ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 今年もいよいよクラシックの季節がやってきました。 クラシックはサラブ…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 今年もいよいよクラシックの季節がやってきました。

 クラシックはサラブレッドにとって、一生に一度の舞台。それも、2歳の6月からわずか10カ月ほどの間に、出走が叶うだけの成績を挙げて賞金を稼がなければ、その舞台に立つことはできないのです。少しでも予定が狂ってしまえば、そのチャンスは得られないので、決して容易なことではありません。

 また、生産者、育成牧場、調教師、調教助手、担当厩務員など、1頭のサラブレッドに携わる数多くの関係者が"バトン"を受け継いでの一戦であり、またとない特別な意味を持つ舞台と言えます。私も過去のクラシックを制した立場として、出走に漕ぎつけた陣営の努力と苦労については、並々ならぬもの感じざるを得ません。

 昨年はコロナ禍にあって、桜花賞も、皐月賞も......春のクラシックは無観客で行なわれる異例の事態となりました。残念ながら1年の時を経ても、その環境が大きく改善されたとは言えませんが、その間、競馬は一度も滞ることなく開催されてきました。そして今年も、クラシックの幕開けとなるGI桜花賞(4月11日/阪神・芝1600m)の開催を無事に迎えられることができて、非常にうれしく思っています。

 その桜花賞は"今年も"と言うか、再び混戦模様ですね。ここ3年はデアリングタクト、グランアレグリア、アーモンドアイといった、桜花賞以降も大いにその名を馳せた馬ばかりが勝っていますから、今となっては難解だったことも忘れられていますが、3頭はいずれも本番前のトライアルレース以外からの臨戦過程でした。おかげで、トライアル組との力関係を比較するのが難しく、戦前は「混戦」と言われ、予想そのものはかなり難解でした。

 とにかく、近年はこうした"ぶっつけ本番"のローテーションが一般化され、戦前の力量比較においては、それが"足かせ"となっています。そして今年も、ソダシ(牝3歳)、サトノレイナス(牝3歳)、ファインルージュ(牝3歳)、ソングライン(牝3歳)ら賞金上位の有力馬たちが、2カ月半以上間隔が空いた臨戦過程で桜花賞に臨んできました。

 他にも、GIIIクイーンC(2月13日/東京・芝1600m)やGIIIフラワーC(3月20日/中山・芝1800m)など、さまざまな前哨戦、ステップレースから数多くの馬が参戦。それらが桜花賞で一堂に会することになり、そうした点がここ最近の桜花賞というレースの難易度を高める要因となっています。

 実際、今年の出走馬を見てみると、6つの重賞、3つのリステッド競走と、計9つものレースからここに臨んできています。加えて、それぞれ未対戦という馬が多数います。結果、ワンターンの外回りのマイル戦というクセのないコースでの大一番でありながら、予想は難解を極めます。

 つまり、ここ数年と同様、今年も「特異なローテンションによる成否の見極め」と「前哨戦それぞれの力量比較」をきちんと検討することが、桜花賞の行方を占う"肝"になると思います。

 まずローテーションで言えば、昨今は外厩施設の充実が著しいため、一部オーナーブリーダーが"ぶっつけ策"を打ってくることが多いです。それは、それだけ外厩での仕上げに自信があると言えます。現に今年も、前述した"ぶっつけ組"の直前の追い切りなどを見る限りでは、どの馬も久々であることを感じさせませんでした。

 そうした状況にあって、実力面で言えば、同じ阪神マイルの舞台で結果を残してきた馬を重視したいと思っています。なぜなら、桜花賞を目指すうえで、阪神マイルの主要ステップレースは、得てしてメンバーがそろいやすく、他のステップレースに比べてペースや時計面などにおいて、馬の地力が問われるレースになりやすいからです。

 そうなると、昨年末のGI阪神ジュベナイルフィリーズ(12月13日/阪神・芝1600m)を制したソダシと、僅差の2着となったサトノレイナスには一目置かざるを得ません。

 特にソダシに関しては、唯一の無敗馬。その実績だけでも中心視するのは必然と言えますが、レース内容も幅広く、高い評価を受けるに値します。キャリア2戦目のGIII札幌2歳S(札幌・芝1800m)こそ、ハミがかりがよすぎて危うさを覗かせたものの、続くGIIIアルテミスS(東京・芝1600m)ではスローペースのなか、うまく折り合って先行。直線、外目から抜け出して、そのまま押し切りました。

 そして阪神JFでは、馬群の中で脚をタメる形で追走。そのため、直線では前が壁になって、切れ味よりも長く脚を使うことに富んだ馬ながら、早めのスパートをかけることができませんでした。にもかかわらず、最終的には接戦を制してハナ差、凌ぎました。

 以前はジョッキーも乗り難しさを懸念していたそうで、その不安点はいまだ完全にクリアできたとは言い難いものがあります。しかし、対応力の高さ、ハイレベルな争いを勝ってきたことから、大崩れは考えづらいです。軸として、信頼度の高い存在と言えるでしょう。

 また、鞍上の吉田隼人騎手には、個人的な思い入れがあります。現役の頃、彼と一緒に過ごした時期はわずかですし、言葉をかわしたこともそう多くはないのですが、実は私が引退する時に突然、彼が「鞍をください!」と頼んできたのです。私と彼の兄の吉田豊騎手と仲がよかったのもあって、慕ってくれたのでしょう。

 それで、私から鞍を2つプレゼントしたのですが、そんな縁もあって、彼のことは今でも気にかけています。今後の彼のジョッキー人生に箔をつけるためにも、桜花賞ではぜひがんばってほしいと思っています。

 もちろん、そのソダシに引けをとらないレースを見せたサトノレイナスも有力視すべき存在です。一戦ごとの上昇度合いは、ソダシよりも上でしょう。

 さらに、今最も乗り馬が集まっているジョッキー、クリストフ・ルメール騎手が同馬を"選んだ"ということも強調材料となります。ソダシを相手に、今度はどんなレースを見せるのか、必見です。



桜花賞での一発が期待されるエリザベスタワー

 人気サイドではこれら2頭に注目ですが、人気薄で気になる馬を挙げるなら、エリザベスタワー(牝3歳)です。同馬を今回の「ヒモ穴馬」に取り上げたいと思います

 昨年末、阪神マイルの新馬戦でデビュー。スローの流れのなか、この馬だけ別次元の末脚を繰り出して、豪快な差し切り勝ちを決めました。その時点で、「遅れてきた桜花賞候補」と思ったほどです。

 2戦目のオープン特別・エルフィンS(2月6日/中京・芝1600m)では、口向きの悪さを露呈。成す術なく9着と惨敗を喫しましたが、その後、陣営はハミを換えて、クロス鼻革も付けるなどして矯正。競馬に集中できるような策を施すと、GIIチューリップ賞(3月6日/阪神・芝1600m)では1着同着となって、見事な巻き返しを図りました。

 チューリップ賞のレース後、鞍上の川田将雅騎手は、この馬の操縦性の難しさをまだ課題として挙げていましたが、川田騎手はこうした馬の長所や短所を的確に判断することに長けています。とすれば、陣営はその指摘をもとにして、本番に向けて改善を務めてくるでしょう。

 ということは、桜花賞ではさらなる上積みが見込めます。阪神マイルで2戦2勝というのもプラス材料。一発への期待が膨らみます。