昨年は最終戦のゴール500メートル手前でトップのトヨタが失速し、ホンダの年間王者が決まるという劇的な幕切れだったスーパーGTのGT500クラス。今年も4月10日・11日に行なわれる第1戦・岡山を皮切りに、ホンダNSX-GT、トヨタGRスー…

 昨年は最終戦のゴール500メートル手前でトップのトヨタが失速し、ホンダの年間王者が決まるという劇的な幕切れだったスーパーGTのGT500クラス。今年も4月10日・11日に行なわれる第1戦・岡山を皮切りに、ホンダNSX-GT、トヨタGRスープラ、日産GT-Rの三つ巴によるバトルが始まる。



富士の開幕前テストでトップタイムを叩き出した日産GT-R

 過去5年のシリーズを振り返ると、チャンピオンのタイトルを獲得している回数は、トヨタ勢が3度、ホンダ勢が2度。日産勢は2014年を最後に6年間、戴冠から遠ざかっている。

 しかし今年の日産は、開幕前から近年にない手応えを掴んでいる様子だ。

 3月下旬に行なわれた富士スピードウェイでの公式テスト2日目で、松田次生/ロニー・クインタレッリ組(ナンバー23/MOTUL AUTECH GT-R)がトップタイムを記録。例年、シーズン前のテストではホンダやトヨタが速さを見せる傾向にあったが、今年はそこに日産が割って入ってきた。

「テストでは例年10番手前後の位置にいることが多く、2020年の開幕前は『どうなるかな、大変だな......』と思うところもありました。でも、今回の富士テストではトップタイムを記録することができました。

 もちろん、周りがどういう状況でテストをしていたのかわかりません。ただ、僕たちにとってはすごくポジティブな結果でした。ニスモもミシュランさんもがんばってくれたおかげで、すごくいい方向に行っていると思います」

 そう語るのは、23号車をドライブする松田だ。2006年に日産に加入し、2014年と2015年には2年連続でドライバーズタイトルを獲得。まさに日産勢のエースだ。

 松田は熱心な「GT-Rユーザー」としても知られている。初代のハコスカから最新モデルのR35まで複数のGT-Rを所有していることでも有名だ。それだけ愛にあふれているがゆえ、"GT-R"という名前を背負って走ることに誇りとプレッシャーを感じているという。

「GT-Rは運転していて味があります。プライベートでも大好きで、R35の2020年モデルで筑波サーキットを走った時、量産車での最速タイムを出すこともできました。スーパーGTでチャンピオンを獲ることができたのも、GT-Rのおかげです。自分のレース人生を変えてくれたクルマですね。

 そのGT-Rに乗ってスーパーGTを戦うことはやりがいがありますが、プレッシャーもあります。ニスモに入って今年で8年目ですが、(周りからは)常に勝って当然という目で見られますし、トップの座を狙ってくる若手ドライバーもいます。精神的に強くないとできないので、自分も努力を怠らないようにしています」

 日産勢が王座から遠ざかっている原因として、松田は「総合力」を課題としてあげた。

「スーパーGTでタイトルを獲るには、クルマ、タイヤ、チームのすべてが噛み合わないといけません。僕たちも毎年いいところまでは行くのですが、とくに終盤2戦でのパフォーマンスが足りていなくて(タイトルを)獲り逃している部分があります」

 2020年は新型コロナウイルスの影響で、開催コースが富士スピードウェイ(4回)、鈴鹿サーキット(2回)、ツインリンクもてぎ(2回)の3カ所に限られた。

 これが日産勢にとって、大きな誤算だった。なぜならば、GT-Rは開催されなかったオートポリスやスポーツランドSUGOといったテクニカルなコースを得意とするマシンに仕上がっていたからだ。

 しかし今シーズンは、第1戦で岡山国際サーキット、第5戦でスポーツランドSUGO、第6戦でオートポリスと、昨年開催されなかった3会場が復活する。これは日産勢にとって大きなポジティブ要素だ。

「スープラ(トヨタ)はトップスピードが速いので、富士では速いですし、もてぎも警戒しないといけません。NSX(ホンダ)はどのコースでも速いという印象です。

 一方、GT-R(日産)はテクニカルなコースである鈴鹿やオートポリス、SUGOあたりで強さを発揮できるクルマになっていると思います。そういう意味で、今年はオートポリスやSUGOの開催が復活したのは大きいですね」(松田)

 開幕前テストでの日産の好調ぶりを見るかぎり、今年のGT500クラスはさらなる激戦が予想される。そのなかで日産GT-Rが王座奪還を果たすために、松田はどんなプランを描いているのか。

「まずは序盤戦のどこかで勝ちたい。そして、ウェイトを積んだ状態でもしっかりとポイントを稼ぎたいです。残り2戦の勝負がキーポイントになってきます。GT-Rファンのために、今年こそは何としてもタイトルを勝ち取りたいですね」

 愛する「GT-R」というブランドを背負った日産のエースが、6年ぶりの頂点を目指して2021シーズンに挑む。