「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣「THE ANSWER」は各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE …

「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣

「THE ANSWER」は各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」をスタート。女子ゴルフでツアー通算6勝を挙げた北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」スペシャリストの一人を務める。2006年から10年連続でシード権を保持した実力者。ゴルフ界のトレンドやツアーの評論、自身の経験談まで定期連載で発信する。

 今回は「黄金世代は藍ちゃん世代からどう進化したのか」。宮里藍、横峯さくら、諸見里しのぶ、上田桃子、有村智恵など一時代を築き、今なお現役で戦う選手もいる「藍ちゃん世代」。渋野日向子、畑岡奈紗、原英莉花、勝みなみ、小祝さくらなど、今の女子ツアーを席巻する「黄金世代」はどんな違いがあるのか。宮里さんとペアを組み、2005年女子W杯(南アフリカ)で初代女王になった北田が、ゴルフをあまり知らないライト層のファンにもわかるポイントなどを語ってくれた。

 ◇ ◇ ◇

 今の世代と比較すると、藍ちゃん世代は「宮里藍」という個人が女子プロゴルフ界を引っ張ってきた印象です。藍ちゃんがアマチュアで優勝し、プロになって活躍しました。もちろん他の選手も活躍していましたが、藍ちゃんが一人で背負い、その勢いに他の選手がついていくようなイメージ。藍ちゃんの存在が凄く大きくて、プロにとっても憧れや目標の選手でした。

 黄金世代は「私も負けたくない」という相乗効果で、みんなが切磋琢磨してレベルが上がっている印象があります。ライバル意識ですね。渋野選手が全英女子オープンで優勝したことで、同世代の選手が「私も」と良いライバル関係になり、みんなが活躍できていると思います。

 精神面で今の世代に違いを感じることがあります。自分の目標、やりたいことを口に出して有言実行する選手が多い。一世代前とは考え方、発言が少し違う。私も気持ちの中では勝ちたいと思っていたけど、言葉ではあまり言わなかった。今の子たちは言葉に出す。それを実現させるし、言葉でしっかり発せられるのは凄いと思います。

 あとは「自分が何をしないといけないか」が明確。トレーニング、ケア、練習でも遠回りせず、自分の中で強い意識や考え方があると思いますね。その過程に優勝がある。賞金女王になりたい、海外メジャーを獲りたいとか目標が高いです。トーナメントの優勝も高い目標ですが、それ止まりじゃない。最初の設定の段階で意識の高さが違う。だから、「優勝して当たり前」というものを感じます。藍ちゃん世代にもそういう選手はいましたが、今は全体的に多いと思いますね。

 中でも意識が高く、24時間ずっとゴルフのことを考えているんだろうなと感じるのが、小祝選手ですね。練習の取り組み方などを見ていると、常にゴルフのことを考えてやっている。藍ちゃん世代だったら上田選手。練習でもただ打っているだけじゃない。

 去年の全英女子オープンに向けた練習風景でもそうです。ポットバンカー(小さめで深いバンカー)など日本ではできないような環境を作り、しっかり予習している。やはり頭がいいんだなと思います。がむしゃらに打つのも大事ですが、練習方法一つで違いを作れますから。

 上田選手と小祝選手は辻村明志コーチに指導を受け、一緒に練習しています。若い選手にとって、上田選手と一緒に練習できることは大きい。先輩が国内外でした経験を間近に見られます。どういうことを考えてゴルフに取り組んでいるのか感じるはずです。

黄金世代がこれからぶつかる壁とは

 一方でクラブの性能がよくなっていくことで、10~15年前と比べると選手の技術が落ちているのではないかという見方をする人もいます。飛距離が伸びてアスリートゴルファーが増えていますが、ボールを曲げる技術に関しては、一、二世代前の選手の方が長けていたと思います。今のクラブは、ボールを曲げたくても曲がらないように作られているからです。

 でも、みんなそのクラブで戦うので、今のクラブで育った選手はそれでいいのではないでしょうか。それぞれの持ち球が出ていればいい。昔と今の選手でスイングが違います。今はジュニアでも、よりシンプルになって個性的なスイングは減っていますよね。だから、今のクラブではそれが正解。飛距離は伸びているので、総合的に考えたらレベルは上がっていると思います。

 黄金世代がこれからぶつかる壁は「体の変化」。20代後半から30代にかけて、あまり自分では感じない変化があります。それを補うにはトレーニングが必要。筋肉をつける場所を少しでも間違えてしまうと、体の動きが悪くなる。ゴルフはトレーニングをやればやるほどいいというわけではなく、柔軟性や感性が凄く大事なスポーツです。

 今の選手は幼い頃にゴルフを始めているので、手首の腱鞘炎など勤続疲労を抱えることが多いですよね。打つ時の衝撃は思っている以上。今の選手は練習量も多いですし、若くても腱鞘炎になったり、首や腰を痛めたりします。痛めてしまう年齢が早いと感じますね。

(20代後半で)私も柔軟性がなくなってきていると感じていました。手首も腱鞘炎になり、ブロック注射でごまかしながら試合に出ていました。練習したいけどできない。でも、シーズンは始まるし、トーナメントは続く。シードも守らないといけない。体が本調子じゃないと気分が落ちてしまうことはありました。体の変化に応じていかないといけません。

 藍ちゃんの活躍でツアーが盛り上がり、ファン層が大きく変わりました。以前は男性のゴルフ好きなファンが多くゴルフ場に来てくださっていましたが、家族連れ、女性も増えました。今はお休みもないくらい試合数が増え、賞金額も上がっています。一時代で盛り上がったことで環境が一気によくなり、多くのサポートがつくようになりました。恵まれていることで、よりゴルフに集中できる環境が整っています。

 藍ちゃん世代がゴルフ界に遺したものはたくさんありますが、これからの選手たちに引き継いでいってほしいのは、ゴルフの技術よりも「私たちが活躍できる舞台を大事にすること」です。トーナメントがあるのが当たり前ではありません。開催してくださるスポンサーを大事にするのは、樋口久子さんの会長時代から非常に厳しく言われていました。

 スポンサーの方々は、トーナメント前のプロアマ戦を凄く大事にされています。やはり女子プロと一緒にゴルフを楽しんでもらいたい。これを疎かにしてしまうと、試合もなくなっていくかもしれない。自分たちがどんなに頑張りたくても、試合がないと自分たちが活躍する場がなくなってしまう。

 見てくださる人に楽しんでもらうには、プレーのレベルも上げていかないといけない。女子ツアーを盛り上げていくために、個人が考えていかないと。コロナ禍で大変な中でも試合を開催していただけるので、黄金世代、その下の世代の選手にはそういうことも考えながらやっていってほしいですね。

■北田瑠衣/THE ANSWERスペシャリスト

 1981年12月25日生まれ、福岡市出身。10歳でゴルフを始め、福岡・沖学園高時代にナショナルチーム入り。2002年プロテストで一発合格し、03年にプロデビュー。04年はニチレイカップワールドレディスでツアー初優勝し、年間3勝で賞金ランク3位。05年には宮里藍さんとペアを組んだ第1回女子W杯(南アフリカ)で初代女王に。06年から10年連続でシード権を保持した。男女ツアーで活躍する佐藤賢和キャディーと17年に結婚し、2児のママとして子育てに奮闘中。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)