50歳まで現役生活を続け、通算219勝を挙げたレジェンド・山本昌氏(元中日)。同氏が有望な高校生投手をアナライズする人気企画が今春も帰ってきた。春の選抜高校野球大会(センバツ)を沸かせた12名の投手をレジェンドが徹底分析する。



昨年夏に152キロをマークした市和歌山の小園健太

小園健太(市和歌山/184センチ・90キロ/右投右打)

 多くのプロスカウトが彼を絶賛しているように、私もすばらしい投手だと感じました。とくに変化球の使い方や試合のつくり方は高校生離れしています。ボールの伸び、コントロール、変化球の精度も高く、すべてにおいてまとまっています。キャッチャーの松川虎生くんとの相性もピッタリで、これだけハイレベルなバッテリーはなかなかお目にかかれません。あえて注文をつけるとすれば、体重移動に改善の余地があることでしょうか。今は左肩が止まってその場で投げている印象ですが、左肩がもう少し捕手方向に出てくれば、球筋やコントロールがより安定するはずです。



193センチの大型右腕、天理のエース・達孝太

達孝太(天理/193センチ・88キロ/右投右打)

 MLBを目指すと公言しているそうですが、それもうなずけるスケールの大きさです。体のサイズはあるし、投げっぷりもいい。ボールに角度がつくのもすばらしいですね。これだけ体が大きくてボールが走るピッチャーは珍しいですし、スピードはこれからまだまだ上がるはずです。現時点で気になる点を挙げるとすれば、投げる瞬間に顔が下に落ちるところ。顔の位置が下がり、それに伴って体全体が開き気味になり、ボールに強めのシュート回転がかかってしまいます。とはいえ、発展途上の段階でこれだけ投げられれば十分。将来性抜群の逸材です。



最速151を誇る中京大中京の畔柳亨丞

畔柳亨丞(中京大中京/177センチ・87キロ/右投右打)

 ボールのキレと馬力にかけては今大会ナンバーワンでしょう。ボールの走りは文句なし。はまったボールはスピードガンの数字以上の体感速度があります。準決勝で力尽きましたが、今大会から採用された「1週間500球以内」の球数制限の影響もあったのかなと感じます。大会終盤は「あと○球しか投げられない」と意識するなかで、必要以上に力みが出ていたように見えました。また、左肩を開くのがわずかに早く、強いシュート回転がかかる部分も修正したいところです。左肩の開きを少し我慢して、より捕手寄りでリリースできるようになれば、持ち前の馬力がさらに生きるはずです。1学年先輩の高橋宏斗投手(中日)に勝るとも劣らない逸材です。



センバツでは29回1/3で45奪三振の快投を見せた東海大相模・石田隼都

石田隼都(東海大相模/183センチ・73キロ/左投左打)

 今大会無失点でチームを優勝に導いたように、ゲームメイク能力の高さが際立ちました。私は母校の日大藤沢の臨時コーチを務めている関係から、同じ神奈川でプレーする石田くんを1年生の頃から見ています。わずか2年の間にずいぶんと成長したなと驚かされました。彼のとくに優れた点は腕の振りです。バランスのいいフォームから、速球も変化球も鋭く腕を振れています。球速は140キロ前後でも速く見えますし、なによりカーブとチェンジアップという大きなタテ変化の球種を扱えるのがポイントです。今大会29回1/3で45三振を奪えたのは、この腕の振りがあるから。まだ線の細い投手ですから、これから体ができてくれば松井裕樹投手(楽天)のようになる可能性があります。



最速150キロの速球が魅力の大阪桐蔭・松浦慶斗

松浦慶斗(大阪桐蔭/185センチ・92キロ/左投左打)

 今大会は智辯学園(奈良)戦の初回に4失点するなど本調子ではなかったようですが、体格的に恵まれているし、ストレートの質はいいし楽しみな投手であることに変わりはありません。智辯学園戦を見て気になったのは、変化球をやや置きにいっていたところです。速球に比べて腕の振りがおとなしくなっている分、打者に見切られてしまったのではないかと思いました。これからより高いレベルで活躍するには、変化球でも速球と同じように鋭く腕を振れるようになってもらいたいですね。



中学時代に146キロを記録した大阪桐蔭・関戸康介

関戸康介(大阪桐蔭/179センチ・81キロ/右投右打)

 松浦くんと同様に甲子園では力を発揮できなかったようですが、投手としてのモノのよさは感じました。小・中学生の頃から結果を残してきたように、まとまりのある投手らしい投手に見えます。指にかかった変化球はすばらしいキレがありました。フォームで少し気になったのは、軸足(右足)で立った後、右ヒザを折るのが早いこと。せっかく長身で角度がつけられるはずなのに、自ら角度をなくしてしまっています。また、体重移動の際に体がわずかに止まる時があり、ボールがすっぽ抜ける原因になっています。これから体が強くなってくれば、メカニズムもいい方向に変わっていくはずです。



鋭く曲がるスライダーが武器の北海・木村大成

木村大成(北海/180センチ・78キロ/左投左打)

