坂本花織にとって2度目の出場となった今季の世界選手権だが、前回大会(総合5位)同様、不完全燃焼に終わった。2シーズン継続して代名詞のプログラムとなったフリー『マトリックス』で集大成の演技を見せ、初のメダル獲得を目指したが、合計207.80…

 坂本花織にとって2度目の出場となった今季の世界選手権だが、前回大会(総合5位)同様、不完全燃焼に終わった。2シーズン継続して代名詞のプログラムとなったフリー『マトリックス』で集大成の演技を見せ、初のメダル獲得を目指したが、合計207.80点の総合6位にとどまった。それでも日本勢トップの成績を残し、来年の北京冬季五輪の国・地域別の出場枠取りには貢献、日本は五輪出場枠で最大の3枠を確保することができた。



世界選手権でショートプログラム6位、フリー5位、総合6位となった坂本花織

 24日のショートプログラム(SP)では『バッハ・ア・ラ・ジャズ』の曲に乗って、最初のダブルアクセル(2回転半ジャンプ)をスピードに乗って鮮やかに決めると、今季からSPに組み込んだ3回転ルッツもしっかり跳んだ。後半の得点源となるフリップ+トーループの連続3回転ジャンプでは着氷で少し乱れたものの、いつもの坂本らしい演技だった。

 まずまずの演技内容だったが、70.38点と自己ベストに6.57点も及ばず、得点は伸び悩んだ。その原因は2つあった。

 ひとつは3回転ルッツでエッジエラー(不正確なエッジ)と判定され、基礎点が80パーセントの4.72点しかつかず、GOE(出来栄え点)で減点されたこと。そしてもうひとつは、坂本の武器であるフリップ+トーループの連続3回転ジャンプで期待したほどの点数を得られなかったことだ。自身最高難度のジャンプ構成を組み、連続ジャンプをプログラム後半に組み込む挑戦的な構成にしたものの、勝負のカギを握るGOEで思ったほどの加点をもらえなかった。

 6位となったSP後のインタビューで、坂本は世界のジャッジの厳しい評価をしっかりと受け止めた。

「フリップ+トーループ(の着氷)で耐えた部分はあったんですけど、自分なりに思い切ってはできたと思うので、緊張しながらでもここまでできたのはよかったです。でも、思っていた得点よりもだいぶ低かったので、これが現実だと受け止めて、フリーにつなげたいと思います」

 迎えたフリーで挽回を期したが、ここでも得点源の連続ジャンプでミスが出て、3回転ルッツにはSPと同じくエッジエラーがついた。上位争いに浮上するためには、プログラム前半のこの2つの重要なジャンプをしっかりと決めておくべきだった。フリーの演技直後、天を仰いで悔しそうな表情を見せた坂本はこう振り返った。

「最初の3回転フリップ+3回転トーループは、フリップの後にオーバーターンを入れてしまったんですけど、すぐに切り替えて跳ぶことができたし、そのあと、後半に向けては自分らしく練習どおりのジャンプが跳べていたので満足しています。ただ、(低かった)点数は仕方ないと思っています」

 フリーの得点は技術点が69.72点と伸びず、合計137.42点にとどまった。フリーの自己ベストは146.70点。今季はNHK杯で153.91点を出し、全日本選手権でも150.31点をマークして、2戦とも非公認ながら150点台を出していた。それだけに、140点にも及ばなかった今回の得点は不甲斐なかったはずだ。

「(今季の試合で)いままでは普通であれば150点とか出ていて、思っていた点数よりはやはり15点くらい今日(のフリー)は低かったので、いつもそういうわけ(150点台を出すこと)にはいかないんだなと思って......。

 正直、すごい(気持ちが)もやもやしているんですけど、でも、こういう経験も必要なので、今後は得点が出ないこともあるんだという、今回の経験をしっかりと覚えて、今後の練習や試合に臨みたいなと思っています」

 エッジエラーがつくかもしれない3回転ルッツをあえてプログラムに組み込み、得点アップを図った今季だったが、コロナ禍での初めての国際大会となる世界選手権で、その目標を達成できなかった。逆に、現在の自身が置かれている序列がどの位置なのかをまざまざと見せつけられた結果となった。

「ショートとフリーで3回転ルッツにエッジエラーがついてしまい、減点がどれだけ得点に響くのかを痛感しました。NHK杯ではアテンションマーク(不明瞭なエッジとの判定)がついたと思うんですけど、全日本選手権では何もつかなかった。

 いままではルッツはフリーにしか入れていなくて、フリーではほかの要素が結構大きくて、3回転フリップ+3回転トーループやダブルアクセル+3回転トーループが得点源になっているので、正直、3回転ルッツにエッジエラーがついて減点されても気にしなかったんです。今季は久しぶりに3回転ルッツをショートに入れてみて、3つしかないジャンプの中でひとつでもエッジエラーがあると、得点がこれだけ下がってしまうんだなと思いました。

 今回、いい経験になった試合だったので、やっぱり今後のショートをどうしていくか、もう一回考え直さないといけないし、そもそもルッツをしっかり跳べばいい話なので、日本に帰って、あらためてルッツジャンプをしっかり見直して、やり直していきたいです」

 世界のトップ争いに加わるためには、失敗から学んで成功につなげる努力を怠らないことだろう。小さなミスが大きなほころびにならないように、来季に向けて坂本が取り組むべきことは、正確なエッジで跳ぶ練習を積んで、まずはGOE加点がつくようなジャンプをさらに磨くことだろう。それがしっかりできれば、五輪でのメダル争いに加われる道が開けるはずだ。