世界選手権のエキシビションで『花は咲く』を披露した羽生結弦 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、選手らは外部と遮断された中で行動するバブル方式が採用された3月の世界フィギュアスケート選手権。大会最終日の3月28日は、前日までの戦いを終えた…



世界選手権のエキシビションで『花は咲く』を披露した羽生結弦

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、選手らは外部と遮断された中で行動するバブル方式が採用された3月の世界フィギュアスケート選手権。大会最終日の3月28日は、前日までの戦いを終えた選手たちが出演するエキシビションが行なわれた。

 その舞台に羽生結弦が選んだプログラムは『花は咲く』だった。「(コロナ禍の)こんな時代だからこそ僕なりに、世の中に対してメッセージのあるものにできたらいいなと思う」と話していた。

 2011年の東日本大震災復興支援ソング『花は咲く』に振り付けをした4分31秒のプログラムで、羽生は14年11月のNHK杯のエキシビション初めて観客の前で披露した。

 胸の前に抱えた一輪のピンク色の花を氷上に置いて、その周囲を滑り出す。

 いつの日か、時が満ちれば必ず咲き誇ってくれる花。その生命力の確かさを崇めて、待ちわびる心を自身の舞いで表現する。体の隅々までに感情を込めた羽生らしい柔らかで伸びのある滑り。前日のフリーではミスをしたトリプルアクセルも、見違えるようなきれいさで決めた。彼の心から染み出した思いが、観客のいない巨大な空間を静寂で満たすような演技だった。



氷上に置いた花の傍らで舞う羽生

 羽生はテレビ放映で来シーズン(2021ー22)について、まだ誰も試合で成功させていない4回転アクセル(4回転半ジャンプ)を「最初の試合から入れていくつもりです」と明言した。

 そして、こうも話した。

「この世界選手権で完璧な演技で優勝できていたら、自分の中でかなり満足できていたと思います。たぶん、『やりきったな』と。でも、それをさせてもらえなかった。それでよかったんじゃないかとも感じます。

(フリーの)『天と地と』は、(昨年の)全日本選手権はアクセルなしで完成できているとも思うけれど、やっぱり、4回転アクセル込みのプログラムの完成形をちゃんと見せなきゃダメだ、と言われたような気がしました。まだそんなに(回数を)演じているプログラムではないので、まだまだできることはたくさんある。だから来シーズンが始まるまでにまずは4回転アクセルを成功させること。プログラムに入れたとしても他のジャンプを崩さず、プログラムとして完成させられるような練習を、常にしていかなければいけないということを考えています」

 4回転アクセルへの思いをエキシビション開始前のリモート取材でも熱く語っていた羽生。来年に迫った北京五輪をどう意識するかと言及されると、「僕にとっての最終目標は北京五輪ではなく、4回転アクセルを成功させることです」と答えて、続けた。

「僕が今、4回転アクセルを目指している状況の中に北京五輪という大会があれば、それは考えます。ただ、こういう状況下でもあるので、いろいろと世界の情勢を見ながら、また、自分の体などを考慮しながら考えていきたい。現役を辞める、辞めないではなく、4回転アクセルを決めないと、たぶん、一生満足できないとも思っています」

 今後の練習拠点の決定についても、4回転アクセルの練習の進捗が影響してくると見込んでいる。今季、春からひとりで練習を続けてきたことで、あらためてわかった利点も多かったという。複数人数の練習なら、4回転アクセルを跳ぼうと思ったときに、コース上に誰かがいれば気が散ってしまうこともある。さらに大勢が滑る中では、氷のコンディション変化も関係する。ひとりだけの練習では、ジャンプに集中できていた。

 さらに、練習の自由度も高くなり、自分のプランに沿った練習がそのままできるのも利点だ。世界選手権前に4回転アクセルを入れたいと考えた羽生は、2月末までに1本でも降りられたらフリーに入れる決断をしていたという。結局、それは実現しなかったが、諦めきれず、日本出発の3日前までその決断を伸ばした。

「かなり死ぬ気でやっていました」と笑みを浮かべる羽生は、他のジャンプは跳ばず、2時間続けてアクセルを跳ぶ日もあったという。もちろん、4回転半の練習だけを続けていたわけではないが、平均すれば、4回転半の練習は1日45分程度やっていた計算になるだろう、と説明した。

「日本にずっといてトロントで体のケアをしてもらっていた先生には診てもらえていなかったので、かなりガタがきているのは確かです。4回転半の練習をしているので体は酷使しているし、痛む部分もちょっとずつ出てきて、足であったり腰であったり首であったり、いろんなところに負担が溜まっていると思う。だから、それも天秤にかけながら、これからどうするかを決めていかなければいけないと思います」

 さらに、『天と地と』に4回転アクセルを入れる意欲も口にした。

「そもそも4回転半を入れる気持ちでこのプログラムを作ったところもあります。まだ確定ではないけれど、来シーズンもやりたいと思っています。このプログラムとは試合数を積めていないので、もっといいところを見せたいと思っています。4回転アクセルが入ったらぜんぜん印象が違うプログラムになると思うので、そういう意味でもこの子(プログラム)を完成させたいなという気持ちがあります」

「あと8分の1回転を回ることができれば立てるし、確実にランディングすることができるだろう」と、羽生は明るい表情で話した。

「世界で誰よりも早く、公式戦で4回転アクセルを決めたい」

 18年の平昌大会で五輪連覇の目標を果たしたあと、次なる競技人生の最大の目標に設定した4回転アクセル。羽生はそこへ本格的に進み出そうとする覚悟だ。