『特集:球春到来! センバツ開幕』 3月19日、2年ぶりとなるセンバツ大会が開幕した。スポルティーバでは注目選手や話題の…

『特集:球春到来! センバツ開幕』

 3月19日、2年ぶりとなるセンバツ大会が開幕した。スポルティーバでは注目選手や話題のチームをはじめ、紫紺の優勝旗をかけた32校による甲子園での熱戦をリポート。スポルティーバ独自の視点で球児たちの活躍をお伝えする。

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 この選手は将来、とんでもないスターになるかもしれない──。

 そんな可能性を感じた選手が、まるでこちらの期待に呼応するかのようにスケールの大きな発言をしてくれると、じつにうれしくなる。

 昨秋、東海大菅生(東京)の1年生右腕・鈴木泰成(たいせい)の素材に一目惚れした。185センチ72キロのスラリとした長身に、しなやかな腕の振り。なによりもリリース感覚がすばらしく、ボールを弾く「パチン」という音が聞こえてきそうだった。



聖カタリナ戦で先発し好投した東海大菅生の鈴木泰成

 鈴木に「将来どんな成功を収めるイメージを持っていますか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「高校3年生で155キロを投げて、高卒にしろ、大卒にしろ、プロになって、日本を代表するピッチャーになりたいです」

 そうは言っても、その時点では最速139キロととりたてて剛速球を投げていたわけではない。おまけに話を聞いた当日、秋季東京都大会準決勝(関東一戦)で鈴木は2回を投げ、4四死球、2失点と乱調だった。

 現実離れしていると感じたのか、ほかの記者が「なぜ150キロではなく、155キロなの?」と尋ねた。すると鈴木は臆することなくこう答えた。

「150キロならバットに当たりますけど、155キロなら世界が変わると思うんです。真っすぐで空振りを取れるピッチャーになりたいんです」

 インタビュー中、ふと鈴木の手のひらに目が向き、ぎょっとしてしまった。指が異常と思えるほどに長いのだ。長さは計ったことがないそうだが、並の成人男性より関節ひとつ近く長かった。

 こんなにも長い指を鈴木は自在に使いこなしているのだ。

「リリース感覚は昔からいいと言われます。その日その日に握りをちょっとずつ変えて、投げやすい握りを見つけるようにしています」

 この投手はいつか化ける。そう確信して迎えた今春、鈴木は早くも檜舞台で脚光を浴びた。

 春のセンバツ初戦・聖カタリナ学園(愛媛)戦で鈴木は先発投手に指名された。エースナンバーをつけた変則左腕・本田峻也が左肩の違和感を訴え、先発を回避したためだ。

 前日の夕方、ミーティング後に若林弘泰監督から「いくぞ」と声をかけられたと鈴木は明かす。

「5回でも6回でもいいから、1イニングずつ全力で投げろと言われました。高校に入ってから初めての先発だったので、当日より昨日のほうが緊張しました」

 鈴木は立ち上がりから快調だった。先頭の堀越璃雄を外角に決まる137キロのストレートで見逃し三振に抑えると、二死後には3番・高岡唯から130キロのフォークで空振り三振を奪った。

 冬場の鍛錬を経て、鈴木は「体力と制球力がつきました」と胸を張る。

「ボールカウントが増えても、自信を持って投げられるようになりました」

 ストレート、カーブ、スライダー、フォークと多少の荒れ球はあるにせよ、球種を問わずストライクが取れた。5回まで被安打2、奪三振3、与四球0、失点0と文句なしの内容で折り返した。

 打順が3巡目になる6回には、一死から安打と四球を許し、2番手の左腕・松永大輝とスイッチ。その後は継投で聖カタリナ学園の猛追を振り切り、東海大菅生が4対3と辛勝した。

 試合後のメディア対応で自分の投球への採点を求められた鈴木は、「75点」と答えている。球速は最速139キロにとどまったとはいえ、新2年生の甲子園デビューと考えれば上々だろう。

 元中日の投手であり、これまで数々の好投手を育成してきた若林監督に鈴木の評価を聞きたくて仕方がなかった。聖カタリナ学園戦のあとに「鈴木泰成投手の素質についてどう感じていますか?」と尋ねると、若林監督はこう答えた。

「非常にポテンシャルが高くて、将来は本当に日本を代表するピッチャーになってくれるかなと感じるくらいです」

 鈴木本人と示し合わせたように「日本を代表するピッチャー」というフレーズが出た。若林監督が日頃から言い聞かせているのか、偶然の一致なのか。

 ただし、若林監督は厳しい指導者として知られ、リップサービスをするタイプには思えない。それだけに、その言葉には重みがあった。若林監督はさらに続けた。

「とはいえ一足飛びにはいかないので、3年夏までに大エースになってくれたらと考えています。今日は緊張もあってか本来の出来ではなかったですが、この大舞台でこれだけ投げられればたいしたものですよ」

 投手として鈴木がとくに優れている点を聞くと、若林監督は技術以外の部分を挙げている。

「生活でもマウンドでも度胸があるし、きっちりしています。どんな状況でも落ち着いていて、クレバー。将来を見据えてきっちり取り組んでいるところだと思います」

 茨城県出身の鈴木が東京の東海大菅生に進学した理由は、小・中学と同じチームに所属した大先輩・高橋優貴(巨人)の存在がある。

「優貴さんに『ピッチャーなら菅生がいいよ』と言われていたんです。中学(友部シニア)は厳しい環境でやってきたので、高校も厳しいチームがいいなと。中学2年くらいから、自分は菅生一択でした」

 本人や若林監督の言葉を聞けば聞くほど期待はふくらむが、現時点ではあくまでも「原石」に過ぎない。まぶしい光を放つための課題は多く残されている。

 フォームもその一つ。左足をインステップするクセがあり、本人は「徐々に真っすぐ踏み出せるように直して、きれいなストレートを投げたい」と意気込む。

 若林監督が「大エース」誕生のリミットとした1年4カ月後、鈴木泰成はどのような姿を見せてくれるのだろうか。焦らず、急かさず、見守る時間はたっぷりとある。