山里亮太がメインMCを務めるテレビ朝日「ReAL eSports News」 eスポーツの盛り上がりを象徴する一つが、テレビ番組の存在だ。各局がeスポーツ番組を立ち上げ、右肩上がりの成長を見せている。 しかし一つ疑問が残る。それがeスポーツ…


山里亮太がメインMCを務めるテレビ朝日

「ReAL eSports News」

 eスポーツの盛り上がりを象徴する一つが、テレビ番組の存在だ。各局がeスポーツ番組を立ち上げ、右肩上がりの成長を見せている。

 しかし一つ疑問が残る。それがeスポーツの視聴方法だ。テレビ朝日が参画している「RAGE(レイジ)」、テレビ東京が参画している「STAGE:0(ステージゼロ)」をはじめ、ほとんどのeスポーツ大会はオンラインで観戦できる。

 これまではスポーツの発展をテレビの存在なしで語ることはできなかった。球場やスタジアムで見ることができないファンはテレビを通して試合を見ることによって、その興奮や感動を得ることができた。しかしeスポーツはテレビを介さずともオンラインで視聴でき、しかもオンラインで大会に参加できてしまう。

 総務省の調査によれば、2019年の平日1日のテレビ平均視聴時間は、10代が69分、30代が124.2分、50代が201.4分となっていて、若者のテレビ離れは確実に広がっている。逆にネット利用時間は10代が167.9分、30代が154.1分、50代が114分と、若者の利用が拡大している。テレビの視聴者が中高年になりつつある中、eスポーツにおいてテレビはどのような役割を担っていけばいいのだろうか。各局のeスポーツ番組のプロデューサーに率直に聞いてみた。

「新しい文化を作る過程で、テレビにはまだ可能性はあるのかなと感じています。ネットの場合は、自分が興味があって見たいものを見る感じだと思いますが、興味があるものに気づかされるのがテレビの役割だと思っています。にわかでいいのでファンをいかに増やしていくのかが、文化が大きく根付くカギになってくるかなと思います」(テレビ朝日『ReAL eSports News』高橋育麻プロデューサー)

「テレビ東京では卓球を放送しているんですが、かつてはマイナースポーツと言われたものが、盛り上がりを見せ始め、今ではTリーグができて、大きな大会では卓球の決勝戦を各局が奪い合うところまで来ています。その観点で言うと、競技のルールを含めた見方を解説し、多くの視聴者に競技の魅力を伝えるのはテレビの果たす役割だし、すごく大事なことだと思います。

 どんなスポーツでも自分でプレーをすれば、人のプレーを見ていても面白さがわかりますよね。でも野球やサッカー、テニスなどをプレーしたことがない人でも、テレビを見ることによってルールがわかってくるし、面白さもわかってきます。それと同じで、eスポーツもやったことがない人に面白さをわかってもらうようにする。それがeスポーツを文化にするために大切なことだと考えています」(テレビ東京『有吉ぃぃeeeee!』平山大吾プロデューサー)

「eスポーツ大会の試合の模様をリアルタイムで観戦することに強いネット配信と比べて、テレビ番組の良さは、大会に参加した選手の思いや大会に向けた必死の練習を丁寧に取材し、人の心を揺さぶるようなストーリー性のあるコンテンツに編集し、それをeスポーツファン層以外にも届けられることです。我々がプロチームや大会を運営しながらテレビ番組も持っていることの最大の強みだと思っています」(日本テレビ『eGG』小林大祐プロデューサー)

 既存のスポーツの発展の流れと同じように、eスポーツでもファンのすそ野を広げていく。それがeスポーツにおけるテレビの役割の一つということで一致している。テレビ離れが進んでいる若者たちの視聴拡大を狙いつつも、既存の視聴者に向けてしっかりと丁寧に伝えていくことでリピーターも増やしていく。番組作りのノウハウがあり、豊富なネットワークを持つテレビ局であれば、難しいことではないはずだ。

