーブをリターンするために可能な限り後ろで構えることを好む。しかし、リターンが成功してラリーが始まれば、ベースラインの内側でフォアハンドを打つ割合は、対戦相手よりナダルの方が高い。

ナダルがフォアハンドを打つ位置

・ベースラインの内側:23%

・ベースラインから2メートル以内:49%

・ベースラインの2メートル以上後方:28%

対戦相手がフォアハンドを打つ位置

・ベースラインの内側:18%

・ベースラインから2メートル以内:56%

・ベースラインの2メートル以上後方:26%

2018年の決勝で錦織を破った試合では、ナダルはフォアハンドの48%をベースラインの内側から放っていた。対する錦織はわずか16%であった。

5.対戦相手との打点の高さの差は12㎝

ナダルの重いトップスピンにより、対戦相手はより高い位置でボールを打つことを強いられる。その差はどれぐらいだろうか。

ラリー中の打点の平均高度

・ナダル:1.05メートル

・対戦相手:1.17メートル

両者の差は12センチメートル、これはテニスボール2つ分と同じくらいの高さだ。2018年の準決勝でナダルがディミトロフに6-4、6-1で勝利した時、ディミトロフの打点の平均高度が1.24メートルであったのに対し、ナダルは1.16メートルであった。これはナダルの数値としても対戦相手の数値としても、分析対象となった12試合のうちで最も高い数値であった。

それでもナダルの重いフォアハンドが彼にとって大きな武器であるのは間違いない。今年も「ATP1000 モンテカルロ」で前人未到の12度目の優勝を目指して、ナダルはフォアハンドを炸裂させることだろう。

(テニスデイリー編集部)

※写真は2018年「ATP1000 モンテカルロ」で優勝したナダル(左)と準優勝の錦織(右)

(Photo by Julian Finney/Getty Images)