 非常に独特な腕の使い方をするサウスポーですね。バックスイングで大きく背中側に左腕が入りますが、ここから鋭く振れて速球にキレがあります。また、ステップする右足が少し突っ張る分、ブレーキの効いた変化球が投げられるのも魅力です。本人はスライダーと言っているそうですが、私には工藤公康さん(ソフトバンク監督)が高校時代に投げていたカーブと重なって見えました。もう少し体重移動ができれば、よりキレのあるボールが投げられるだろうと思う反面、このステップだから変化量の大きな球種が投げられるメリットもあるでしょう。独特な腕の振りは今後指導者に矯正される可能性もありますが、私の後輩の岩瀬仁紀(元中日)のように特殊な腕の振りでも成功した例もあります。木村くんには、自分にしかできない個性を生かしてもらいたいですね。上の世界ではリリーフタイプとして、すぐに起用される近未来像が浮かんできます。



昨年秋、チームを初の東北大会へ導いた八戸西の福島蓮

福島蓮(八戸西/189センチ・72キロ/右投右打)

 上の世界ですごく伸びそうな、非常に面白い投手です。身長189センチと上背があって、フォームには欠点らしい欠点がありません。21世紀枠で出場した公立校にこんな魅力的な投手がいるのですから、世界は広いなと感じます。まだ体の線は細いし、発育途上ということもあって、厳しいトレーニングを課されるのはこれからのはず。プロの恵まれた環境で体づくりをしたら、もっと伸びそうな気配を感じます。甲子園では不本意な結果に終わったとしても、多くの人に素材のよさを見てもらえた点ではよかったと思います。これから体ができてくれば、今大会は高めに浮いていたボールが全体的に低めに集まってくるはず。今まで以上に角度が生かせる投手になって、大化けが期待できます。



明徳義塾戦で4回途中からマウンドに上がり無安打の好投を見せた仙台育英・伊藤樹

伊藤樹(仙台育英/178センチ・78キロ/右投右打)

 明徳義塾(高知)戦で名将・馬淵史郎監督をうならせたノーヒットリリーフ(5回1/3を投げ無安打、6奪三振、無失点)は見事でした。伊藤投手の特徴はボールに伸びがあること。角度を使うタイプではなく、ヒジを前に持っていってボールを前で離すタイプ。打者に向かってぐんぐん伸びていく体感のストレートを投げられます。少し気になるのは、時折早めに体を倒して投げるクセがあること。とくに変化球を投げる際に見られる動作ですが、これから体ができてくれば改善できるはずです。フォーム的にタテの変化球を扱うのは難しいかもしれませんが、小さく変化する球種をいかに操れるかが今後のカギになってきそうです。



キレのあるストレートが持ち味の広島新庄・花田侑樹

花田侑樹(広島新庄/182センチ・75キロ/右投左打)

 センバツで評価を上げた右腕と聞きましたが、さすが昨秋の中国大会優勝に導いた投手だとうならされました。彼の評価ポイントは、球速うんぬんの前にボールのキレや腕の振りがすばらしいこと。リリースの際に手首がしっかりと立っているのでボールに角度がつき、スナップを効かせてボールを押し込める。藤川球児くん(元阪神)の手首の使い方に似ています。スライダーもタテにきれいに落ちているし、試合をまとめる力もある。あとは左肩の使い方が上手になれば、言うことなしです。体重移動の際に左肩がもう少しホームベース方向に寄っていくと、ボールのキレはさらに増すでしょう。



甲子園で自己最速の143キロをマークした専大松戸の深沢鳳介

深沢鳳介(専大松戸/177センチ・75キロ/右投右打)

 日大藤沢と専大松戸が合同練習した縁もあり、深沢くんの投球は見たことがありました。この春のセンバツではすごく成長した姿を見せてくれて、驚きました。専大松戸はヒジを下げて投げる投手を育てるのがうまいチームですが、深沢くんもその系譜の選手のひとりです。彼の優れた点は、左肩でうまくカベをつくれること。左肩がなかなか開かないので、これだけ腕を下げて投げてもシュート回転があまり強くない。右腕が一瞬遅れて出てきて、打者はタイミングを取りにくいはずです。まだ体の線が細く、迫力があるとは言えませんが、高卒でのプロ入りも面白いかもしれません。いずれはリリーフとして活躍できるタイプと見ます。



センバツでは2試合に先発した東海大菅生の2年生投手・鈴木泰成

鈴木泰成(東海大菅生2年/185センチ・73キロ/右投右打)

 新2年生の好投手のなかで一人だけ紹介したいのが、この鈴木泰成くんです。高校野球を1年しかやっていないのでまだ線は細く、迫力には欠けますが、将来が楽しみな逸材です。軸足での立ち姿がすごくよく、ボールにタテの角度がついている。体重移動の際に体がストライクゾーンに向かって入っていけるので、コントロールの心配もあまりありません。2年生にしてセンバツのマウンドを踏めたのは、今後を考えるといい経験になったはずです。また、若林弘泰監督は私にとって中日時代の後輩ですが、東海大菅生を名門チームへと育て上げた手腕は見事としか言いようがありません。

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 今大会は前評判どおり、すばらしい投手が目立った大会になりました。印象的だったのは石田くん、達くん、小園くん、畔柳くんの4投手です。石田くんは松井裕樹投手(楽天)のような左腕になるイメージが湧きます。将来性なら達くん。完成度なら小園くん。球の力は畔柳くん。それぞれに個性があり、今後も目が離せない好投手です。

 また、今回甲子園に出場できなかった投手のなかにも、密かに腕を磨く有望株もいるはずです。夏の大会で台頭してきた投手を見させてもらったうえで、あらためて「私が監督ならほしい投手」を発表したいと考えています。