 では今後テレビ局としてどのようなビジョンを持って、eスポーツ番組や関連した活動を行なおうとしているのだろうか。日本テレビの小林氏はこう語る。

「今は番組が主催となって『ロケットリーグ』と『VALORANT(ヴァロラント)』の大会を始めていますが、今後は大会の規模を大きくしながら開催回数も増やし、番組で流せるものを増やすことで、番組の放送頻度を増やさざるを得ない状態まで持っていって、同時に放送の時間帯をよくしたいです。チーム『AXIZ(アクシズ)』のほうは選手の待遇の向上や練習環境の改善を続けながら、世界レベルで戦っていけるチームに育てていきます。まだ夢物語なんですが、いつかは自前のアリーナを持ってAXIZファンに目の前で応援されながら戦いたいですね」

 番組立ち上げ時から関わっているテレビ朝日の宇喜多宏美氏は、番組の発展をこう期待する。

「理想を言えば、『ReAL eSports News』をテレビの中では一番価値のあると言われているゴールデン帯を背負えるコンテンツにしたい想いもありますし、たくさんいるeスポーツ選手が出たいと思ってくれるような番組にしたいとも思います。そうなることで、いろんな人に認知され、愛されるような番組になると思います」

 テレビ東京の平山氏はYouTubeでの盛り上がりをステップに、さらに違うベクトルも模索している。

「地方自治体がeスポーツの大会を開いたり、eスポーツで町おこしをしたりしていますが、そんなことにも関わっていきたいですね。関わっているものが多ければ多いほど、いろんな方向に浸透していくし、影響が出てくると思っています。たとえば『有吉ぃぃeeeee!』に出演している田中(卓志)さんとみちょぱさんが、ステージゼロのアンバサダーになったのがいい例ですね」

 各局ともeスポーツの未来について大きな可能性を秘めていると感じており、その期待値は既存のスポーツの成長速度とは次元が違うものだとみているようだ。

「(eスポーツは)どこでまたブレイクするのか全然わからないですね。世界的なゲームのヒットタイトルが出て、みんなが面白いとか、かっこいいと思いながら見てもらえるものが誕生すれば、一気にマーケットが花開く可能性があると思います。サッカーは160年以上前にイングランドで最初に協会ができて、今では世界最大のスポーツとなりました。僕らはいつかeスポーツがそういう規模になることを信じながらやっています」(日本テレビ 小林氏)

「世界でいうと、賞金総額がとてつもなく高い金額だったり、アメフトの試合よりも視聴者が多かったりと、サッカーのワールドカップを超える人気が出てもおかしくないと思っています。それが10年後なのか20年後なのかわかりませんが、それぐらいの人気が日本に根付いたら、この番組も役に立ったのかなと思います」(テレビ朝日 高橋氏)

「日本だけではなくて、世界規模で市場が拡大していくことは間違いないです。世界の市場が大きくなれば、日本もそれに引っ張られていくはずです。日本でもNTTドコモがリーグ(PUBGモバイルとレインボーシックスシージ)を立ち上げたり、ステージゼロが文部科学省の後援を得られたりと、世の中の認識が変わりつつあるのはすごく肌で感じています。

 ステージゼロのような高校生の大会ができれば、中学生や大学生のリーグをやろうという話になるでしょうし、ゲーム開発者を目指す子供たち向けのプログラミング大会もできていくかもしれません。eスポーツが文化として確立することによって、その周辺でいろんなことが動き出すと思っています」(テレビ東京 平山氏)

 テレビが娯楽の中心だった時代はもう過ぎているかもしれないが、それでも影響力は絶大だ。ただそれが今後も続いていくのだろうか――。若者のテレビ離れが叫ばれ、ことeスポーツにおいてはテレビが存在しなくても、満足できるコンテンツとして成長してきている。

 それでもテレビ局が番組を作り、eスポーツに関わっているのは、若者へのリーチはもちろん、eスポーツを幅広い世代に届けることでファンのすそ野を広げ、それによって他のメディアとの相乗効果で存在感を発揮するためだろう。テレビの視聴者数を考えるに、テレビがeスポーツに関わることで、それを拡大させる触媒の役割を果たし、競技としての普及スピードは加速度的に上がっていくはずだ。eスポーツは今まさに発展の渦中にあるのかもしれない。

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