『特集:We Love Baseball 2021』 3月26日、いよいよプロ野球が開幕する。8年ぶりに日本球界復帰を果…

『特集:We Love Baseball 2021』

 3月26日、いよいよプロ野球が開幕する。8年ぶりに日本球界復帰を果たした田中将大を筆頭に、捲土重来を期すベテラン、躍動するルーキーなど、見どころが満載。スポルティーバでは2021年シーズンがより楽しくなる記事を随時配信。野球の面白さをあますところなくお伝えする。

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 今シーズン、ロッテを率いて4年目を迎える井口資仁監督。昨年はリーグ2位でフィニッシュし、クライマックスシリーズ(CS)を経験。ツワモノ揃いのパ・リーグでいかにして優勝を勝ち取るのか──2021年シーズンの展望と、理想とするチームづくりについて指揮官に聞いた。




監督4年目のロッテ・井口資仁監督

── 監督として4年目のシーズンが始まります。開幕前の手応えから聞かせてください。

「オープン戦の勝ち負けはさておき(笑)、全体的に順調にきていると思います。石川(歩)がケガで出遅れているくらいで、それ以外の選手はいい仕上がりかなと」

── 美馬学選手、二木康太選手、小島和哉選手、岩下大輝選手など、特に投手陣は充実している印象があります。

「澤村(拓一)が抜けましたが、そのぶん若い投手も出てきました。先発ではドラフト1位の鈴木昭汰と育成2年目の本前郁也がローテーション入りをうかがわせる内容を見せてくれましたし、投手陣の底上げはできている手応えがありますね」

── 昨シーズン9勝の二木選手を、今年は初の開幕投手に指名しました。

「昨年は石川と美馬がいる中で、3連戦のカードの頭を彼らに任せていたのですが、その間、二木にも『カード頭でいけるように準備を』とずっと伝えていました。昨年結果を出したことで本人の意識も変わりましたし、今年はカード頭でいこうか、と。相手もエース格が投げるので難しい試合になると思いますが、昨年以上の数字を目指してほしいですね」

── 野手陣ではキャプテン制を復活させて、中村奨吾選手にその役を与えました。

「キャンプでも若い選手を引っ張りながら、自分自身に鞭を打っている姿が見られました。ベンチでいつも率先して声を出していますし、もちろん結果にもこだわってくれるでしょう。より一層チームを牽引していってほしいですね」

── 2018年に一度廃止したキャプテン制をこのタイミングで復活させた。どのような想いがあったのでしょうか?

「監督に就任した当初(2017年)のロッテは、なかなか勝てないチームでした。それが監督4年目を控えた今、チームとして、しっかり形になってきた手応えがあります。今年のチームのスローガンは『この1点を、つかみ取る。』。キャプテン制を復活させたのは、1点を争うような試合で最後のもうひと踏ん張りというところで、誰か引っ張ってくれる選手が必要だと感じていたからです」

── 井口監督の新著『もう下克上とは言わせない ~勝利へ導くチーム改革~』の中で、「黄金時代」という言葉がたびたび出てきます。

「監督をやるからには、常に優勝争いができるチームを目指したい。その目標に向けてチームづくりを進めてきました。若手をどんどん使い、起用された選手たちも期待に応えてくれています。若手の台頭に押されて、中堅、ベテランの中で、(開幕の)登録選手から漏れてしまう選手も出てくるでしょう。そんな監督として"うれしい"悩みも、過去3年間ではなかった経験。改めてチーム層が厚くなったなと感じているところではあります」

── 2010年の日本一以降、ポストシーズンではソフトバンクに1試合も勝てていません。それも踏まえての井口監督のチームづくりかなと感じているのですが。

「ソフトバンクは戦力が充実していて、非常に選手層が厚い。昨年のウチは、レギュラーシーズンで一度は追いつきながら、結果的に離されてしまった。それはやっぱり、チーム力、経験値の差かなと感じていますが、ウチの選手達に『ソフトバンクと同じことをやれ』と言っても(現時点では)無理なので......。

 ただ、一昨年はCSの進出争いで負けて4位という結果でしたけど、昨年は優勝争いとCS争いの両方を経験して、最後は踏ん張ってCSにたどり着けました。その分、選手の経験値もしっかり積み重なっていると思いますし、大きなプレッシャーの中でプレーできたことは、選手の成長に直結すると考えています。そういう意味で、僕自身、今年は楽しみなシーズンではありますが、今のチームに2010年の日本一を経験している選手がほとんどいないのも事実。選手に変なプレッシャーを与えないよう、伸び伸びとやらせたいとも思っています」

── 昨年、一昨年と、ソフトバンクは日本シリーズでも巨人を圧倒して、日本一になっています。黄金時代を築くチームはいつの時代も‶短期決戦で負けないチーム″だったように感じるのですが、井口監督はどのように感じていますか?

