サッカースターの技術・戦術解剖第52回 ベルナルド・シウバ<「止める・蹴る・運ぶ」が一体化> 媒体みたいな選手だと思う。…

サッカースターの技術・戦術解剖
第52回 ベルナルド・シウバ

<「止める・蹴る・運ぶ」が一体化>

 媒体みたいな選手だと思う。フィールドの至るところに現れてボールを預かって捌く。

 人から人へつないでいく時に、物質としてのボールだけでなく、ボールに意思を乗せて運んでいく。ベルナルド・シウバにボールを渡した人の意思に、別の意思を乗せることもあれば、ほとんど何も乗せないこともある。その塩梅が絶妙だ。



マンチェスター・シティ、ポルトガル代表で大活躍のベルナルド・シウバ

 媒体なので本人の強烈な意思はあまり感じないが、いつのまにかチームに欠かせない存在になっていて、チームとしての意思を形づくるのに極めて重要な役割を担っている。

 173㎝と小柄。線も細い。典型的なレフティで、ボールの持ち方が何となく"奴凧"(やっこだこ)を思わせる。風に揺られるように左右に動いて相手をかわし、ときどき表裏がくるりとひっくり返る。それでもボールはいつも左足の前だ。

 サッカーで、ボールを「止める・蹴る・運ぶ」は別々の事象だが、実はすべて一体でもある。ベルナルド・シウバを見るとそれがよくわかる気がする。

 ぴたりとボールを止める。止める位置はボールを蹴れる位置だ。ボールを静止させるのではなく、体と一緒に動くなら「運ぶ」になるが、運んでいる最中にもボールは蹴れる位置になければならない。

 つまり、「止める」と「運ぶ」は、ボールが止まっているか動いているかの違いはあっても、すぐに「蹴る」ことができる位置にボールがあるのは同じなのだ。だからボールを止められなければ運べないし、どこにボールがあれば最高のキックができるか知らなければ、止めることも運ぶこともできないということになる。

 ベルナルド・シウバのボールを扱う姿勢が一定に見えるのは、体とボールの関係も一定だからだ。止まっていても動いていても型が崩れない。その抜群の安定感が優れた媒体である理由なのだろう。

<豊富な運動量があり、判断力に優れる>

 ポルトガルの名門ベンフィカの育成組織から19歳でトップに昇格。ベンフィカBとの掛け持ちで、トップチームでは1試合に出場しただけ。次のシーズンにはフランスのモナコに移籍した。

 移籍した2014-15シーズンではチャンピオンズリーグ(CL)のベスト8進出に貢献。2016-17シーズンはCLベスト4、リーグアン優勝の原動力となった。この時代のモナコには、ベテランのラダメル・ファルカオ(コロンビア)のほか、10代だったキリアン・エムバペ(フランス)をはじめ、ティエムエ・バカヨコ、トマ・ルマール(以上フランス)、ファビーニョ(ブラジル)と、のちに飛躍する錚々たる顔ぶれだった。

 ベルナルド・シウバは主に4-4-2の右サイドハーフでプレーしている。左足アウトの深い切り返しから、間髪入れぬパスでファルカオやエムバペに決定的なパスを供給した。カットインからのミドルシュートが得意でよく点もとっていたが、パスもシュートもほぼフォームは変わらない。体とボールの関係は一定だった。

 2017-18シーズンにマンチェスター・シティに移籍。左右のウイング、インサイドハーフ、センターフォワードでもプレーしている。ただ、どのポジションでもプレーぶりはほとんど、というかまったく変わらない。いつものベルナルド・シウバがそこにいるだけだ。

 シティにはベルナルド・シウバと似たタイプが多い。イルカイ・ギュンドアン(ドイツ)、ケビン・デ・ブライネ(ベルギー)、フィル・フォーデン(イングランド)、ジョアン・カンセロ(ポルトガル)も複数のポジションでプレーできる。運動量が豊富で判断力に優れている。

 ただ、そのなかでもベルナルド・シウバはボールキープ力が高い。ポジション移動を繰り返す仲間たちのなかで、ときどき交通整理をやっている。フィールド上がカオスになりかけると、ベルナルド・シウバが介入してきてキープし、時間をつくって、ポジションの重複などを修正するのだ。

<ポルトガル代表がけっこう凄い>

 ポルトガル代表では右ウイングでプレーしている。1つ中のインサイドハーフにはブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド)がいる。

 このふたりは利き足こそ異なるとはいえ、とても良く似ている。それぞれ独自のスタイルでありながら、優れた媒体という点で同じなのだ。そもそも顔が少し似ていて、ひげ面で、少しタレ目の、ポルトガルによくいる感じの風貌でもある。

 ベルナルド・シウバとブルーノ・フェルナンデスは、プレーのコミットメントが図抜けていてあらゆる局面に介入できるし、それだけの運動量もあり、とりあえず預けておけば何とかしてくれる。このふたりが右サイドでコンビを組んでいる。

 現在のポルトガルはけっこう凄いメンバーだ。シティからはカンセロとルベン・ディアスが来ていて、FWにはリバプールの新鋭ディオゴ・ジョタがいる。あのジョアン・フェリックス(アトレティコ・マドリード)がベンチスタートなのだ。もちろんキャプテンはクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)である。

 振り返ってみると、ポルトガル代表には常に個性的な選手がいた。ルイス・フィーゴやマヌエル・ルイ・コスタの「黄金世代」からテクニシャンの宝庫で、デコやシモン・サブローザのような職人、癖の塊みたいなリカルド・クアレスマまで、さまざまな個性が無造作に入れられた、小さな宝石箱のようなチームだ。

 そこにベルナルド・シウバ、ブルーノ・フェルナンデスという抜群の媒体が入ったことで、チーム全体がどう機能していくか興味深い。個性を連結させる個性として、ふたりは大きな役割を果たすかもしれない。