世界選手権19位の大会自己ワースト順位に終わった宮原知子 リモート会見に出席した宮原知子は、流暢な英語でインタビューに応えている。「Disappointed」(失望した)「Upset」(動転した)「Sad」(悲しい) 世界選手権2021、1…



世界選手権19位の大会自己ワースト順位に終わった宮原知子

 リモート会見に出席した宮原知子は、流暢な英語でインタビューに応えている。

「Disappointed」(失望した)

「Upset」(動転した)

「Sad」(悲しい)

 世界選手権2021、16位スタートになったショートプログラム(SP)後の心境である。一つひとつの機械的な英単語にしたほうが、なぜだか直接的に混乱が伝わってくる。感情の糸が絡み合い、ほつれている。

 しかしフリーに向け、気持ちは切り替えられたはずだった。少なくとも彼女自身はそう認識していた。しかし体の反応はまるで違っていてーー。

 3月26日、スウェーデン・ストックホルム。深紅の衣装をまとった宮原は、小さな団子状にまとめた髪に、両耳はシルバーに輝くピアスを光らせ、気品を漂わせていた。5度目となる世界選手権で、落ち着いているようだった。

「(ショートから)気持ちも持ち直せていたし、調子もよかったです。"何も問題はなかった"という言葉どおりで。ショートに比べて、冷静に試合に臨むことはできていました」

 入念に仕上げてきたオペラ曲『トスカ』の悲劇性を再現するため、彼女はスタートポジションについた。

 しかし、1本目のコンビネーションジャンプは3回転ルッツ+3回転トーループの2つ目で転倒してしまう。ダブルアクセルは確実に降りたが、3回転ループは2回転に、3回転サルコウも回転が外れ、再び転倒。ジャンプが決まらない。後半に入って基礎点が高いジャンプも、3回転フリップ+2回転トーループ+2回転ループは回転不足、3回転ルッツは2回転ルッツに、最後のダブルアクセル+3回転トーループは成功したかに見えたが、4分の1以上の回転不足でマイナスがついた。

 スピン、ステップはすべてレベル4で"らしさ"を示したものの、スコアは伸びなかった。112.31点で19位。かつて2度、世界選手権で表彰台に立っているだけに、あり得ないスコアと言えるだろう。トータルでも172.30点で、19位に沈んだ。

「技術的には難しくて、話にならないような内容でした」

 宮原は自分を責めるように言った。貞淑な彼女にとっては、強い表現かもしれない。それだけ、無念さが胸の中で渦巻いていたのだろう。

「精神的には自分と向き合えて、ショートに比べると冷静に滑れたと思うんです。でも、そのギャップというか、まだ自分がそれをどう考えて、わかったうえで、ものにするってところまでいっていないのかなって。(頭では)冷静に考えられるけど、行動(演技)に結びついていない。ちぐはぐな感じです」

 厳しい結果になっただけに、敗因を探すのは自然の流れだろう。全日本選手権では、SPから挽回して不屈の演技で3位に入っているのだ。

「全日本も、"自信を持てた"と言えるほど完璧な演技ではなくて。ミスもあったし、"たまたまジャンプが降りられた"という状況だったのかもしれません。自分がちゃんと演技するようになるにはどうしたらいいのか。それを考える過程にいるんだと思います」

 あまりに謙虚に語る宮原は、とことん突き詰める性分なのだろう。その完璧主義が、静謐な演技を生み出してきた。

「(世界選手権まで)順調とは言えず、練習もトロントで落ち着いてできたわけではなくて、調子はそんなによくなくて」

 宮原はそう言って、丁寧に説明を続けた。

「ケガとまでは言えないのですが、右足に靴が当たって痛いところがあって。全日本の前からちょっとこじらせてしまい、全日本が終わってしばらく休んでいたんです。それでデトロイトに行って、少しトレーニングを始めた感じで......。ただ、今は痛いわけではないので、この試合(の結果)には関係ないのかなって思います」

 誠実な女性だけに、言い訳をしているように捉えられたくなかったのだろう。

「コーチには、『もっと自分を信じて』ってすごく言われます。今回も言われました。自分でも意識し、"大丈夫"って思えるようになったはずですが、心のどこかで"ちゃんとできない自分"を見ていて、それが結果に出てしまいました」

 宮原は現実と向き合っていた。しかし、悲観的ではない。

「前を向いて」

 彼女はこれまでも繰り返し言ってきた。五輪という舞台でメダルを争って、全日本では4連覇の偉業を成し遂げ、「ミス・パーフェクト」と愛される。その栄光は輝かしいが、疲労骨折など困難や挫折もあり、前進し続けて得られたものだ。

「ハッピーバースデー」

 外国人記者に英語で祝福を受けた宮原は、同日が23歳の誕生日だった。傷心のはずだが、再起を誓うには悪い日ではない。

「これからやるべきことはたくさんあって。技術の改善もそうですが、メンタル的にもっと自信をもって滑れるように」

 宮原は真摯に言う。辛酸をなめたが、すべては糧に。2022年の北京五輪に向けたシーズン、臥薪嘗胆だ。