「日替わりでヒーローが出てきたり、大舞台でいつも以上の力を発揮する選手がいたり、日本一になるチームには、必ずそうした選手が出てきますよね。そういう選手を育てていきたいとは思っています。ただ、その前に意識すべきなのは、つまらないミスをなくすとか、相手にスキを見せないことですね。これはシーズンの戦いにも言えますが、当たり前のことがしっかりとできれば、大舞台でも動じずに勝てるチームになるんじゃないかと。その点、昨年は一昨年に比べて失策数が減りましたし、今季も開幕に向けて守備からしっかり鍛えてきました。あとは......打線が機能すれば勝てるんじゃないですかね(笑)」

── 昨年、失策数53とリーグ最少だった守備からリズムをつくっていくと。それが井口監督が目指す「1点」にこだわる野球につながるわけですね。

「打撃に関しては、"チームで戦っている意識"を大事にして、凡打であっても、1つのアウトでランナーを一歩先に進める。そんな野球を、選手とスタッフが一丸となって目指していきたいですね。ソフトバンクはかなり手強いですが、今年も勝たれては面白くないので(笑)。ロッテの『勝つ野球』を見せたいと思っています」

── 井口監督が監督に就任する前のマリーンズは、「チームで1点をつかみ取る」というメンタリティーを持った選手が少なかったと感じていますか?

「全員が同じ方向に向いていなかったのかなと、現役時代は感じていました」

── 全員が同じ方向を向いていなかった?

「はい。CSに進出できればいい。いわゆる『下克上』でいいと思っている選手も、何人か目につきましたし、僕はそういうのは『戦っている以上ありえない』と思っていました。そのとき本人には言いましたけど、やっぱり『優勝』をしないと、なんの価値もないので。そこを目指す集団になっていけるように、選手には徹底して言っていますし、なんとか戦う集団に変えたいと思いながら監督としてやってきました。今は選手も同じ意識を持っているんじゃないかと思います」

── 次に若手についてですが、安田尚憲選手がキャンプ、オープン戦と苦しんでいるように見受けられます。

「今はいろんなことを試しながらやっている段階です。結果にはつながっていないですが、バッティングの形としては非常にいいものを見せてくれています。そのあたりが試合につながっていなかったり、対相手投手という部分でタイミングの取り方で迷っている部分があったりしますが、根本的な打撃の部分に関しては悪くないと見ています」

── 安田選手の打撃フォームがコロコロ変わっている点を懐疑的に見る意見もあります。

「(選手たちは)毎年、キャリアハイを目指していく中でフォームを変えるというのは多々あることなんですけど、安田に関してはシーズン中もコロコロ変わるので、色々試したいタイプなのかなと思います。それが良いのか、悪いのかはわかりませんが、動画などを見ながら『この人はこうだから少しやってみよう』と、探求心のある選手であることは間違いない。せっかく本人がキャンプからやってきたことなので、それをシーズンで活かしてもらいたいと思っています」

── そんな安田選手に課している具体的な数字はありますか?

「ずばり、『3割20本』ですね。まだ遠い数字であることも事実ですが(笑)、少しでも近づいてくれればと」

── 一方、安田選手より1学年下の山口航輝選手や藤原恭大選手が、昨年まで主にファームで経験を積んでいた選手とは思えないほど堂々と戦っている印象をうけます。

「山口に関しては、今、外野の競争が激しいので、昨秋からファーストにもトライさせています。彼の持ち味は、とにかく思い切りのよさ。ウチにいないタイプのバッターだと感じています。相手から見ても、あれだけフルスイングしてくる選手は脅威に感じるでしょうし。『安田と4番はどっちかな?』と考えながら、競わせている段階です。現時点では山口の方がしっかり自分のスイングができていますね。それだけ山口の成長は著しい。

