皮肉なことにA代表が快勝した翌日の試合だったことが、明暗を一層くっきりと分けた。 東京五輪を目指すU-24日本代表が、…
皮肉なことにA代表が快勝した翌日の試合だったことが、明暗を一層くっきりと分けた。
東京五輪を目指すU-24日本代表が、U-24アルゼンチン代表を迎えてテストマッチを行ない、0-1で敗れた。ある程度ボールを保持することはできていたし、一方的に攻められていたわけではない。スコアも含め、拮抗した試合と表現することはできるだろう。
だが、自分たちがやりたいこと、やろうとしていることをどれだけ出せたのかを問われると、はなはだ心許ない試合内容だった。
常に相手が得意とする距離感、間合いのなかで戦わされ、なかなか自分たちのペースに持ち込めない。日本は攻守両面でもっと選手同士の距離を縮め、コンパクトな陣形で戦いたかったはずだが、そうはさせてもらえなかった。DF菅原由勢が振り返る。
「アルゼンチンの得点シーンは、(相手選手)ふたりで完結された」
MFマティアス・バルガスにボールキープからドリブルで運ばれ、最後はFWアドルフォ・ガイチが192cmの長身を生かしたヘディングシュート。選手同士の距離が遠くなり、個々がカバーするエリアが広くなればなるほど、個人能力の差が表出しやすくなってしまうのは仕方がない。
「グダグダして、ボールを持ちながら攻められない」(MF久保建英)
「ボールを持てていた、というより持たされていた」(DF板倉滉)
選手からそうした言葉が聞かれるのも、当然のことだろう。
前日の日韓戦では、A代表がコンパクトな布陣からのプレスで相手の攻撃を封じ、奪ったボールはテンポよく動かして相手のプレスをかいくぐっていただけに、対戦相手のレベルが違うとはいえ、失望感は大きかった。
前日と明暗分かれたという意味で言えば、活躍が期待された川崎フロンターレ勢の出来もまた、そうだった。
A代表では、DF山根視来が代表デビュー戦にして初ゴールを記録。昨季まで川崎に在籍していたMF守田英正も、ボランチとして攻守に有効な働きを見せた。さらには、出場時間こそわずかだったが、MF脇坂泰斗も代表デビューを果たしている。
だが、一方のU-24代表はというと、川崎自慢の攻撃力を司る左サイドのコンビが、残念ながら不発に終わったと言わざるをえない。
この試合、4-2-3-1のフォーメーションを採った日本は、左サイドバックにMF旗手怜央、左サイドハーフにはMF三笘薫が起用された。いわば、川崎の左サイドをそのまま"移植"した形である。
「怜央と三笘は、クラブでもいい関係でプレーしている。そこのコンビネーションは期待していた」
チームを率いる横内昭展監督は、起用の意図をそう語る。
旗手はもともと、川崎でも昨季はそうだったが、前線や中盤のより攻撃的なポジションを本職とする選手である。このチームでも従来はそうしたポジションで起用されてきたが、「クラブで輝いているポジションで、攻撃のよさを出してもらおう」(横内監督)という狙いでのDF起用となった。
実際、今季の旗手は川崎の左サイドバックとして出色の働きを見せており、それをそのままこのチームに持ち込みたいと考えるのも無理はない。
日頃からやり慣れている三笘とセットでの起用も、その文脈に沿って言えば、当然の判断だ。何より三笘自身が昨季以来、スーパープレーを見せ続けているのだから、彼の起用をためらう理由がない。
ところが、日本の左サイドは期待したほどに機能しなかった。むしろ、三笘と交代で入ったMF相馬勇紀が果敢にドリブル突破を試み、何度かチャンスを作り出したことは、さらに"暗"を際立たせた。

厳しい状況でのプレーを強いられ、不発に終わった三笘薫
とはいえ、この1試合で川崎の左サイドコンビ移植を失敗と結論づけるのは、少々もったいないように思う。
先に記したように、この試合の日本はそもそもチームとしての機能性に欠けていた。つまりは、三笘や旗手が川崎と同様にプレーするには、非常に厳しい条件だったということだ。
三笘が左サイドでボールを持ったときには、すでに1対2の数的不利の状況が出来上がっていることが多く、ひとりをかわしても、すぐにふたり目が襲いかかってきた。さすがの三笘も、これでは単独突破からクロス、あるいはシュートまで持ち込むのは難しい。
しかし、裏を返せば、ひとり目は確実にかわせていたということでもある。ドリブルのスピード自体はアルゼンチン相手でも十分に通用していたし、もう少しいい状況でボールを持たせることができれば、どうなっていたか。そんな期待を抱かせるプレーは見せていた。
旗手にしても中盤の選手さながら、再三内に入ってパスをつなぎ、攻撃に厚みを生み出す。そうした"らしさ"の片鱗はうかがわせていた。そもそもそれを期待されて起用されているのだから、チームがうまくいっていないからといって、低い位置でおとなしくしていたのでは意味がない。
大胆に立ち位置を動かすことが、結果的にチームを空回りさせる要因になった面がないわけではないが、彼がそうしたポジションを取ることで、失ったボールに対してすぐに寄せる守備への切り替えの速さにつながってもいた。
この結果をもって、見限ってしまうのはもったいない。そう感じる理由である。
川崎の攻撃力がJリーグ最強であることに異論を挟む余地はないだろう。だとすれば、それを生かさない手はない。
A代表に比べ、U-24代表では海外組が絶対的な存在となりえていない以上、国内組が有する武器を最大限生かす手立ては考える必要がある。