ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 春のGIシリーズが本格的にスタートします。まずは、春のスプリント王を…
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大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
春のGIシリーズが本格的にスタートします。まずは、春のスプリント王を決めるGI高松宮記念(3月28日/中京・芝1200m)です。
今年は人気が予想される有力馬の中にも「今回が初めてのスプリント戦」という馬が多い印象があります。実際、レシステンシア(牝4歳)、インディチャンプ(牡6歳)、ダノンファンタジー(牝5歳)、マルターズディオサ(牝4歳)、サウンドキアラ(牝6歳)、ミッキーブリランテ(牡5歳)と、3頭のマイルGI馬、2頭のマイルGI2着馬を含む6頭もの馬が、今回の高松宮記念で初めてスプリント戦に挑みます。
少し前までは、マイル以上の距離を走っていた馬がスプリント路線に転向したり、スプリント路線で活躍した馬が古馬の円熟期にマイルや中距離路線に矛先を向けたり、ということはそれほど多くなかったように思います。スプリント路線はそれだけ専門的なイメージが強く、マイル路線から転向してきた昨年のグランアレグリアも、珍しい部類だったと言えるかもしれません。
もちろん過去にも、中距離からスプリントへ、スプリントからマイルへと路線を変えて結果を出した馬、例えば高松宮記念で初のGI制覇を果たしたキングヘイローや、スプリント路線で頂点を極めたあと、マイルGI初挑戦となる安田記念(東京・芝1600m)で戴冠を遂げたロードカナロアなど、パッと思い浮かぶような存在もいます。
しかし今年の高松宮記念のように、マイル路線からGI級の馬が同時に何頭もスプリント路線に向かってくるというのは、かなり稀なことだと思いますし、新鮮な感じがします。
先にも触れたように、これまでのスプリント路線というのはある種、専門性が強く、他とは隔絶されたスピード自慢の馬たちによる"独立した路線"という印象が、関係者や競馬ファンの間にもあったように思います。でも今や、そうした意識は変わりつつあるのかもしれませんね。
そして今回、私がまず最初に期待しているのも、初のスプリント戦に挑む6頭のうちの1頭、レシステンシアです。
初スプリントとなる6頭の中でも、6ハロンの電撃戦に対応できるスピードがあるのは、この馬が断然。むしろ、レシステンシアにとって「本当にベストの距離はこれだった!」という可能性さえあると見ています。
ハイペースで逃げて圧勝したGI阪神ジュベナイルフィリーズ(阪神・芝1600m)や、GI馬を相手にレコードタイムで押し切った前走のGIII阪急杯(2月28日/阪神・芝1400m)のように、とにかく時計勝負になると強さを発揮する馬。マイル戦は能力の高さでこなしていただけで、スプリント戦で小細工なしのスピード勝負をしてこそ、真の強さが発揮されるかもしれません。
昨年の勝ち馬で、速い流れで引っ張ってくれそうなモズスーパーフレア(牝6歳)がいるのも、レシステンシアにとっては好材料です。逃げるモズスーパーフレアに続く2、3番手に構えて、かわしたい時にかわして抜け出す、といった競馬ができるのではないでしょうか。レシステンシアならば、それが可能だと思います。
鞍上は、当初手綱をとる予定だった武豊騎手が負傷。急きょ浜中俊騎手に変更となりましたが、小細工のいらない馬ですから、テン乗りでも心配ないと見ています。余計なことは考えず、レシステンシアのスピードを生かしてあげる競馬をすれば、自ずと結果はついてくるのではないでしょうか。
初のスプリント組では、インディチャンプも可能性がある1頭だと見込んでいます。
インディチャンプはレシステンシアと違って、根っからのスピードタイプというわけではありません。おかげで過去2戦の1400m戦、前々走のGII阪神C(3着。12月26日/阪神・芝1400m)や、前走の阪急杯(4着)でも、後方に構えて差し届かずという結果に終わっています。1200m戦、しかもGIとなれば、さらに流れに乗るのに苦労をさせられるかもしれません。
それでも、直線に向いてからの脚は確実。昨年2着のグランアレグリアのように、最後に前が止まったところをグイグイと伸びて追い詰める、といった形になるのが理想です。
インディチャンプはモズスーパーフレアと同じ音無秀孝厩舎の所属馬。モズスーパーフレアはハイペースで逃げて他馬に脚を使わせて押し切る、というタイプの馬ですから、モズスーパーフレアが自分の競馬に徹すれば、そのままインディチャンプにも向いた流れになるはずです。
昨年はグランアレグリアに"マイル王"の座まで奪われてしまったインディチャンプ。今年はグランアレグリアがいなくなって、スプリント路線で頂点を狙うことになるとは......何とも面白い構図ですね。やはりそれだけ、各路線の垣根が低くなっているのでしょう。
さて、今年の高松宮記念では初スプリントの馬たちを主役候補に挙げてきましたが、「ヒモ穴馬」については逆の視点で考えてみたいと思います。つまり、この路線でしっかりと実績を残してきた馬。なおかつ、今回いい走りが見込めそうな馬をピックアップしたいと思っています。

高松宮記念での一発が期待されるライトオンキュー
期待は、ライトオンキュー(牡6歳)です。
実績的には、重賞1勝馬。2109年にGIII京阪杯(京都・芝1200m)を勝っているだけですが、個人的には以前からその能力の高さを評価しています。ただ、時計勝負になると限界がありそうなので、今の荒れた中京の馬場や週末の雨予報を味方につけたいところです。
また、一発狙いという意味では、鞍上が横山典弘騎手に乗り替わる、という点も見逃せません。今回は主戦を務めていた古川吉洋騎手が関西所属ながら中山のマーチSに乗りに行って、反対に関東所属の横山典騎手が高松宮記念参戦のために中京へ。しかも、横山典騎手はマーチSにお手馬のダノンファストがいるにもかかわらず、3年ぶり2度目の騎乗となるライトオンキューの手綱をとることを選択しました。
これは、ライトオンキューを管理する昆貢厩舎としても「強い相手にひと泡吹かせるなら」という"勝負の采配"のように感じます。今までのライトオンキューは正攻法で勝負するタイプでしたが、この乗り替わりで、よくも悪くも極端な戦法にシフトチェンジする可能性があります。
うまくいかなければ大敗を喫してしまうかもしれませんが、ハマれば「ヒモ穴」どころか、大金星もあり得ます。ライトオンキューは今回、そんな期待を抱かせる1頭です。