 一方、藤原は今、安田と同様にタイミングの取り方を試行錯誤している段階かなと。彼は2月の練習試合から1ヵ月間、ずっと試合に出っぱなしだったので、開幕までに疲労をとりながらいい調整をしてもらって、開幕戦に合わせてほしいと思っています」

── 今年から今岡真訪さんを二軍監督から一軍ヘッドコーチに配置転換しました。先に挙げた3人の若手(安田、山口、藤原)を入団から見てきた今岡さんが、一軍でも継続して指導する効果を期待しての転換ですか?

「若い選手のことをよく分かっているというのもありますし、改めてこれまでの経験や、打撃の部分を教えてもらえたらと思っています。(今岡ヘッドは現役時代)間合いの取り方がすごく上手な選手だったので、若い選手たちは、そういうところをどんどん吸収してほしいなと」

── 次に、若手の中では‶長男的″存在の平沢大河選手についてお聞きします。近年はケガで思うような結果が出せなかったと思うのですが、今春のオープン戦ではホームランを打つなど、アピールできているようにも思います。

「(ケガも癒えて)ようやく試合に出られるところまできましたね。打撃に関しては元々、選球眼がいいバッターですが、昨年はファームで試合に出ていたものの、なかなか結果に結びつかなかった。打率も1割5分くらいですかね。本人も『これじゃいけない』と思っているはずですし、キャンプから積極的に取り組んでいる姿は見ています。これまでに一軍でヒットを打ったりしていますが、現状はポジションを奪い獲らなきゃいけない立場の選手ですから」

── 平沢選手のここがもっと変わってきたらというポイントがあったら教えてください。

「1年目は外野にも挑戦したり、スローイングで悩んだりする時期もありましたけど、守備はようやく安定してきました。あとは、バッティングですね。やっぱり打たなきゃ、試合には出られません。ライバルに小川(龍成)も入ってきましたし、競争は激しいです」

── 新人の小川選手の名前が出ましたが、それこそ監督が目指す「当たり前のことを当たり前にできる総合力の高い選手」という印象を受けます。

「ゲーム勘がある選手なので、試合になればなるほど力を発揮しますし、『しっかり周りを見られているな』と感じる選手です。打球に対しての入り方も色々な形を持っていますし、攻撃面も含めて、試合の中で"こなしていける"選手だなと。本人は『打撃にあまり自信がない』と言っていますが、しっかりと打てていますし、速球に対しても押さえつけて打てる選手なので、『もっと使ってみたいな』と思える選手ではありますね。このままうまくいけば、レギュラーを獲れるんじゃないかと思わせる選手です」

── まさに本日(3月12日)、オープン戦で登板予定の佐々木朗希投手についてですが、今年で高卒2年目。2021年はどのような期待をかけていますか?

「期待といいますか、ローテーションでしっかり回れるような投手に、とは思っています。昨年はそのための体づくりをして、フォームを固めながら下(2軍)でやってきてくれた。開幕前にもう1回くらい投げさせて、そこからイニングも2回、3回、4回と増やしていくなかで、6回ぐらいまでコンスタントに投げられるようになれば、1軍で投げられるんじゃないかと。それがゴールデンウィークくらいになるのか、夏くらいになるのかは、本人の体のリカバリーも含めて見ていくことになりますね。

 (キャンプからの)ここまでの経過は周りのピッチャーよりもたしかに遅いですが、順調に階段を上ってきています。これからゲームでもどんどん投げていくでしょうし、その結果が良ければ『次も』となる。ファンのみなさんと同じく、我々自身も彼が投げる姿をもっと見たい気持ちがあります(笑)」

── 最後にうかがいます。井口監督が理想とするチームに今、どれくらい近づいていますか?

「理想ですか? 僕は理想が高いので、ここでは言えません(笑)。でも、今シーズンは優勝争いができるところまでチームができてきた手応えがある。あとは我々が支配下登録の70人をしっかりと使いながら、シーズンを戦い抜きたい。チームスローガンにもあるように『この1点を、つかみ取る。』。昨年より細かい野球を、もっともっとチームとして体現していけたらと思っています」