世界選手権2021を制したアンナ・シェルバコワ 世界フィギュアスケート選手権、女子シングル。優勝のアンナ・シェルバコワ、準優勝のエリザベータ・トゥクタミシェワ、3位に入ったアレクサンドラ・トゥルソワ。ロシア勢が、表彰台を独占した。シェルバコ…



世界選手権2021を制したアンナ・シェルバコワ

 世界フィギュアスケート選手権、女子シングル。優勝のアンナ・シェルバコワ、準優勝のエリザベータ・トゥクタミシェワ、3位に入ったアレクサンドラ・トゥルソワ。ロシア勢が、表彰台を独占した。



シェルバコワ(中央、1位)、エリザベータ・トゥクタミシェワ(左、2位)、アレクサンドラ・トゥルソワ(右、3位)

 そもそも、3人はロシアで熾烈(しれつ)な争いを勝ち抜いてきた。

 2018年平昌五輪の金メダリストであるアリーナ・ザギトワ、銀メダリストのエフゲニア・メドベデワは実質、競技から離れている状態だが、人材に事欠かない。アリョーナ・コストルナヤは2019−20シーズンのグランプリファイナルで優勝し、カミラ・ワリエワは世界ジュニア王者で昨年のロシア選手権で銀メダルの14歳、超新星。国内を勝ち抜くだけで至難の業だ。

 ストックホルムでロシア旋風が吹き荒れたのは、当然の帰結かもしれない。

 ショートプログラム(SP)で12位と低迷したトゥルソワはフリースケーティングで、底知れぬポテンシャルを発揮した。

「4回転ジャンプは大切ですし、私はいつも入れています。大会によらず、5個は入れているかと」

 16歳のトゥルソワは言うが、まさに常識を覆すプログラムだった。

 冒頭の4回転フリップを鮮やかに決めると、次の4回転サルコウは転倒も、少しもひるまない。4回転ルッツ+3回転トーループというコンビネーションジャンプを見事に決め、GOE(出来ばえ点)を含めて19.48点をはじき出す。男子トップに比肩する大技だ。

 後半、4回転ルッツは再び転倒。4回転トーループからの連続ジャンプはダウングレードになったが、得点は稼ぎ出す。そして最後は、3回転ルッツ+3回転トーループという難易度の高いコンビネーションジャンプを、楽々と跳んでいた。

 フリーは152.38点で1位。大きく巻き返しての3位表彰台で、五輪シーズンに向けて強烈な存在感を示した。

「プログラムに関して言えば、今日のパフォーマンスには満足していません。スコアはそんな大事なことじゃなくて。自分はただ、クリーンな演技がしたいの」

 トゥルソワは言うが、その完成形は新時代の黎明かーー。

 一方、SP3位のトゥクタミシェワは24歳と経験を積んだスケーターの老練さを見せた。日本語で「愛」が背中に刻まれた黒い衣装で、2本のトリプルアクセルを成功した後だった。4本目のジャンプ、3回転フリップで転び、そこから流れを失う気配があったが、粘り強く持ちこたえた。曲の律動が高まる中、残り3本のジャンプをすべて着氷し、141.60点を獲得している。

「3回転フリップで転倒した後は、すべてが終わったと思いました」

 トゥクタミシェワは胸中を明かす。

「だから、フリーのスコアを見て、(その時点で)2位なのはわかったんですが、気が気ではなくて。(すぐに)総合得点が出て、(ふたりを残して)1位に立ったのがわかったとき、感極まってしまい、思わず涙が出ました。結果を見て泣いたことは、これまで一回あったかどうか。自分の感情を抑えられない出来事なんて、いつかあるのか、とずっと思ってきましたが、今日の世界選手権でありましたね」

 SPもフリーも3位だったが、2つを揃えて総合220.46点で、2位の座を射止めた。2015年世界選手権以来の表彰台だ。

「まだ、"自分のステージが変わった"という感覚はありません」

 初の世界制覇を果たした16歳、シェルバコワは大会をそう振り返っている。3月28日が誕生日で、自ら花を添えた。

 SPで首位に立っていたが、フリーは冒頭の4回転フリップで転倒。本調子には見えなかった。しかしロシア選手権3連覇の女王は、そこから真価を見せた。

 3回転フリップ+3回転トーループ、2本のダブルアクセルを確実に着氷。基礎点が1.1倍になる後半に、3回転ルッツ、3回転フリップ+シングルオイラー+3回転サルコウで得点を積み上げる。そして最後は3回転ルッツに、3回転トーループではなく3回転ループをつけ、得点を荒稼ぎした。

 スピンが1つレベル2で、ステップもレベル3と、少し疲労を感じさせた。しかし152.17点で、フリーは2位。総合スコア233.17点で、2位を10点以上引き離しての優勝だ。

「世界選手権はとても重要な大会。私は最高のプログラムを準備し、3種類の4回転も試す予定でした。ただ、準備段階で困難に直面し、調整が必要になってしまって。3つの4回転を見せられない、となったときは落ち込みましたが、今の状況でできることに集中しようと思って......。1位になれると思っていなかったので信じられないくらいうれしいです!」

 シェルバコワは謙虚に言い、高みを目指した。

「来シーズンはしっかり準備し、最高の状態で、私ができる最大限のプログラムを見せたいと思っています。北京オリンピックでは、(優勝には)4回転が確実に必要になるでしょうし」

 ロシア勢は表彰台を独占した。しかし、ひとりも喜びに浸り切っていなかった。五輪での金メダルは勲章だが、その前に出場権を巡る争いも過酷なのだ。

 ロシア女子シングルは、一時代を築こうとしている。